カゼの中で
「ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ……」
動物の鳴き声みたいな咳を繰り返す。
いったい、今日で何度目なのやら、考えるだけでも気が遠くなりそうだった。
昨日から続く頭痛もいまだに健在。いや、健在って言うのもどうかと思うけど。
「ゲホッ、ゲホッ」
こんなことを考えている間にもまた咳が出た。
本当に動物の鳴き声みたいだ。だとしたら、この咳はロバあたりだな。
咳にも周期があるのか、僕は一度咳をし出してから何度も連続で咳をしている。
この忌々しい咳と頭痛のくせに健在な頭痛のせいで僕は今日、学校を休んだ。
学校には親が電話してくれたし、親しい友人にはメールもした。
きっと大丈夫だ。休んだ分の授業ノートは見せてもらえばいい。
ただの風邪なんて一日寝ればすぐに直る。
それにしても…………
なぜ、友人の誰からもお見舞いのメールがこないんだ?
いや、確かにみんな忙しいだろうし、送る余裕も無いかもしれないけど、一言くらい『お大事に』とか返してくれるくらいならできるだろう。
うぅ…………。
止めよう。悲しくなる。
そうだよ、ウチの学校は携帯禁止なんだ。昼になって先生が教室から出ていけば誰かがメールをしてくれるかもしれない。
「で……?」
来ない。
いや、まだだ。まだ、放課後がある。
「で?」
来ない。
うぅ…………。
しょうがない。
来なかったら来なかったで明日の話のネタにでもなるだろう。
「みんな、おはよう」
「おう。もう大丈夫なのか?」
「うん。っていうかさ、なんで誰もお大事にとか返してくれないのさ」
「あ、ごめん。忘れてた」
「忘れるなよ!?」
こんな感じで……。
うぅ…………。なんか、悲しいな。
そう思いながら僕がベッドに横になって携帯を眺めている時――。
「ゴホッ……」
咳が出た。
「ゲホッ、ゲホッ、ゴホッ、ゲホッ、ウェッ、ゲホッ……」
しかし、今回の咳は何かが違った。
「ゲホッ、ゴホッ、ウェッ、ゲホッ……」
そう、今までの咳とは比べ物にならないほどに長かったのだ。
辛い。
苦しい。
痛い。
あぁ、もしかして、僕はこのまま死んじゃうのかな……。
咳の連続で酸欠状態の頭は瞬間的にそんなことを考えた。
どうせ、僕なんかが死んだって誰も気にしないんじゃないか?
その証拠にメールの一通さえもよこしてくれない。
……でも。いや、だからこそ。
まだ、しにたくない。
しかし、もう脳にほとんど酸素がいっていない。
意識も薄くなってきた。
その間にも、咳は延々と出続けている。
苦しい……。
そんなとき。青白い光が僕の視界を塗り潰して――
――目が覚めた。
「今のは?」
僕は、ベッドから落ちた状態で床に寝ていた。
目の前には携帯も落ちている。
夢? 現実?
どちらにしても、眠ってしまっていたらしい。
じゃあ、あの青白い光は?
そう疑問に思ったとき……。
ピカッ
青白い光が目に入った。
その正体は携帯のメール着信を知らせるランプだった。
メールか……。
誰からかな。
携帯を開き、送り主を確認する。
そこには、見慣れた友人の名前。
文章は一言。
『お大事に』
「…………馬鹿」
話のネタが一個減ったじゃねえか。