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ここはなにかが欠けている

騎士団への道のりは

作者: 浮月重月
掲載日:2026/07/30

ここは王都の憲兵隊詰所。

夜も更けた今、若手と新人、二人の憲兵の男が巡回に出発している。


「夜遅くだと、今の時期も結構冷えますねぇ、先輩」


「まあな。オレはいい加減慣れちまったが」


新人は空気の冷たさを紛らわせたいのか、歩きつつ会話を続ける。


「騎士団の人達はいいっすよねぇ、巡回なんてなくて楽そうで。

 オレも憲兵じゃなくて騎士団に入れば良かったかなぁ」


「入れば良かった、って。んな簡単に入れんならどんだけいいか。

 オレは入団試験すら受けられなかったんだよ」


やや不機嫌に若手は返事を返す。


「教えといてやる。入るまでがどれだけ厳しいか」


どうやら新人は、無自覚にこの若手憲兵の地雷を踏んだらしい。



王国にはいくつか「騎士団」と名の付く組織が存在する。


まずは、王国制式騎士団。現在第一から第十二まで存在している。

彼らは王国全土の防衛を担い、他国との戦闘や、地方では手に余る、

大規模な魔獣の氾濫処理や大型魔獣の駆除を主に担当している。


次に、四大名家や有力貴族の抱える各騎士団。

これは各領地の治安維持が主任務で、中小規模の魔獣の氾濫処理、

その地域で完結できる魔獣の駆除に加え、犯罪者討伐も行う。


下級貴族でも領地持ちならば、一代騎士は任命できる。

但しその際部下が一人もおらず、「団」などとは呼べない規模で、

その実態は兵士と変わりない、などという場合もザラである。

こうした一代騎士は、ほぼその領地の身内で固められる。


滅多に外部には出てこないが、王宮騎士団というものもある。

任務は王宮と王族の護衛。他国でいう親衛隊に相当する。

誰が何名所属しているかなどは秘匿されていて不明。


入団するにはどの騎士団にせよ高難易度の試験を受ける必要があるが、

受験の最低条件として「王立中央学院の卒業」が挙げられる。

男女とも、入団時十五歳成人となる王立中央学院卒業生であること。

座学、実技ともに卒業時の成績が求める基準に達していること。


王立中央学院は、貴族、準貴族の子女であれば入学は義務なのだが、

後々貴族社会の一員として、最低限身に付けなければならない物事を、

そこで徹底的に叩き込まれる。


王国憲章に従い、卒業できなければ家督を継ぐ資格は与えられない。

学ぶ内容は多岐にわたり授業は厳しく、入学出来ても卒業が難しい。

貴族であればその後無条件で騎士団に入れる訳ではないのだ。


王立中央学院を卒業していなくとも入団を許される者もいるのだが、

そうした者はほとんどが元々優秀な、最低三つ星の冒険者である。

冒険者が入団した場合、貴族社会の詰め込み教育が待っている。


名誉のためにも言うが、素人が思うほど騎士は楽ではない。

入団前も入団後も、やり遂げなければならない事は多いのである。



「えっ、じゃあ騎士団の人達ってみんな貴族なんすか?」


新人の問いに、若手は頷いて先を続ける。


「ああ。というより、騎士になったら『一代騎士』の位がつくから、

 その時点で元平民でも準貴族サマだな。


 オレは王立中央学院はヒィヒィ言いながら卒業は出来たけどな?

 騎士団に入るためには学院である程度の成績がないと受験できん。

 オレは成績が届かなかった。外国語と政治がダメでな。

 男爵家の三男なんて、政治に関わる事もなかったし。

 だからオレは、制式騎士団入りを諦めた」


「えっ?そんなの騎士に必要ないじゃないすか!?」


「必要あるんだよ。他国の要人警護とか、捕虜の尋問とかな。

 剣の腕がいいだけじゃ、ただの兵士と変わりないんだ」


新人は落胆して俯く。


「はぁ…平民の凡人は大人しく下働きやってろって事ですね」


「巡回中なんだから、せめて前見て歩けよ。

 …それに、憲兵から騎士団に引き抜かれた奴もいるんだ。

 真面目にやってりゃ報われるかもな」


「え、そんな事あるんすか?どんな人なんです?」


顔を上げて問う新人に、若手は返す。


「検挙率の高かった奴らしい。犯罪者十数人とっ捕まえたとか」


新人の明るかった表情が落胆に変わる。


「んじゃダメっすよ。

 ここんとこ大きな犯罪とか聞かないじゃないすか」


若手も少し考え、同意した。


「そうだな。広まった夜間照明のお陰で捕り物減ったもんな」


王都も領都も、最近は治安が夜間照明で劇的に改善した。

喜ばしい事なのだが、出世にはどうやら向かい風らしい。

憲兵隊も、上層部は貴族や準貴族、騎士扱いです。出世には相当時間かかりますが。

この若手の男、籍はあるので男爵家の貴族ですが、その子供からは平民になります。

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