#06 魔力の限界
「ふむ……Fランクか。許可は出すが、勧められんぞ?」
「いいんだ。入れてくれ」
「……仕方ない。気をつけろよ」
ダンジョンの入り口を守る衛兵と多少の会話をし、そのまま一歩、中に踏み入った。
遺跡のような、それでいて天然の岩穴のような。その実態は蠢く大洞窟、地下型迷宮だ。動きを確認することはできないが、地図を作ろうとするとどうしても合致しない部分が出てきてしまうのだとか。
外界と断絶された魔法空間、冷たい空気が俺の頬を撫でた。壁に手を当てると、それもまたひんやりとしているが、どこか熱を帯びているような感じがする。
「これが魔力か?」
《そうだよ。よく分かったね》
我ながら……というのかな。俺という人間はもしかしたら天才なのかもしれない。ただ不思議なのは、この魔力を俺の体内から感じない。こういうのは人も持っているものだと思っていたけれど、案外そういうものでもないのか。
《君みたいな生まれたばかりの存在は魔力を持たないんだよ。少しずつ身体と魂に馴染んでいくんだ》
魔力受容上限と表現すればいいのか……そういうのがないのなら、何十年もこの世界に住んでいる者の方が有利か。ただ転生者が覇権を握っているということは、そうでもないのだろう。
《限界はあるよ。それが魔力総量ってやつね》
「そうか、とりあえず思考を読むのはやめてくれないかな」
限界があるとすれば、恐らくそれも魂の強度によるものなのだろうな。だから転生者の方が強くなると、そう考えた方が分かりやすい。ただそれより、魔力が自然界に存在しているものならば……。
「妖精さん、お前の力を借りれば、俺は魔力を自在に使えるってことかな?」
《私にはね、モルガンって名前があるんだよ。あんまり適当に呼ばないでくれる?》
「それは悪かった」
目の前に映るスライムの群れ。湿ったこの空間をさらに潤すように次から次へと現れる。魔石を取ったとて、さほどの金にはならなそうだ。
「ならモルガン、俺は魔法を使えるのか?」
《初級魔法は特別に許可しよう。本当なら強化魔法しか使わせたくないんだけどね》
「十分だ……!」
不意に口端が吊り上がってしまう。これほどまでに闘争に悦びを感じてしまうのは、力を得てしまったからか、あるいは本能か。俺はもともとイカれた戦闘狂だったのかもしれない。
「風刃!」
手のひらに浮かび上がる小さな竜巻、それを投げることで刃を得た風が高速で飛び出した。イメージだ。たぶん、魔法に……少なくとも初級魔法に必要なのは。
「ああ言った手前、ちょっと恥ずかしいよな」
スライムを蹴散らした後のベタついた迷宮の一室に、ただ一つ乾いて見えた岩に腰を下ろした。もっと魔法を使うなら、魔導書か何かで勉強をした方がいい。ダンジョンで特訓なんて意味があるのか……。
「ん?」
フワッと身体が浮くような感覚がやってきた。全身の血液が沸くような、そんな感覚。そして疲労感もすっかり消えてしまった。
《魔物っていうのは魔力の塊なんだ。それを倒せばその魔力の一部を吸収できる。レイの知識で言うなら、レベルアップってところかな》
「先に言ってほしかったな、そういうのは」
右手を握り、力を確かめる。モルガンは俺に嘘をつかない。少なくとも、真面目な嘘はつかない。ダンジョンでできるのは特訓じゃないな。これはレベリング、経験値集めだ。
「なぁモルガン、このダンジョンは何階層だ?」
《解放されてるのは十階までだね。それ以下は一定のランクが要るらしい》
ダンジョンの唯一のルールってところか? 分からんが、それほどに危険か、あるいは近づかせたくない理由があるのだろう。
「今の俺の力なら、何階層まで行ける?」
《三階層までは安全だね》
となると向かうのは四階層かな。せっかくだから力の限界は把握しておきたい。戦い続ければ触れずとも魔物の魔力も感じることができるようになる気がする。
「じゃあもう一つ。俺の魔力総量に限界は?」
《私がいる限りそんなものはないよ》
決まりだな。異空間鞄に入れてきた食料が尽きるまで、ここでレベリングをさせてもらおうか。腹の奥がウズウズと騒いで仕方がない。
「よし! お前達、俺を二階層に案内してくれ」
《こっちだよ》
《そっちは魔物がいるから気をつけて》
ダンジョン内に住まう妖精達に案内を任せ、俺は二階層に続く階段を降りた。靴が地面を叩く音がずっと奥まで反響し、壁を伝う水滴を振動していた。




