#04 妖精
「新勢力……ね」
叫びたくなる気持ちを紅茶で流し込む。転移したばかりの俺が……世界の中心になれと?
「困惑されるでしょうが、順を追って説明しましょう」
この世界に、“最強”と呼ばれる者は9人いる。内、拠点を持って活動しているのが雫たち、ということらしい。他の6人は世界中を転々としているせいで勢力としては集まりにくいのだとか。
「転生者たちは記憶が無くても似たような存在に惹かれるのか、詳しくは分かりませんが……。そのせいか、シズク、アカネ、カリン…-この3人の周りには転生者が多く集まっているんです」
「……。まぁ、その辺りはなんとなく分かりました」
「実際、彼女たちが何をするというわけではないのですが、大きな力が存在するというだけで威張ろうとする者はいるのです。それが国家……ひいては大陸にまで及ぶと、危険に侵されるのはその勢力の存在しない土地となるわけです」
つまり……ここ、ボーグ大陸は勢力が存在しないせいで侵略されつつある、ということか。
「しかし……社会はそれを良しとはしないでしょう?」
「平等なんてものは、力が均衡だからこそ在るものです。それに危険は何も人間ばかりではありません。悪魔大陸、そちらからやってくる者は力の弱いこちらを狙うことが多いですし……」
「……悪魔ってことですか? 人類の敵なら、他国も協力しようとするものだとは思いますが……」
「戦力を割けばその間に何者かに襲撃されるかもしれない、そのように考えるのは不思議なことでもありません。特に転生者が台頭し始め、荒れてしまった今の世界においては……」
……要は力が必要ってことだよな。守るにしても攻めるにしても……。そしてその中心が転生者だと。
「転生者というのは……どう判断しているんですか? 記憶が無いんじゃ難しいでしょう」
「全てを把握しているわけではありませんが、なんとなく、分かるものですよ。大抵の場合、名前などは魂に刻まれていますし」
……ヘリエス様から名前を貰ったのは良かったかもな。よほどのことをしない限りは異世界人だとは認識されないだろう。容姿もだいぶ変わってるわけだし……。
「じゃあ、2つほど聞いてもいいですか?」
「ええ、私の知っていることなら」
「異世界人の強さの元は何なんですか?」
まぁ十中八九“カード”が原因だろうが……それにしてもだろう。俺に至ってもそうだが、前世での戦闘経験なんて微塵もない。そう簡単に強くなれるものだろうか……。
「仮説の域を出ませんが……転生、つまり異世界からの転移には膨大なエネルギーが必要なんです。それに耐えうる魂だからこそ、強力なカードを持ってやってくる、といったところでしょうか」
……そういえばヘリエス様も魂を保っていたのはわずかだと言っていたか? 要はガビュラに流れ込んだ地球人は全て選別された存在だと。……加えてヘリエス様の加護も受け取ってるってわけだな。
「ではもう一つ。……妖精とは何ですか?」
俺のカード『妖精の歌声』、おおよその効果は認識している。自然に存在する“何者か”の声を聞き、その力を借りることができる。その何者かが妖精なのだろうが……。
「妖精ですか……。そうですね、では順を追って説明させてください」
「分かりました」
単純なものじゃないのか? あるいは一般的に認知されているものじゃないのか……。
「まず、自然界のものの管理者、彼らを精霊と呼びます。火、水、風、花、雷……あらゆる自然物質、そして自然現象には精霊が宿っています」
「精霊……」
まぁアレだな。ファンタジーに出てくるようなヤツって感じの認識でいいのかな。で、妖精と精霊は別物ってことか……?
「そして、精霊の上位種が妖精です。色々とあるのですが……簡単に言えば自然界に力を与えた存在、といったところでしょうか」
「上位種?」
「はい。唯一神ヘリエス様が世界を創り、妖精が機能を与え、精霊が安定させる。炎が熱を持つのは、水が炎を消すのは、植物が水を吸うのは……それらは全て妖精が与えた機能なんです」
「なるほど……?」
まぁ一旦そういうものだと思っておこう。……で、その上で……。その上で、だ。地球だって自然は存在した。つまり、地球にも妖精はいたと? ……分からないな。
「しかし、どうして妖精のことを? 何かご存知なのですか?」
「ん? あぁ、いや……。俺はカードを持ってるんですけど、それがちょっと妖精に関わってるっぽくて」
どこからどこまで真実を話すべきか……。できる限りは嘘をつきたくはないが……もし、もしも俺の力が異端だとしたら……。
「カード保有者でしたか。いえ、予想はしていましたが……なるほど。妖精から力を借りるといったところですか? それならばヘリエス様がお告げを下さった理由も分かりますね」
……あ、そうか。ヘリエス様が“俺を見つけたら何とかなる”とかなんとか伝えてたんだっけか。ならカードについてはさほど気にしなくてもいいかもしれない。
「……ネイ、俺はせっかくだし、あなたの助けにはなりたいと思ってます。が、それはそれとしてヒサバシの3人にも訳あって興味があります。ので、抑止力程度に思ってほしいです。もちろん、まだその域には達してないでしょうが」
「ええ、それだけで私は嬉しく思います。世界平和を、なんて大層なことは言いません。せめて目に映る範囲だけでも守れれば……守っていただければ」
決まりだな。まぁ世界規模の力があれば守ればいいんだろうが……流石にな。だが荒れた世界の原因が地球人ならば……雫たちと協力して収めてやりたいとも思う。




