#01 ガビュラ
「え……?」
神……と言ったか……? まず信じられるような話ではない。普段なら悪質な宗教勧誘だなんだと流す程度には。
しかし今は異常事態だ。信じるも何も……現実として見せられている。夢ではない。
「……神様が俺をこんなところに呼んで……これから何が始まるんですか?」
「いいね。極めて冷静だ。話が通じそうで嬉しいよ」
冷静も何も……そうならざるを得ない。俺は恐る恐る椅子に座って少女に向かい合う。クソッ……よく見ると綺麗な顔だな……。
「まぁまぁ、私を褒めるのはそのくらいにしてくれ。照れる」
「ッ! ……隠し事できないじゃねぇすか」
「安心したまえ。何を知っても私は態度は変えん」
そんなことを言いながらヘリエス様は何枚かの紙を取り出した。よく分からんが、何かが書かれているらしい。
「さて……地球にて巻き起こった第三次世界大戦、その被害者は42億6700万3152。内、60万1009は本来死ななかったはずの人間だ」
「…………?」
「さらにその内、魂を保ってここまで流れ着いた者の数、608。更に正常な記憶を残してここに来たのは君を含め4人だ」
……スケールが大きすぎてよく分からない。それだけの人間が死んだのか? そして俺は記憶を持ってる4人の内の……。
「……その……その4人の内訳は?」
「理解力も充分だね。君と妹たちさ」
「じゃあみんな……!!」
「まぁ待て。大事なのはここからだ」
……浮かせた腰を再び椅子に下ろした。そうだ、俺には今は聞くことしかできない。雫と朱音、花梨と天国に行けるのか……そもそも天国というものが存在しているのか……。
「魂を持ってここに来た608人、それらを全員もう一つの……つまり異世界に転生させることになった。ガビュラと呼ばれる……いわゆるファンタジーの世界ってヤツさ」
「……どうして? 成仏とかではないんですか?」
「もっともな疑問だな。さっき、“本来死ぬはずじゃなかった”と言ったろ?」
ヘリエス様はどこか疲れたような、それでいて困ったような表情を薄っすらと見せた。何か異常事態が起こったのだと、人間の俺でも理解できる。
「線状因子爆弾、アレはね、ガビュラから流れてしまった技術なんだよ。誰がって話じゃないんだけどね、二つの世界が繋がった際にちょっとした不具合がね」
「…………しかしそうなら……俺たちを転生させてしまうのは少しばかり問題があるのでは?」
「おいおい、私を何だと思ってるんだ。その辺のケアはやってるさ。きちんと力は遮断するし、流れてしまった力は因果の下に抹消する」
それなら良かった……のか? 正直死んだ後の世界になど興味はないが……。というか因果を操れるのなら俺たちを蘇らせるせることだってできるんじゃ……。
「それは難しいね。できないとは言わないが、失敗したら存在が消えかねない。ま、君がその方がいいと言うなら試すが?」
「……それなら転生でいい。それより雫たちは?」
「あぁ、記憶を保持した状態でガビュラに転生させたよ。悪いね、場所の特定はできるんだが、あまり肩入れをすると怒られるんだ」
「誰に?」
「世界」
なるほど、まぁ俺の理解できる規模ではないな。……で、あいつらが向こうでちゃんと生き延びていてくれればいいが……。
となると俺がガビュラに飛んで真っ先にやるべきことは……。
「早いとこ転生させてください。向こうの世界もどうせ危険なんでしょう?」
「あぁ、そうだね。あ、そうだ。君に渡すのはコレだよ」
「……?」
ヘリエス様から投げつけられたのは一枚のカード……何も書いていないけれど、どうしてか、理解はできた。たぶん、そういうことだ。
「それが私が君に与える新たな“カード”だ。『妖精の歌声』、転生したら魂に刻まれる。要望はあるかい? 顔と体格ぐらいなら手をつけてやろう」
「……いや、要望はないです」
「そうか、なら私好みにしといてやる。さぁ行っといで。君は一足遅れての出発だから、頑張るんだよ」
「え!? そ、それってどういう……!!」
ヘリエス様が何やら意味深なことを言ったかと思えば、俺の足元にはぽっかりと穴が開いた。重力……と表現すべきかも分からないけれど、とにかく落下する力によって引き摺り落とされた。
「うぉおあああああ!」
「そうだ。詫びと言っちゃなんだがね、君には特別に、私直々に名を与えよう。向こうではレイ・リオロットと名乗りなさい」
「……!? な、なんだって!?」
上空から声がした……気がする。何を言ったのか聞き取れなかったが、名前だ。俺は新しい名前を貰った。
が、今はそれどころじゃないだろ。絶賛落下中だ。1000も2000も超える空の上から落とされた。何とか……何とか受け身を……!
「か、“風の精霊よ! 俺を受け止めろ”ぉおおお………!」
ドスッ……
広大な森の中心、俺は何の受け身も取れずに硬い土に突き刺さった。
「ぶはっ! 痛っっってぇ!」
すぐに俺は身体を持ち上げて頭を抱えた。あんの……女神め! 人間が落下して無事なわけが……? 怒りと焦りで冷静さを欠いていたが、思えば無事だな。
「……じゃ……ま、いっか」
さて、まずはここを出なければな。……どこだ? ここは……。




