#10 レン・イェロレット
——精霊は案外、気さくな存在だ。こちらが真摯に向き合えば、あちらも真摯に応えてくれる。だからこそ、ないがしろにしてはならない。魂の友だと思って、親しくなる必要がある。
ペットのような存在だと思ってはならない。相棒だと思わなければ、彼らは私たちを見離すこととなるだろう。精霊と触れ合う素質がありつつも、態度がなっていないために見捨てられた者たちを私は何度も見てきた。
精霊術とは、精霊の力を借りることだ。私たち人間が魔法を使うように、精霊も似たような力を使える。精霊に力を行使してもらい、それを人間の力として引き出す、それが精霊術の基本だ。
「……んん、なるほど?」
それ以降も長々と書かれていたが、全部を読むのは少々参る。今はこのあたりにしておこう。
「つまり、精霊と心を通わす必要があるってことか」
《そゆこと!》
ただ俺は精霊と言葉を交わすことはできる。そして、それなりに雑に扱っていてもモルガンは俺のために動いてくれる。調子に乗ると痛い目を見るだろうが、やはり普通に考えるのはよした方がよさそうだ。
「モルガンは、どんな術を使えるんだ?」
《色々使えるよ? ただまぁそうだね……今のところ扱いやすそうなのは重力とかかな?》
「……重力ね」
いよいよモルガンが司るものが分からなくなってきた。口調からするに扱えるのは重力だけではない。その他に何を扱えるのか、それが難しいところではあるが……。
「じゃあしばらくはそれに頼るよ」
《ふふん、そうしなさい》
えらく上機嫌だな。……俺ももう少し、丁重に扱った方がいいのだろうか。
《じゃあレイ、これからの動きを確認しよう。君が強くなるための話を》
「お、直々にご指導ですか。嬉しいね」
寝ようと身体を倒していたが、そんな言葉にすぐ起き上がった。恐らく、ダンジョンで鍛える、という単純な話ではない。もっと俺に合った……。
《レイにはね、根源の精霊を集めてもらおうと思うんだ》
「根源の精霊?」
《そ。精霊って一括りで言ってもさ、まぁ色々いるわけだよ。そんな中で、始祖とも言える存在を見つける必要があるんだ。ま、いわゆる大精霊だよね》
大精霊……言葉の通りに受け取るならば、精霊の長のようなものか。精霊の間にも序列みたいなものがあるのかな。
《伝記の真ん中らへん、開いてごらん》
「真ん中?」
促されるまま、俺は再び本を開いた。大精霊……大精霊……。文字の行列からそんな単語を見つけるのは簡単ではない。
「あ、あった。えーっと……」
——大精霊、それは簡単に言えば精霊の祖。私が初めてあったのはウリエラの大火山に赴いたときだった。世界を作った精霊、その指揮者。その者が持つ力は、それ以外の者のそれとは一線を画していた。
火炎、氷水、森林、大地、天空。それ以外にも時空間や心霊など、色々といるわけだが、よく知られているのはこの辺りだろう。
「……なんか、結構曖昧ね」
《君が文の前後を読んでないからでしょ》
まぁつまり、大精霊は他の精霊と比べて強大な力を持ってる、というわけだな。たぶん、一定の土地に縛られる存在でもないのだろう。だから親しくなって、同行してもらおうと。
「……モルガンって大精霊だったりする?」
《ん? んん……似たようなもんかな》
よく分からんが、まぁ大物だということだろう。知識も多いし、俺のことも積極的に助けてくれる。いい仲間を得たものだ。
「で、どうしろと?」
《落ち着いたらね、世界樹の森に行こう。世界樹・ユグドラシルの近くに、たぶん森林の大精霊がいるはずだよ。まずはあの子から仲間にしよう》
「森林の大精霊か……」
雰囲気から察するに、たぶん木の精霊の上位存在だろう。明後日はダンジョンに行くとして、とりあえずの目標はそこだな。
「……ねるよ、モルガン。おやすみ」
《んー。おやすみー》
最後に少し気になったのは、伝記……というか自伝のとある言葉。
——あぁ、そういえば、前に精霊を大切に扱えというようなことを言っただろう。アレは事実だが、少し訂正をしようと思う。
確かに、精霊と交流できる存在でも、彼らに嫌われてしまえば精霊の力は使えない。が、少し特別な者もいる。
それは精霊に好かれる存在だ。私のように無条件に精霊の力を貸してもらえる存在が現れるかもしれない。その場合、多くの精霊はその者に心酔することになる。これを読んでいる君がもしそうならば、これは先輩としてのアドバイスだ。
精霊の理念や思考の根に触れようとはしない方がいい。それが影響して世界の理を捻じ曲げてしまいかねないからだ。
「……ふふっ、言ってくれるな。転生している時点で相当、理を曲げてしまっているが……」
俺の隣には気の強い精霊がいるから、その心配はなさそうかな。




