#09 精霊術
「帰りましたー……。ネイ?」
屋敷に着いたが……やけに静かだな。まさか留守にしている、なんてことはないと思うんだが……。
「あ! レイ様、お帰りなさいませ! すみません、少々お掃除をしてまして……どうぞお上がりくださいな」
「……あ、はい」
エプロン姿のネイが玄関まで駆け寄ってきた。なんとも目の保養になる……いや。それより当主が掃除してるってどういう状況だよ。
「お疲れですか? シャワーならご自由にしていただいて構いませんよ。ちょうど妖精に関する文献を探していたんですが……すみません。なかなか……」
「あぁ、そういうことでしたか。そのことならもうだいたい解決しましたから、気にしないでください。どちらかといえばその……今は魔導書とかありますかね?」
「そうですか! えぇ、魔導書についても役に立つんじゃないかと、用意させていただいてます」
「そっか! ありがとうございます! じゃあ失礼ながら、俺はシャワーを浴びてきますね」
「はい、どうぞごゆっくり。上がったら私のところに来てください」
ふぅ……屋敷に戻るとただそれだけで疲れが落ちる気さえする。まるで実家のような……思えば生前、祖父母の家には行けなかったな。
「うぁ〜……疲れた。ネイー! 上がりましたー……けど……」
「レイ様! こちらです、こちら。鍵は空いてますわ」
あぁ、あっちか。応接室……じゃないな。自室か? まぁ入っていいと言うのなら、何も躊躇いもしない……が……。
「ん? あぁ、これが……」
「はい、魔導書です。ご覧になるのは初めてですか?」
「はい、なかなか不思議なものですね」
書に記されているのは魔法陣とその説明。初級魔法はイメージがあれば簡単に発動できたけれど、中級以上はそれなりの理論も必要とされる……らしい。やっぱり勉強も必要なのかな。
《魔法はダメだって》
「うおっ!」
「……? いかがなさいましたか?」
「あ、あぁ、いや。なんでもないです」
いきなり話しかけてくるなと、注意しなきゃならんかね。いつかとんでもないことを口走りそうで……。ただそれも難しいか。
(魔法がダメというのは?)
《レイ、君にはね、私がいるんだよ。どうして精霊魔法……精霊術を使おうとしないかね》
(……精霊術?)
《そー! 自分の魔力使うなんてね、ナンセンスだよ、ナンセンス。せっかく精霊という偉大な存在がここにいるんだし、そもそもねぇ……》
長々と語っているけれど、要は一般的な魔法よりも精霊術の方が強力だってことか? いや、たとえば魔力消費や魔法陣の計算なども肩代わりしてもらえるとしたら……。
《まぁ認識はそんなもんでいいよ。精霊は君の力になりたがるけど、嫉妬深いからね。下手に基本魔法ばっかり使ってたら嫌われちゃうよ》
(……肝に銘じておくよ)
《ま、私だけは見捨てないであげるけどね》
(惚れちまうな)
ダンジョンで言ってた、“使わせたくない”ってのはそういうことか。そういうことなら……まぁ……魔法を使おうとは思わないが。じゃあ明日いっぱいはモルガンとちゃんと話でもするかな……。
《あら、デートでもする?》
(いっつもしてるようなもんだろ)
《積極的じゃん。照れちゃうよ》
んん……と、なると。まぁ今日は寝ちゃおうか。不思議とさほど腹は減っちゃいないし、今は疲労しか感じない。魔導書を読む必要……というか理由もなくなってしまったし。
「すみません、ネイ。これだけ掘り出してくれたようですが、精霊術に力を入れようかと」
「なんと! それは素晴らしいことですね! でしたら……そうだ、こちらを持って行ってください。精霊術について、何か助けになるかもしれません」
精霊の……いや、違うな。誰かの伝記か? レン・イェロレット、有名な人なのだろうか。これが助けになると言うのなら、精霊術の使い手だったんだろうということは分かるが。
「お部屋は向かいの空き室を使ってください。朝食は準備するつもりですが、起こしに向かわせましょうか?」
「そう……ですね。あまり寝坊するつもりもありませんが、もし寝ていたらお願いします」
「分かりました。それではごゆっくり。もし何かあれば執事にでもお声掛けくださいね」
「何から何まで、助かります」
空き室とは言うものの、なかなか整った……というか、準備してくれてたのか。わざわざ……頭が上がらないな。
「さて……」
ここなら多少は声を出しても問題ないか。この伝記に精霊術のことでも書かれてりゃいいんだが……。
ページを一枚めくると、やはり、それは嫌になるほどの文字列だったのは言わずとも分かるだろう。




