#00 転生前夜
「ハァ……ハァ……。みんな……頑張れ!」
俺、久橋怜は3人の妹を引き連れて廃墟となった街を抜け出そうと走り続けていた。
肺が重たい。足がもつれる。口の中に鉄の味がいっぱいに広がる。なんで……なんで真面目に生きてた俺たちがこんな仕打ちを受けなきゃならないんだ……。
もうすぐ……もうすぐで山へと入れる。あそこなら……もしかしたら……。
「うっ……! お、お兄ちゃ……!」
「花梨!」
一番下の妹、花梨が瓦礫につまづいてしまった。いや、それ以前の問題だった。もう何分も走り続けている。わずか7歳の花梨にとっては……。
「ハァ……ハァ……。大丈夫だ! 兄ちゃんがおんぶしてやるからな!」
「う……ごめんね、お兄ちゃん」
「謝るは後! まずは助からないと」
「そうだよ、花梨ちゃん」
足を引っ張っているという事実を幼いながらも理解していた花梨を、長女の雫と次女の朱音が励ました。
「姉ちゃん達の言う通りだ。謝りたいなら、まずは助からないと……」
精一杯の笑顔を見せて花梨の右手を引っ張った。肩に回し、持ち上げようとしたその瞬間……
“…………ズドン! ドカァ……ン”
その日、東京の真っ黒な空から、幾千、幾万もの鉄の線が雨のように降り注いだ。
【西暦2262年4月17日14:45】
日本の空を覆う無数の戦闘機が線状因子爆弾を投下した。悲鳴を出すことも周辺の惨状を視認することもできなかった。
ただ痛い。苦しい。皮膚が爛れ、眼球が転がり落ちた。
妹たちの声無き悲鳴が脳を刺すようだった。そして俺の悲鳴は自らの肉体を崩壊に導いた。
科学の進歩とは時に残酷で、時に必要悪にもなる。
その日、東京の、いや、日本から生命だけが綺麗に消え去った。もちろんその被害は日本ばかりではない。アメリカ、ロシア、イギリス、中国……。
線状因子爆弾の投下された国、都市の被害は未だかつてない数にまで上った。
そして日本の犠牲を最後に、この歴史上最も悲惨で巨大な戦争が終結した。
【西暦2262年4月17日15:00】
敵国消失により、第三次世界大戦、終結。街、及び国の建造物は依然、悠々と構えている。
* * *
肺が溶ける。皮膚が剥がれる。刺されるような痛みが全身に、そして身体の外側に溢れ出す。
潰れた喉からは声も出ない。消えた耳では妹たちの声も聞き取れない。
原型を失った俺の身体は、魂をそこに留めることができなくなった。
「ハァ……ハァ……。……え?」
気づけば知らない空間に放り出されていた。どこまでも白く、眩しい……部屋? いや、どうにも違う気がする。
思えばもう身体に痛みも走らない。
(雫! あか……!?)
妹たちの名前を呼ぼうとしたとき、やっとその異常性について理解した。俺にはもう身体がなかったんだ。声が出せない。何も……触れない。
(は……はは……)
死んだ……ってことか。雫も朱音も花梨も……俺が守るべきだったみんなを、ただの1人も守ることはできなかった。
「“声を与える”。えーっと……君で最後だな。久橋怜」
「? ……誰……!?」
振り返ると布を纏っただけの少女が立っていた。いや、それより、俺に声が宿った。生まれて死ぬまで聞いた声、間違いなく俺の声が、俺の魂から発せられていた。
「まぁまぁ、順を追って説明しよう。とりあえずホラ、座りな」
「ッ……!」
突如、俺と少女の目の前に椅子とテーブルが出現した。何だ……何が起こっている……? それに気づけば俺には身体があった。
「そうだな、まずは自己紹介といこうか。私はヘリエス、色々とあるだろうが、まぁ神だと思ってくれればいい」




