記憶
三題噺もどき―ななひゃくきゅうじゅうきゅう。
※最近ツンデレという言葉を知った吸血鬼さん※
※吸血鬼さんは納豆嫌いです※
気付けば、あっという間に暗くなっていた。
つい先ほどまで、橙色が空を染めていたはずなのだけど。
空の端には、三日月とも半月ともつかない中途半端な形の月が浮かんでいる。
「……」
それでも時折、はしゃぐ声が聞こえてくるのは気のせいだろうか。
もうこんなに暗くなっているのだから、さっさと帰らなくてはいけないだろうに。
住宅街とは言え、何があるかわかったものではない。
どこにだって変な奴というのはいるのだ。アレと同じように。
「……」
少し前に起床して、朝食までの時間をつぶす間、窓際でぼうっと座っている。
窓を開けているけれど、あまりにも冷たい風が入ってくるから閉めようかと思っている。
……ベランダに出てもよかったのだけど、なんとなくそんな気分にもなれず。何より寒いものだから、止めておくことにした。窓を開けて居れば一緒だが。
「……」
何も考えずに、ぼうっとしていると、色々な事が走馬灯のように流れ出す。
ここ数日は決まって、アレの事だから、嫌なものだ。
あの日消えた真っ白な亡霊が、嫌に頭の中に居残っていて気味が悪い。
どうせ、あれも嘘なのかもしれない。アレは、基本的にうそつきなのだ。
「……」
けれどあの時に見せた顔が、いつもと違ったことも、確かだった。
まぁ、そんなに断言できるほど顔を合わせているわけではない。何せ、一度襲われているのだから、そんなことは出来ない。というか、家のがさせないからな。
「……」
それでも、突然現れたあの日から、何度か顔を合わせたのは事実だ。
なんだかんだと。
たいした会話をした記憶もないが。
「……」
……こんなことをしていると、自分がやけに女々しく思えてくる。こんなタイプではなかったのだが、何をそんなに思い出に耽るようなことがあるのだろうかと自分でも不思議に思う。そのうち忘れる事を、何度も繰り返して何になると言うのだろう。
思いだすのなら、楽しい記憶であってほしいものだ。
「……」
そんなものがあれば、そうするのだけど。
「……」
まぁ。
ない。
わけではない。
「……」
今台所でいいにおいを漂わせながら、朝食を作っている、アイツとの、家の従者との、私の唯一の家族との、記憶がある。
楽しいものばかりでもないが、何もない、普通の日々が、積み重ねてきた日々が、確かにある。
「……」
柄にもないことを言うが―幼い私は幼いなりに、王子みたいだなんて思ったこともあるのだ。私はそんな可愛らしい少女でもなかったのだが。
「……」
何もできずに、何も抗えずに、あの時計台の中で生死を繰り返していた日々から。
連れ出してくれたのは、アイツだった。
その後も、逃げながら、小さな幸せを教えてくれたのも。
こうして、何気ない日々を積み重ねて行けるのも。
全部。
「……」
まぁ、もちろん。
優しいばかりではない。むしろ最近は、なぁ……それもこれも可愛らしいと思わなくもないが……まぁ、愛情の裏返しだろう。
「……」
「……なんですか」
無意識に、視線が台所に向いていたらしい。
こちらに気づいたアイツと、ぱちりと目があってしまった。
主人を睨むって、どんな従者だろうな。
「……なにも」
「……もうすぐできますよ」
呆れ交じりに、そう応えた。
「……」
いつまで、この日々が続くだろう。
いつまで、幸せに浸っていられるだろう。
ぬるま湯のような、この日々に。
「……ん、和食だ」
「味噌が余っていたので」
「……つんでれか?」
「……納豆食べますか?」
「大丈夫だ」
お題:王子・うそつき・台所
アレは、だしに使われたという事ですね(*'▽')




