第99話 野球拳と開会式
本日4話目
「やーきゅーうーすーるならー!」
「SO IU GUAI NI SINA SANSE!」
「アウト!」
「SAFE!」
「『よよいのよい!』」
「しゃあ!」
『オーマイゴッド!』
オリンピック開会式まであと数日。ほぼ全ての選手団が到着したオリンピック選手村は賑わいを見せていたが、その中でも群を抜いてさわがしげふんげふん。やかましげふんげふん。賑やかなのは、憩いの場として用意された広場でレクリエーションを行う一団だった。
『はい、じゃあボッシュはジャージを没収だね。パンツまでは勘弁してあげるけどこの負け犬看板首に下げてそっちの隅っこに並んで座っててね』
『お、オーケーボス……ぐすん』
『ほかにうちの先輩をナンパしたいって奴は居ない!? 僕を3回じゃんけんで負かせばデート権ゲットだよ!!』
そのレクリエーションの主催たる僕、権藤あまねは敗北者の列に目を向けながらそう大声で周囲に尋ねる。視界の先には先輩たちへのデート権を求めて僕に挑み、そして敗れていった牙を抜かれた(半裸の)狼たちの死にざま(死んでない)が一列に正座して並んでいる。
この光景を見て更に僕に挑もうという輩は居ないみたいだ。うんうん。叶さんが撮影する動画の撮れ高にもなったし協会のお偉いさんからお願いされた件も片付いた、一石二鳥のイベントだったね。
「野球拳なんてなんで知ってるんですか?」
「野球やってるから、かな」
そんなウィンウィンの状況の筈なのに呆れたような声で尋ねてくる叶さんに、僕は至極真っ当な答えを返す。事、野球と名の付く競技で僕は最強の女子選手であるんだから当然野球拳も知ってるし最強なんだよ、叶さん。 ふんすふんす。
まぁ、種を明かすと集中してみれば相手が何を出そうとしてるか手を見てたら分かるんだよね。だからそれに合わせてぐーちょきぱーを変えればじゃんけん無双の権藤あまねが誕生するってわけだ。カンニング? いやいや。単に反射神経が良いだけだよ。アスリートが反射神経で負けたんだから文句なんて言えないよね?
それに遊び感覚じゃなくて真剣に先輩方を口説こうとしてる人なら僕だってお目こぼしできたんだけどね。ただ、明らかに粉かけられたらヤバそうな先輩がいるんだよなぁ、真中パイセンとか。
「というか、なんであまちゃんが野球拳を? その。貴女はほぼ最年少ですし、むしろ守られる側に居るべきじゃ」
「え。僕以外がこれやったら間違いなくガチ目にこじれそうだからだけど。色恋の恨み節は怖いよ?」
「恨みって……」
「基本的にアスリートってわがままだよからね。お祭りでタガが外れてるならなおさらだよ。僕はコメディアンと思われてるからこういうイベントごとにしちゃえばノせやすくなるし、誤魔化しが楽になるんだ。ほら、あんな感じに」
「うわ……」
僕と叶さんが話してる間にも、この負けたら脱ぐじゃんけんというのが面白がられてあちらこちらで野球拳が始まってる。暇なんだよ、みんな。だから人間の三大欲求に素直に従っちゃうんだろうね。
真中パイセンとか軽く口説かれただけで顔真っ赤にしちゃってたからな。流石に危ないからついつい僕も貼り切っちゃったよ。むしろ真中パイセンより年下のリリーナちゃんやあすみちゃんの方があしらい方を知ってるくらいだったし。同じ大学生でも米国代表のナタリーはアメリカ国旗柄のビキニつけて堂々と選手村歩いて近寄ってきた男どもを手のひらでコロコロしてたし、どんだけ純粋培養で育ったんだろうね。真中パイセン。
年下に目を向けてもあすみちゃんは見た目が派手派手しいからナンパとかは慣れてるし、逆に年齢言うと相手がさぁっと引いていくから視てて面白いんだけどね。真中パイセンは視て楽しむというより守護らなきゃって思わされるから仕方ない。権藤あまねさんが一肌脱ぐしかないかって思っちゃうんだ。
さて、そんなこんなでオリンピック開会前から忙しく働いている権藤あまねですが、開会式では日本選手団の先頭を歩くという栄誉を賜る事になりました。旗手だから元々その予定ではあったんだけど、日本選手団でも一番目立つポジションだからね。気合も乗るってもんだよ。
オリンピックの選手入場は最初は発祥の地ギリシャ選手団。これは毎回決まっていて、その後は開催国によってアルファベット順だったり色んな順番があるんだけど、今年は中華開催って事で頭文字の画数の順で入場していくことになる。日本は日だから4画で10番目の入場だ。事前にリハーサルはしっかりしてあるから、入場のタイミングも完ぺき。おらおらおら! 最強日本選手団のエントリーだぞ!
『『『AMACHAAAAAAAAN!』』』
『『『MAKYUU!!!』』』
日本選手団が入場した瞬間、爆発的に歓声が沸き上がる。おかしいな。日本選手団の入場なのに明らかに中国国旗持った人とかが歓声上げてるぞ? あとなんだかメイン会場に備え付けられてる大スクリーンの映像がずっと僕を映しっぱなしなんだけど。あの、もう少し日本選手団も映してもらえません?
「いやぁ。知ってたけど、びっくりするくらい外国でも人気なんだね」
「まぁ、可愛いですからね。僕」
「そこもまぁ、あるかもだけど、まぁ、うん……」
日本選手団の主将、東選手は僕の言葉に奥歯に何かが挟まったような物言いをして黙り込んだ。あれ。なにか認識の違いがあったのかな。可愛くて強くてちょっと面白い女の子なんて人気者いがいのなにものでもないと思うんだけども。
まぁ様子の可笑しい東さんの事は置いといて、決められたとおりのルートで会場を歩き指定のポイントに整列。日本人はこと整列に関しては義務教育のレベルで教え込まれてるからね。璃々整然とした日本選手団の姿に観客はくぎ付けみたいだ。ほとんどのカメラがこっち向いてるもんね。
よし、これだけ目立てば僕の知名度も更にアップは間違いないな。この調子で注目度を上げて記者会見の際には2言目に1回くらい夢は甲子園出場って言って既成事実作ろうっと。




