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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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第96話 げいのーじんはいばらの道

本日1話目

「今年もハラキリトルシニアは勝ち上がれたねぇ」


「割と危なかったけどな」



 ここ3年、毎年恒例行事になりつつあるハラキリトルシニアとマンネリトルシニアの対決は、今年もハラキリトルシニアの勝利で幕を閉じた。ケーちゃんとあすみちゃんの投げ合いは基本的にケーちゃんが有利だからね。打線の差で。


 あすみちゃんが僕を敬遠してたらあすみちゃんにも勝機はあったかもしれないけど、まだ未完の大器だった1年の頃なら兎も角中学3年生。体の成長も穏やかになり、ある程度完成が見えてきた山田シャーロットあすみが僕との勝負を逃げる筈もなく。ホームランこそ打たれなかったけど、塁に出た僕をコーちゃんとケーちゃんが返す形で点を取り、最終的には3-2での決着だった。マンネリトルシニアの2点は塁に出たあすみちゃんをトロ子ちゃんが歩いて返したものだね。やっぱりここぞって時のトロ子ちゃんは怖いよ。絶対に爪痕刻んでくるもん。


 今年の勝負は、どっちが勝ってもおかしくないものだった。トロ子ちゃんはあすみちゃんを日本最強の女ピッチャーに仕上げるって言ってたけど、その大言壮語にも納得できるレベルにまであすみちゃんは来てるね。



「まあ? もっとも? 世界最強の女投手は僕なんですけどね??? あ、こら頭ぐしゃぐしゃすんじゃないよのっぽ女! 負けたからって腹いせ!?」


「やかましい! 私はアンタに負けてないわよ!」


「本当におバカだなぁあすみちゃんは。ピッチャーの勝利はチームの勝利。チームを負けさせたあすみちゃんは敗北者なんだよ?」


「ムキーッ!」



 僕の真理しかない言葉に二の句が継げなかったのか、あすみちゃんが地団駄を踏んで悔しがってる。くくく。チームとして負けたのは事実だからね。プライドの高いあすみちゃんはこのりろんだと絶対に反論できないんだよ! 



「まぁあまねきも投手として勝ったわけじゃないっスけどね」


「いきなり背後から刺さないでくれる???」


「ケーちゃん……!」



 勝利の余韻に浸ろうとしていたら裏切ってきたケーちゃんの言葉に、あすみちゃんが顔を真っ赤にしてケーちゃんに潤んだ瞳を向けている。カーッ! 卑しい! 卑しい女だね! そこまでわっかりやすい反応示しといて未だにデートにすら誘えないなんてとんだ恋愛弱者だよ!


 まぁ、そんな恋愛弱者の事なんてどうでもいいんだ。大した問題じゃない。本当の問題というのは、この後。夏休みに入ってからやってくるからね。







 でっかい会場を借り切って、計500人超えの選手団が一堂に会する。結団式という名目でほぼ全ての選手が集められた会場の舞台上で、僕は複数のカメラに囲まれながら日本団旗を受け取っている。オリンピック初参加なのにいきなり役職を振られたんだけどどういうことだろうね!


 こういうのって確か複数回出場するような有名な選手とかが担当するもんだと思ってたんだけど、ポッと出の僕が任されるポジじゃないでしょ。そこんとこどうなんですか日本選手団主将の東さん(柔道男子100kg超級代表)。



「知名度で君より上の人が居ないからじゃない? スポーツ選手と言っても、人気商売だからね」


「あ、実力はあるの当然って意味ですね。分かります」


「それはね。オリンピックに出るんだからそこは当然。その中で更に国民人気が高い人を前に出さないと応援が貰いにくくなるからね。どれだけ応援してもらえるか、支援してもらえるかってのはアマチュアスポーツだと本当に大事なんだよ。プロ側に9割足突っ込んでるあまちゃんには分からないかもしれないけど」


「僕、野球でお金はもらってないですからね???」



 バリバリメダル候補のこの人がこう言うって事は、つまりそういうことなんだろう。一昨年の世界大会の時、僕が参加するか否かでキャプテンの一色さんが目の色を変えてたけど、スポンサーの数で衣食住のランクは跳ね上がるんだよね。ツアーの時に他国の選手とかにも聞いてみたけど、僕が参加する大会やツアーの時は明らかに運営側の力の入れ具合が違ってるんだよ。


 米国の時なんか僕らだけじゃなく米国チームも超高級ホテルに無料滞在してたけど、あれがどの国でも近しい感じの事が起きてたと思ってほしい。運営側がそこまでやっても利益が出るくらいには効果が高かったって事だから、スポーツは人気商売ってのは確かな事なんだ。


 しかも今回はオリンピック。その人気商売の最たる祭典なわけだからね。飛び交うおぜぜもワールドツアーの比じゃないし、オリンピックの運営団体も力の入れ具合が違う。というか僕を日本選手団の役職に据えろ、とかは多分運営側からの要請な気がする。お陰で僕は開会式から閉会式まで現地に居る事になったからね。


 そしてその間のマスコミ対応なんかも僕が割り当てられたというか、選手団に張り付くマスコミにプロデューサー兼カメラマンさんがしれっと混ざってるんだよね。明らかに僕との折衝担当でしょ、あれ。



「あまちゃんが学生じゃなかったら主将もお願いしたかったんだよなぁ……マスコミ対応苦手だよ、俺は」


「僕だって得意って訳じゃないんですけどね」


「いや、あまちゃんはその道のプロだしマスコミを手のひらでコロコロ転がすのは得意技でしょ?」


「僕、世間様にどういう目で見られてるんだろうね」



 割とマジで言ってそうな東さんの態度に、僕としては自身の存在について深く考えさせられる会話だった。あとマスコミは一番面白そうな話題にまっしぐらに食いつくから、転がすんじゃなくて餌を目の前にぶら下げて目的に向かって走らせる存在だってのがプロデューサー兼カメラマンさんのくんとーを受けた僕の認識だよ。


 金ちゃん監督はこれに情と利で要所を掴めばなお良しって感じだったから、げいのーじんは大体この認識だと思う。こんな事を考えながら、その上で大衆を満足させる芸を身につけなければならない。げいのーじんはいばらの道だよね。


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