第93話 北埼玉デッドボールのゴールデンウィーク
本日3話目
「ゴールデンウィークお疲れさまでした」
「今年のゴールデンウィークはあんまり試合なかったんですね」
「うちのチーム、忙しい人が多いしね。本業をおろそかにしちゃいけないって事で週1以上は試合は受けない事にしたの。あまちゃん以外は交代制にしてるんだよ?」
「なんで僕だけ例外なのかは後で詳しくお話ししましょうね???」
いつの間にか突入していたゴールデンウィーク最終日。北埼玉デッドボールの試合は例年よりも少なめだったので、僕もゆっくりとした……いやしてないよ。僕、なんだかんだメディアへの応対とかあれやこれやでめちゃめちゃ忙しいよ。
なんで忙しいのかというとまぁこれは分かりやすくオリンピックに出るからなんだけどね。世界大会や去年のワールドツアーでの大活躍により、僕は女子野球日本代表の顔みたいな扱いを受けてるから仕方ないんだけどね。カーッ! 人気者だから! 僕人気者だからなー! カーッ! 暇なあすみちゃんが羨ましいなぁ!!!
いやマジで。同じ日本代表なのにあすみちゃんは毎日朝に縦ツインドリルをセットする時間があるのに、僕はこのゴールデンウィーク中朝から晩まで駆けずり回って取材に写真撮影にと八面六臂の活躍をしてるんだからね。
「ま、大変なのは分かってるからね。だから北埼玉デッドボールの試合も減らしたでしょ?」
「毎試合出番があるの僕だけみたいですけどね???」
HAHAHAHAHA!
僕と金ちゃん監督のやり取りにガヤ笑芸人さんが渾身のガヤ笑を披露してくれるけど、僕としては割と今の会話は本音のつもりだったんだけど。ただ、去年のワールドツアーの時みたいに僕も毎試合出れてるわけじゃないからね。TVを通して公共の放送に流す以上はあんまり不確かな事を言わない方が良いって思ったんだ。
「その年でコンプライアンスまで弁えてるのかぁ。うちの一門は安泰だな」
「僕は一門入りした覚えないんですけどね???」
HAHAHAHAHA!
いやこっちも割と本音なんだけど、僕がこれを言うと皆「またまたぁ」みたいな調子で笑っちゃうんだよね。まぁ、僕のげいのーじんとしての基礎は金ちゃん監督とブーさんを参考にしてるから、そういう意味だと師匠って言っても良いんだろうけどさ。
なんてだべってる間にもう一人の師匠枠が出番が欲しそうにこっちをチラチラと見てる。最近は動ける筋肉デブ枠になりつつあるブーさんがそろそろ派手なのをお求めらしい。北埼玉デッドボールはエンタメ重視の実力派野球クラブという一見矛盾する要素を両立させた球団だが、試合の外から金ちゃん監督が、内からはブーさんのようなプロの芸人さんが試合の空気を読んでその都度適切な対処を行い成り立たせている。
今の合図は試合の空気が停滞してきた。つまり盛り下がりが酷いから景気づけをしろという合図だ。もちろん僕だけじゃなく金ちゃん監督もそれに気づいているから、彼は「うーん」と唸り声を上げ始めた。
「どうしたの監督。レコーディング行く?」
「新曲の予定はないかなぁ。どうしたの急に?」
「いきなり渋い顔してうんうん唸ってるから。レコーディング、つまり音入れだよ」
「これは親父ギャグと言って良いのか悪いのか。いやね、サードの辰樹翼くんってアイドルじゃん」
「うんうん」
「ファンサービスも兼ねて一部ユニフォームを変更しようかなって思うんだよね。ふんどしとかどうかな」
「やめたげてよ。ほら辰樹さんめちゃめちゃ嫌がってるじゃん。というかそれ全員がやるの? 流石にセクハラで出るとこ出るよ???」
注目度が高くなった去年くらいから、運動が出来る男性アイドルもチームに参加するようになった。もちろん年に3回行われている入団テストを突破した人だけが参加できるんだけど、去年の入団テストからはエンタメ枠と実力枠で採用するようになってるから、喋れて笑いが取れる人ならそこそこ動けるくらいでもチームに加入は出来るようになってる。サードの辰樹さんが入団テストを受けた時も結構話題になったみたいで、裏で金ちゃん監督がすっごい悪ぅい笑顔を浮かべてたのは忘れられないね。
あ、とはいえ試合の中でどう使うかはもちろん実力次第だよ。レギュラーには実力枠の人が多いから、少しでも出番が欲しい人はいっぱい努力してレギュラー枠を勝ち取るのがこのチームで目立つ一番の方法なのは変わらない。ブーさんみたいにね。だからこの試合でサードに居る辰樹さんはエンタメ枠でも上澄みの、実力派アイドルって事だね。
あ、このふんどしの話は流石にお蔵入りになったけど、TVで見てた視聴者からぜひやってほしいって要望が山のように来てたらしい。そういう良い反応が返ってくるとついつい何かしたくなるのはげいのーじんとしての性なのか。金ちゃん監督はプロデューサー兼カメラマンさんと協議した結果、次の試合で全身鎧武者姿の辰樹さんを登場させることにしたようだ。
いやなんでふんどしから全身鎧武者なんだよ。鎧が脱げなくて試合中ずっと鎧を外そうとする辰樹さんの姿は正直面白かったけどって話題にすると、ふんどし=武士だからという謎理論が返ってきた。この発言にガヤ笑芸人さんたちは渾身のガヤ笑を披露してたね。ウケは取れたけど要望を出してたらしい視聴者からは大クレームが来たらしいね。
裏の事情としては、素肌の部分が多いとケガに繋がるって至極真っ当な意見が来たのと、巻き添えで僕までふんどし姿にさせられそうなのは流石に倫理的にどうなのって意見が多かったかららしい。その結果の鎧武者なら、まぁ、だよねって感じがする。あれなら肌面積どころか防備は完ぺきだもんね。
そんなこんなで春は終わりそろそろ梅雨に入ろうとする時期。呼び出しを受けて僕は都心にやってきた。オリンピックに向けての準備が始まったのだ。




