第92話 じゃあ俺も聖ザ行こ
本日2話目
「あ、あまねきは聖ザに決めたんだ。じゃあ俺も聖ザ行こ」
「俺もそうするか」
「軽ぅい!!!」
聖ザ学園に決めたよ、と幼馴染たちに報告をしたら、瞬く間に幼馴染たちの進路も決まってしまった。それでいいの!? あ、いやもちろん嬉しいというか同地区にケーちゃんとコーちゃんが敵として居るなんて罰ゲームは僕もご遠慮したいんだけど! それはそれとして自分の進路についてなんだからもっとよぉく時間かけて考えた方が良いんじゃないかなってお姉さんは思うんだよ。
「いや。あすみちも来るんしょ? なら仲間外れにしないでほしいっスよ」
「山田のおじさんも噛んでるんだろ? マンネリトルシニアの設備は正直羨ましかったし渡りに船だろ」
「うっわ僕の幼馴染話が早すぎ……っ!?」
あれやこれや説得の言葉を考えてたのにその用意が全部無駄になってしまったよ。いや、まぁ目的を達成できたのは良いことなんだけど一晩うんうんと頭を悩ませた僕の苦労は一体……!
ま、まぁこの地域で一番敵に回したくない二人が来年も味方でいてくれる。それだけでも大分気が楽になったからヨシとしておこう。うん。となると今年の西東京選抜の主力陣はほとんど聖ザに行くんだね。いやまぁ地元っちゃ地元だから傭兵軍団とか悪口言われる事はないと思うんだけど。ないんだけども、本当にこんな事やってしまっていいのかって気持ちではある。周りの学校が可哀そうになっちゃうよ……!
「でも容赦しないんでしょ?」
「当たり前じゃん。出来る限り戦力集めて勝ち上がりを狙うなんてどこの学校もやってるんだから申し訳ない気持ちはあるけどそれはそれだよ」
「あまねきのそーいうドライな所、俺っち好きだぜ」
「……兄貴」
「わ。じょーだんじょーだん」
ケーちゃんの軽口にコーちゃんがちょっと見た事ないくらいに顔を歪めてる。コーちゃん、割とこういう冗談苦手だよね。ああなったコーちゃんは怖いからちょっと離れとこ。君子危うきに近寄らず、だよ!
【3年い組 権藤あまね 山田シャーロットあすみ 女子野球日本代表 オリンピック出場!!!】
でかでかとそう書かれた垂れ幕が原木中の校舎を彩っている。つい先日、今回のオリンピック出場選手が決まり、その中に女子野球代表として僕とあすみちゃんの名前も入っており、それを受けて我が母校が満を持して作った垂れ幕らしい。なんなら去年から準備してたそう。
いくらなんでも早くないかって思ったけど、去年のワールドツアー以降教員の会合とかで僕の事が非常に話題になるらしく、校長がほっぺが落ちそうなくらいの満面の笑みで業者に頼んじゃったらしい。ま、まぁ校長がゴーサイン出したんなら良いのか、な?
「あの垂れ幕に柔道部所属って書いても良いかな」
「流石にそれやったら校長も激おこるんじゃないかなぁ」
新年度に入ってすぐ、所属してる柔道部の部長が戯言をほざいていたので親切心から止めておく。女子野球日本代表って書いてる柔道部員か。よく考えたらたいがい謎めいた経歴だね。
今年の新入生歓迎会でもうちの柔道部は「そんな原木 そんな原木 柔道部♪ どぅわ~」とか歌う謎の部活動紹介を行ったんだけど、何故か去年と同じく大量の新入部員を獲得。校内の部活動でも有数の大所帯になったんだけど、その内半数以上が幽霊部員ってのはなんか色々間違ってるよね。
「その幽霊部員もお前が部活に居る時は練習来るから」
「それで良いの部長」
「良いに決まってるだろ。おかげで部費はウハウハぞ?」
そう語る柔道部部長の目は¥マークになっていた。人数多い部活はその分だけ部費も多くなるからね。うちの学校で一番部員が多い柔道部は当然一番部費が多くなるから、半分以上がまともに練習に来なくてもそれはそれでありなんだろう。あんまり人数だけ多くても練習スペースがなくなっちゃうからね。
それに今年の原木中柔道部は部長含めて結構強い子が多いから、幽霊部員にスペースを占有されるくらいなら今くらいの人数できっちり練習したいんだろうね。
「県予選いけそう?」
「自信はある。あそこの垂れ幕の隣に柔道部の垂れ幕ブラ下げてやんよ」
「おっけ。期待してるね?」
結局一回も公式戦に出なかった幽霊部員ではあるけど、2年と少し所属していたから大分愛着は湧いてるしね。所属してた部活が頑張ってくれるのは嬉しい。でも、未だに僕から誰も一本取れないのに県予選突破できそうなんだね?
やたらと寝技に行きたがる癖をなんとかしないと全国大会なんて夢のまた夢だと思うんだけどなぁ。
なんて部長とダベってたら下級生から声をかけられた。あ、挑戦? 良いよこいよって具合に下級生からの挑戦は勿論受け付ける。うちの柔道部は部員が全然いなかった頃の名残とスペースの問題で基本男女混合で練習してるから、今回の挑戦者は男子の一年生だ。うぅん、中学校上がりたての子は僕よりちっちゃい子も多いからね。出来る限り加減してあげないと。
なんて思ってたらいきなり襟を掴みに来たから、反射でその腕をつかんでそのまま一本背負いで投げ飛ばしてしまう。はっ!? あ、あまりに狙いが見え透いてたからつい……!?
「おお、流石は秒殺の女王。アイツ、小学校から道場に通ってる奴なのに」
「練習もほとんどしてないのになぁ。どんな反射神経してんだよ。アレで野球の日本代表だろ? 詐欺だよ詐欺」
「公式戦出てりゃ柔道の方でもオリンピック行けたんじゃないか?」
「シャラップ! 僕ぁ野球専念なんだよ!」
同級生の柔道部員が軽口を叩いてきたから、便乗するようにそう声を張り上げる。こ、この勢いで可愛い一年を秒殺しちゃった事実を流せたりしないかな……無理か。僕ももう少しちゃんと組み合ったりしてあげたいんだけどね。やっぱりちゃんとした練習してないから寝技とかまともに組み合うのが怖くて、その前にさっさと倒すように体が動いちゃうんだよねぇ。
そういえば学校では柔道部に入ってるって伝えたら水鳥先生が大爆笑してたな。まぁあんだけ甲子園甲子園言ってる僕が学校の部活は柔道部ってのは確かにおかしいか。一応幽霊部員だって言ってあるけど、これネットの方の漫画で面白可笑しく書かれそうだな……




