第9話 山田・シャーロット・あすみ
本日4話目
地区選抜からのお誘いにもちろん二つ返事で了承を返し、僕はリトルシニア地区選抜に名を連ねる一員になった。いやぁ、やっぱり見る人は見てるって事だよ。まさかリトル時代は全く連絡もなかったのに中学生に上がる前にリトルシニアの選抜に呼ばれるなんてね!
リトルの全国大会で網走くんを抑えたのが評価されたのかな? 網走くん、うちと当たるまでは本当に無双みたいな状態だったからね。同じく網走くんを抑え込んでたケーちゃんの誕生日がもうちょっと早ければケーちゃんが呼ばれたかもしれないけど、残念なことに田中兄弟は10月生まれで4月生まれの僕とは1年ズレる事になる。ここら辺はアメリカ基準で計算してるからややこしいよね。
いつもの面子が一気に居なくなるけどだからって心細いとかそんなのはない。なにせハラキリトルは西東京の強豪で、その上部組織であるハラキリトルシニアも同じく強豪。当然、ハラキリトルから上がってハラキリトルシニアに所属する先輩たちもたくさん選抜には呼ばれている。
というか同じ地区のチームって大体試合経験あるから、ほとんど全員顔見知りみたいなもんだよね。という訳で挨拶挨拶ぅ!
「いえーい! 先輩たち! おっひさぁ!」
「ほんとにあまねち居るやん。お久ぁ」
「うお。ハラキの銀髪っ子だ」
「ゴンドー、テレビ見たぞ。土8のオレイケ出てたろー」
「ゴンドーちゃんかわ……スポーツ女子の顔じゃないだろ……」
大きな声で挨拶をすれば大体好意的な返事が返ってくる。まぁね? 僕みたいなかわいい子に声かけられて不快になる男の子は少ないしね? ふふふん。最後の人、もっとほめたたえてもいいのよ?
「ああ、権藤さん。今回は来てくれてありがとう。3月の選抜大会に向けて頑張っていきましょう」
「はーい!」
一通り先輩方に挨拶をした後、今回の選抜チームを率いる稲葉監督にもご挨拶。この人は隣町にあるマンネリトルシニアの監督さんでもある。マンネリトルシニアは10年くらい前に出来たチームで、最新の機材や設備、それに専任のコーチを用意して一気に強豪に上り詰めたんだよね。お金持ちのオーナーがこの辺全部出してくれてるんだ。羨ましい!
それだけ設備が整ったチームだから、何年か前から地区選抜の練習もマンネリトルシニアの練習場を使って行う事になったみたい。マンネリトルシニアの人は普段の場所で練習出来て羨ましいな。というかあれ最新のバッティングマシーンだよ。やっぱり羨ましい!
僕たちハラキリトルにとってはマンネリトルシニアの下部組織であるマンネリトルは地区最大のライバルだ。去年は向こうが、今年はこっちが勝って全国の決勝に行ったからここ数年の戦績も互角。互いにまだ全国優勝は成し遂げてないから、本当は今年全国で優勝して一歩リードしたかったんだけどね。
まぁ、来年夏まではケーちゃんとコーちゃんが居るからそこで優勝してくれるでしょ!
「いやぁ。来年もうちの下は強いですから、分かりませんよ」
「でもあすみちゃんもトロ子ちゃんもリトルシニアに上がるんでしょ? 下の世代の子だけでケーちゃんコーちゃんに勝てるの?」
「……痛い所つきますねぇ」
僕の質問に稲葉監督は苦笑で返してくる。エースも正捕手も丸々残るハラキリトルと違って、マンネリトルはエースにして4番という大黒柱と5番の正捕手がリトルシニアに上がる事になる。彼女と正捕手のコンビが居たからこそマンネリトルは全国を勝ち上がれたから、その二人が丸々抜けるのは流石にキツいはずだ。
まぁそこは僕が抜けたハラキリトルも同じだけどね! ふんすふんす!
「すごい自信ですねぇ」
「結果を出してますからねぇ。ふふふん。あすみちゃんがぼっこぼこに打たれた網走くんを僕は抑えた。つまり僕はあすみちゃんより上って事だもん」
「んなわけないでしょぉが!!」
僕と監督さんの話し合いに聞き覚えのある声が割り込んでくる。マンネリトルとシニアの練習場は一緒だから、まぁここに居てもおかしくないよね。声のした方に視線を向けると、目の前にいる監督さんよりも背の高い女の子が僕の頭に手を伸ばしていた。
「あ、コラ! な、なにをするだやめルォォォ!」
「うっさいわよこの、この投手もどき! 全国大会準優勝投手様よりお前が上ぇ!? アンタは大人しく野手やってなさいよ!」
ぐにぐにと僕の頬を引っ張るあすみちゃんに抵抗するも、リーチの差は大きい。あすみちゃん、小学生なのにもう身長180越えてるからね。スタイルも凄いし、これでランドセルしょってるのもう犯罪じゃないかな。僕ももうすぐ160と女子ではそこそこ大きい方だけど、20cm以上差があると手の長さも大人と子供みたいになっちゃう。
この子は山田・シャーロット・あすみちゃん。絶対に投げる時邪魔だよねって聞いたら目を逸らすくらいにふっさふさなまっ金々の豊かな髪に、縦ドリルヘアーで更に横面積増やして野球をやってる凄い子だ。そしてケーちゃんコーちゃんと同じく隣に住んでる幼馴染の一人で、僕にとっては母方の従姉妹になる。
あ、横に垂れてる縦ドリルに手が届くじゃん。弱点見つけたり!
「あぁ! おま、お前ぇ! これセットにどれだけかかるか分かってんでしょうが!」
「うるさいよ! 普段はめんどくさがってるのに対外練習の時だけセットしてきて! カーッ! 卑しい! 卑しい似非お嬢様!」
「仲が良いですねぇ。それじゃそろそろ練習始めますから終わってくださいね」
「「はーい(はい)」」
監督さんが手をぱんぱんと叩いて止めるから僕とあすみちゃんもパッと争いを鎮める。もちろんあのまま続けても負けてないけど争いはなにも生み出さないからね。ここは誕生日が一日先でお姉さんの僕が大人になって手を引いてあげるべきだろう。
「久々に見たなぁ。ゴンドーとヤマダァの漫才。従姉妹なんだっけ?」
「ッスッ! 漫才じゃないッス! うちのおかーさんとあっちのおとーさんが兄妹なんッス!」
「これ見るとリトル時代思い出すわぁ。毎回やってたよな」
「こらこら。おしゃべりしていないで準備にはいってくださいね」
ハラキリトルシニアの先輩方とマンネリトルシニアの先輩方がうんうん頷いていると、監督さんが再度手をぱんぱんと叩き、優しい口調でそう言った。本当に穏やかな人だな、この人。リトルシニアの監督さんってもっと厳しい人が多いってイメージだったよ。
まぁ、もう片方があすみちゃんだったからってのもあるかもしれない。山田家は地元の名士的な存在で、マンネリトルのオーナーもあすみちゃんのお父さんだったりする。うちの隣に住んでるあすみちゃんが隣町のマンネリトルまで通ってるのはそれが理由なんだって。
「ハラキリトルの方のスポンサーもやってるぞ。ヤマダァん所」
「あ、そうなんだ。お金ってあるところにはあるんっスねぇ~」
こっちだ、と先輩に連れられて外野の方へ歩きながら、世間話がてらにそういった裏事情を教えてもらう。まぁリトルとかリトルシニアなんて地元のスポンサーが居ないと運営できないからね。やっぱりお金。お金は大事だ。ブーさんのお誘いは断っちゃったけど、北埼玉デッドボール関連でお小遣いがもらえるなら乗っかるべきなのかなぁ。
あすみちゃんは監督さんに呼ばれてベンチの近くへ。他にもピッチャーの先輩が集まってるから僕もそっちに行くのかな、と思ってたらコーチらしき人から声をかけられた。
「センター!」
「はーい」
守備練習用のコーチだろうおじさんがパカーンとフライを打ち上げる。考え事をしている場合じゃないな、しっかり練習して試合で使ってもらえるようアピールしないと!
飛んできたボールをしっかりと捕球し、セカンドへ送球。ほとんど間を置かずにパカーンと音がしてまたフライが上がってくるので……って今度はライトじゃない? え、僕が取るの?
指示されたら仕方ない、と少し遅れたスタートを誤魔化すためにダァっとダッシュでライト方面へ走り、ギリギリ飛びつかないで補球。そのまま足を軸に体の向きを変えて、セカンドへ送球! ジャスト胸元返球だぜぃ! すぐ近くに居たライト守備の先輩がぱちぱちと拍手してくれるけど、ここもうライトだよね? なんで僕が取らされるんだろ。
センターの定位置に戻ったら今度は明らかにホームランじゃねって打球が飛んでくる。コーチの人を見るとゴーゴーと囃し立ててるぞあんにゃろう! しょうがないから凡その距離感を図って目線を切り、フェンス際までダッシュ! 見上げたらそのままフェンス上段に直撃になりそうなボールが見えたから、フェンスを駆けあがってボールをキャッチする。
着地の瞬間に前のめりに転がって衝撃を散らし、起き上がる反動を使ってそのままセカンドにシューッ! 超! エキサイティンッ!
「オッケー! ゴンドー、もうお前に教えることはない!」
「それで良いんですかコーチ!?」
「次、バッティングのテストやるからケージに行ってこい! 他の男どもー! 今の真似すんなよー」
「できねぇっす!」
そう言い合ってコーチと先輩たちはゲラゲラ笑いながら守備練習を始めた。む、むぅ。男同士の友情ってやつかな。なんだか楽しそうだけど女の身だと入り込めないんだよね、この空気。
まぁ今は指示された通りバッティングケージに向かおうかな。バッティングケージを探してみると、ピッチャー陣が練習してるブルペンの前を通って行くみたいだ。
てくてく…………あれ?
僕、ピッチャー兼任で呼ばれてたんじゃなかったっけ???




