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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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第87話 対道頓堀選抜 網走くんとの一勝負

本日2話目

 空を見上げる。


 満員の観客が伝える熱気を肌で感じながら、空を見上げる。



「何が見えるんだ?」


「空」


「そりゃあそうだ」



 マウンドにやってきたコーちゃんが尋ねてきたので、見たままの言葉を返すとコーちゃんは苦笑で応えた。清々しいほどに晴れ渡る青空。今日は、絶好の野球日和だ。


 多分、僕は今、めちゃめちゃ気合が入ってるんだろう。緊張じゃなく気合いだ。気負い過ぎなんて言われてもおかしくはないだろうけど、別にこれで不調があるわけじゃないならいくらでも気合は入ってもいいでしょ?


 網走くんとの戦いは、僕にとっても特別なものだ。この世界に来て、多分僕が初めて出会った「こいつには絶対に打たれる」と思った相手。練習でケーちゃんが初めて僕から打った時も似たような感覚は受けたけど、網走くんほどの絶対性はなかった。たぶん、ケーちゃんと網走くんは同じくらいの才能を持ってて、網走くんはたまたまそれが打撃の方により多く振り分けられてるんだろうね。


 見上げていた視線を、地上に向ける。目の前に立つ頼もしい相棒から渡されたボールを手にして、僕はにっこりと笑顔を浮かべた。


 仕事の時間だ。






 1回表。最初のバッターはこの大会中打率5割を記録する巧打のバッター。足も速く守備も上手いという3ツール揃った良い選手だけど、超絶好調な僕の敵じゃない。1球目に投げたストレートと全く同じコースに投げた飛球ストレートでフライアウトに打ち取り1アウト。続く2番は萎縮してるのか縮こまったスイングをしていたので、外側に投げたカットボールでひっかけてゴロアウト。3人目は1つ下の世代じゃ1,2を争うって評価のバッターだけど次の打者に比べれば怖くない。変化球待ちだったんだろうけど外角低め一杯に決まったストレートでリズムを崩した後はトントンとストライクを取って3振、スリーアウトでチェンジだ。


 ネクストバッターズサークルに居た網走くんに次の回でと目で合図を送ると網走くんはズキューンと人差し指で僕を指してくる。おっと、僕の真似かな? 活躍した人にナイスプレイって意味でこれしてるんだけど、網走くんもその意図でどうやら使ってくれてるみたい。


 さて、投球の方で完ぺきな仕事をした後だけど、早速打撃の方でもお仕事の時間だ。



「ヨォシックオネシャース!」


「よっすネコ娘。なんでお前マウンドに居るんやセンター帰れ」


「僕ぁ元からピッチャーなんだよ!」



 道頓堀選抜のメンバーもほとんど同世代だからね。何回も戦った相手が多いからついつい軽口を叩きあってしまう。コホン、と球審が咳払いをしたので頭を下げて、僕はいつもの通りに相手ピッチャーに背番号が見えるほどに全身を捻じる。


 この独特の打法が全国の野球キッズの間で流行ってるらしいけど、悪い事言わないから普通の打法に戻した方が良いとおもいつつぐわら!


 ガキィン! と大きな音を立ててボールが弾けるように飛んでいく。普段の2割増しくらいの勢いで飛んでいったボールは仁王立ちする網走くんの頭上を越えてバックスクリーンに直撃した。


 第1球、力勝負で行こうとしたみたいだけど、残念な事に筋トレの成果で僕は去年の僕よりも10%ほど出力が上がってるんだ。力こそパワー。パワーこそ正義。今の僕なら苦手だったあすみちゃん相手でも良い勝負できるんだよ! 久留米さんはちょっとあの。僕相手だともう普通のボールとか超えちゃってくるから自信ないけどさ!



「カーッ、たまらん。今から山田に代わってくれんか?」


「あすみちゃんも去年と段違いだよ? ゴリラみたいなアメリカお姉さま方を力だけで圧倒してたんだから。あ、一人だけ例外居たか」



 ナタリーとかいうゴリラを超えたゴリラにはあすみちゃんも打ち込まれてたけど、大学生のナタリーとあすみちゃんが力比べやってるのが可笑しいんだよね。あすみちゃん、あと2週間くらいは14歳だし。


 塁を回る度に相手選手から軽口を叩かれる。道頓堀選抜は網走くん以外そろいもそろってノリが軽いよね。網走くんだけはなんか、僕相手だとすっごく寡黙になるんだけど。まぁ? 僕みたいな美少女が相手だとキンチョーしちゃうのはしょうがないよね! うんうん。


 なんて言ってる間に2番の後輩くんがアウトになり、その後3番コーちゃん4番ケーちゃん5番あすみちゃんの3連幼馴染がきっちり仕事をしてスコアは3-0になる。多分今年の西東京選抜の1から5番までの打力は、この世代でもぶっちぎりで最強格だと思う。評価としては網走くんが居る道頓堀選抜はそこに並ぶんだけど、残念なことに今日の僕は網走くん以外に打たれる気がしないんだよね。


 網走くんにも勝てるって言いたいけど、そこは正直に言おう。確実なんてありえない。それくらいのレベルに網走くんは居るし、そんな網走くんにだって僕は対等に戦える。それでいい。野球に絶対はなくて、だから面白いんだ。


 そして、僕と彼との本日1度目の勝負がやってくる。


 右打席に入る網走くんは、静かに僕に向かって視線を向けながらバットを構える。網走くんの打撃フォームはオーソドックスなものよりも少し振り被った状態のものだ。去年、互いのチームで合同ご飯を食べに行ったときにしれっと聞いてみたんだけど、僕のねじ巻き打法を自分なりに取り入れられないかと考えて編み出したフォームらしい。


 あの打法は正直僕の動体視力ありきなものだから参考にしない方が良いって言ったんだけど、そこは天才網走くん。なんとこの打法で去年の夏だけで15本も本塁打を量産してしまった。日本選手権と巨神カップを合わせての数字だけど、大体1試合1~2本は打ってるはず。


 というか全米大会も合わせれば20本超えてるのか。いやプロかよって数字だね。僕ほどじゃないけど、網走くんのボールを見極める目がずば抜けてるのがこれだけで良く分かるよ。



「だから、どう攻めるか悩むんだよなぁ」



 ねじ巻き打法の弱点であるミートの難しさを彼なりの努力で埋めたという網走くんの打法は、攻略ポイントが一つしかない。どうやってタイミングをずらすか、だ。初見の変化球なら空振りも誘えるかもだけど、多分どのコースにどのボールを投げても網走くんはミートしてくる。そうなってくると、自然と投げる球は限られてくる。


 初球、内角高めの高速ナックル。ガギィンと鈍い音がしてファールゾーンへとボールが転がっていく。



「嘘ぉん」



 この球、網走くん相手だと初めて投げたはずなのにきっちりバットを当ててくるのどういうことなんだろ。背筋をざわっとした悪寒が走ったから、次の投球は外角低めに少し外れるストレート。これに網走くんは僕の投球の瞬間に一歩深く踏み込んで、掬い上げるようにバットを振るう。ガキィン、と良い音を立ててボールはライト側のポール手前で右にきれてファールボール。なんで内角高めの高速ナックル後に踏み込めるんだよ! どういうチートキャラだこの子! 楽しい!


 次に投げる球は決まってる。ベンチ傍の座席が何故か定位置になってる水鳥先生が見てるからってのもあるけど、もう僕にとっても切り札の立ち位置にある球をここで切る。グローブを右手に嵌め、深く潜るようなアンダースローで投球。矢のような速度で網走くんに向かって飛ぶその球は、バッターボックス直前で大きく上に向かって跳ね上がり、まるで獲物にとびかかる蛇のような軌道をした後、ストライクゾーンへ急角度で落ちていく。


 夢飛球。今大会初めて投じられたそれを、網走くんは瞬き一つせずに見つめ、バットを振るった。


 カキィン! と金属バットが良い音をたて、バットがボールをはじき返す。プロですら初見は空振りした球を、同じく初見の筈の網走くんは完ぺきにとらえた。


 違うな、初見じゃない。彼は何度も視たのだろう。僕が残した北埼玉デッドボールの試合や、世界大会の試合。女子代表での試合。プロと戦ったリアルな野球盤ゲーム。夢飛球は投じられた回数こそ少ないけど決して誰にも見せた事のない秘球ってわけでもない。彼のスイングは完ぺきだった。迷いが一切なく、ただ来た球にバットを合わせてはじき返しただけだった。


 いや。なにを言っても言い訳になるか。でもまぁ。


 振り返るまでもなくスタンドに飛び込んだだろうボールに、湧き上がる歓声を耳にしながら空を眺める。


 何回打たれてもホームランってのは嫌なもんだね。でも二人目は網走くんになるって思ってたけどさぁ、ちくしょう!


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