第86話 全国選抜3度目 試合の時間
本日1話目
3月。今年も別れの季節がやってきた。
今年はハラキリトルシニアの試合に全然参加できてなかったけど、ケーちゃんコーちゃんのバッテリーについでに顔が四角い諸星くんを含めた強力投手陣とそこそこの打線によって、チームとしては去年よりもいい成績を収めることが出来たと思う。なにせ日本選手権と巨神カップ両方で決勝に進んだんだからね。
ただ日本選手権は網走くんのいる道頓堀選抜に、巨神カップは久留米さんの居る大牟田選抜に負けちゃったんだけども。リトルシニアとかを扱う野球雑誌には『不動のセンター不在の影響! 田中ケータ、あと一本に泣く!』とか好き勝手書かれてたみたいだけど足りなかったのは制圧力のある2人目のエースだよね(確信)
まぁ準優勝とはいえ、連続で全国2位の看板は小さくない。なにせ今年チームを卒業した先輩方は去年のエース先輩たちよりも大分楽に進学先を決める事が出来てたからね。やっぱり大舞台でも臆さずに野球が出来る経験ってのは得難いみたいだ。
そして3月は世間様は春の甲子園で盛り上がっている中、僕たちも大阪で全国の猛者たちが一堂に会し戦う全国選抜の季節であるのだけども、このリトルシニア全国選抜大会で、今年は予想外の出来事が起きていた。
球場が満員になってるとか何故か甲子園と並んで全国放送されてるとか水鳥先生が毎試合見に来てるとかそういう小さな予想外ではなく、もっと大きな予想外だ。
「てやー!」
「スッタラァァイ!」
「てやー!」
「スッタラアイバッターアウッ! チェンジ!」
そう。権藤あまね、なんと先発として今大会でも無双しているのだ!
――女神様、本当によろしいのですね?
【はい。女神はまだまだ魔球道を歩み始めたばかりの修行中の身……あの方の現身に女神のつたない魔球を見せるのは憚られますので……】
――しゃぁ! やったろうじゃん!(お労しや女神様、心中お察しいたします)
きっかけは女神様からの一言だった。今大会は予定を合わせてずっと会場に張り付くという水鳥先生の存在に、女神様が事前にこう言ってきたのだ。なるほど、その気持ちは僕もよくわかる。練習中の変化球とかを他人に見せるのはちょっと恥ずかしいもんね。ただ、ちょっとだけ今後が怖い発言だったから注意しとかないと。10年くらい修行中のままでいてくれないかな?(本音)
まぁせっかく女神様がこう言ってくれてる事なんで、僕は即座に監督に直談判。魔球禁止令とは魔球を禁止しているだけだから、魔球を投げないなら僕がマウンドに上がっても良いんだよ! もちろん、観客の皆さんが僕に求めてる部分の10%くらいは魔球だろうけど、残り90%の可愛い部分をいつもより振りまいて投げるから我慢してくれよな!
というテンションで初戦の青森の平川選抜相手にピッチャーゴンドーのアナウンスが流れ、会場内の驚きの声と相手監督の抗議を耳にしながら僕は7回無失点の完ぺきなお仕事ぶり。多分、ケーちゃんかあすみちゃんを想定してたんだろうね。僕の変化球に全然タイミングが合ってなかったもん。
この初戦ゴンドーの衝撃に次の試合の広島西リトルシニアもかなりリズムを狂わされたみたいで、ケーちゃんが登板したこの試合でなんとケーちゃんは完全試合を達成しやがったのだ。僕が先に達成したかったのに! と文句をつけると、ケーちゃんの野郎笑って僕の頭をぐしゃぐしゃにしやがった! ちくしょう、これも全部あすみちゃんが僕の頭をぐしゃぐしゃにするからだぞ!
次の試合はあすみちゃんが先発だ。沖縄の首里城リトルシニアって所なんだけど、僕も沖縄のチームと当たるのは小学校以来だからね。あそこの県はたまーにすごい活躍するからと人脈狙いで挨拶に行ったら、皆が皆すっごい日焼けしてて顔の彫りが深い! 去年のワールドツアーで回った東南アジアを思い出すね。あと普通にハーフっぽい子が2,3人居たのは米軍基地が多いからかなぁ?
ここのチームは技術的にはちょっと粗さが目立つ子が多い印象だったけど、パワーとスピードに自信あり! みたいな子が多くてあすみちゃんと相性がちょっと悪い相手だったかな。あすみちゃん、小手先も出来なくはないけど基本的に力勝負大好きだからね。フライがポンポン飛んできて残念そこは権藤ですが何回も発動する事になったけど、まぁ活躍場面が増えたから僕としては良かったかな。
詰まった当たりの内野安打が多かったけど、結局は7-1で投げ勝って快勝。昨年に引き続き優勝候補の一角としての面目は施されたわけだけども。
「問題は次の相手だねぇ」
「準決で網走かー」
トーナメントの反対側だとまず茨城中央が勝ち上がってくるだろうなって感じなんだけど、こっち側は西東京選抜と道頓堀選抜の優勝候補同士の激戦になる。投手は本来なら諸星くんなんだけど、諸星くんは網走くん相手に去年の夏に2本塁打にサヨナラまで打たれてるから正直監督としては使いづらいところだろう。あの子、相手が誰でも逃げないスピリットは素晴らしいんだけどね。それが結果に伴わなきゃ無謀な挑戦になっちゃうんだよ……
「権藤さん。お願いできますか?」
「どぉれ……」
「用心棒の先生みたいな登場しなくていいから」
まぁ、そうなってくると中2日と休養十分な僕にお鉢が回ってくるわけでしてね?
本日のオーダーがスコアボードに出た瞬間、会場内のボルテージが間違いなくググーンと上がるのを感じながらグラウンドに出た僕は、向かいのベンチに座る網走くんにピースサインを送る。結構長く戦えなかった相手と、魔球抜きでの決戦だ。
燃えるね。
前回は色々制限があったとはいえ、実質僕は魔球に逃げて網走くんに勝ったわけだけど……あれから3年。僕も成長したけど、相手ももちろん成長している。僕は確かに女子世界大会で大活躍したけど、網走くんはU15日本の最強バッターとして2度も日本を栄光に導いている。僕は確かに目立っていたけど、男女のレベル差を考えれば向こうの方が実績としては上じゃないかな。
だから、余計に燃える。胸の奥が、ドキドキと飛び跳ねるように脈打っているのを感じる。血管を通る血液が熱を帯びて、僕の感情を全身にいきわたらせてくれている。
「今度は真っ向勝負で、僕が勝つ」
「今度こそ……今度こそ俺が勝つ」
互いに距離があって言葉なんて勿論届いてないけど。確かに僕と網走くんは、言葉を交わし。にっこりと笑って互いに背を向けて、ベンチに戻る。
さ、始めようか。
試合の時間だ!




