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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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第8話 じゃあここに一筆お願いします

本日3話目

 北埼玉デッドボールの試合前。僕は儀式のために黒い頭巾をかぶってなんだか良く分からない祝詞を唱えている。どんな祝詞かっていうと野球のポジションを順番に早口で繰り返してるだけだったりするけど、それっぽい声音で言うと本当に祝詞っぽく聞こえるみたい。


 僕の後ろではブーさんを含めた3人の芸人さんたちが同じく黒頭巾を被って思い思いの祝詞っぽいなにかを唱えている。彼らは過去3試合で当番になったから今回は儀式を主宰する側に回っているのだ。



「それではこれより、今日のあまねちゃん係を決定する!」


「「「うおおおおお!!」」」


「「「うー……」」」



 監督の掛け声とともに僕たち黒頭巾組は雄たけびを上げ、今日のスタメンから外れた芸人さんや志願した俳優さんたちがテンション低めに声を上げる。金ちゃん監督が言ってるように、この儀式というのは僕の魔球を受け止める係決めの事だ。


 なぜ野球の試合前にこんな秘密結社の儀式ごっこをしているかというと、話は7番バッタードコドコ事件発生までさかのぼる。





 7番バッタードコドコ事件。起こるべくして起きたあの悲惨な事件を切っ掛けに、北埼玉デッドボール上層部ではこの魔球姫という問題児をどう扱うか議論されていた。使わないという選択肢は出来うる限り取りたくないが、流石に目の前で超常現象が起きた以上は慎重を期す必要があると判断したためだ。


 議論は堂々巡りを繰り返していた。金ちゃん監督としては芸人としての視点と監督としての倫理観とがせめぎ合い、大変窮屈な心境だったのだろう。会議の途中で監督は当事者である僕を呼び出してこう質問した。『過去にこの魔球で大怪我とかした人とか、亡くなったは居るの?』と。


 その質問に、僕は満面の笑みでこう答えた。『居るわけないじゃん。ただボール投げてるだけだよ?』と。その場にいたコーチとかスポンサーのお偉いさんとかが一斉に『いやいやいや』と声をそろえる中、僕ははっきりとした発音でそれまでの魔球歴を口にした。


 まず僕が魔球を投じた回数はこれまでに7回。ナックルの話ではなく、はっきり魔球だと分かる球を投げた回数が7回だ。その内5回はコーちゃんが受けてるからこの時点で怪我人は0ってのが確定してるよね。ドコドコした人? 意識を取り戻した後に全身をマッサージされたみたいだって喜んでたしね。



『えっと。じゃあ、過去に受けたこの5回ってのはどういう魔球だったのかな?』


『最初は受けたボールが爆発してキャッチャーとバッターがアフロになってたよ! 1時間で元の髪型に戻ったけど。2度目はボールが消えてどっか行っちゃった! 三度目はボールがすっごい光るだけの球でバッターとキャッチャーが目がぁって叫んで転がってた! 四度目は投げた後にボールが燃えてミットが焦げてたかな! 5回目は雷が落ちただけ! ほら大したことないでしょ?』


『勢いでごまかそうとしても無理かなぁ』



 いやぁ、どうしよ。と言いたそうに金ちゃん監督がそう口にして、その日の会議はお開きになり僕も家に帰された。これは不味いかなぁ、またチーム探しになるかなぁと内心不安に思っていると、2,3日後に金ちゃん監督から呼び出されたんだ。


 呼び出された場所はとあるテレビ局。そこで金ちゃん監督と合流した僕は、やたらゴテゴテとしたプロテクターに身を包んだブーさん相手にテレビカメラの前で魔球を投げることになったのだ。とりあえず7番バッタードコドコは結果として悪影響も無かったし一回試してみて考えたい。仮に危険だとしたらもう出来ないから、ここでいい画を撮っておきたいそう。


 ううん、見事なまでのプロ意識。ボールを受ける担当のブーさんも、色々覚悟をした人間が見せる澄み切った瞳で、僕にこう言った。



『俺、生き残ったら彼女作るわ』


『あ、うん。じゃあここに一筆お願いします』



 なにがおきてもごんどーあまねのせきにんじゃありません、と書かれたノートの切れ端を渡すと、ブーさんはカメラの前だというのに大の大人がそこまでみっともなくしていいのってくらい見苦しく地団駄ふんで嫌がりはじめた。おお、流石は芸人さん。これが視聴者のツボを押さえるって事なんだね!?


 ここまで芸に徹されると僕も覚悟を決めるよね。今回の僕は主人公じゃなく悪役。ヒールに徹してブーさんにきっちりサインと母印まで押させた後、相方さんだというガタイの良い人に抑えられたブーさんめがけて魔球を投じたのだ。



【皆様のご希望に答えて! ロマンボールガチャプレミアムですよぉ!】


 ――あんまりやる気出さなくていいからね?



 そうして選ばれた魔球は普段から見ても当社比1.5倍くらいド派手な効果だった。投げた瞬間から煌めく炎を纏ったボールはキャッチャーであるブーさんに逃げる暇も与えずに着弾。相方さんと一緒にブーさんは火の海に包まれたのだ。



【バーンプロミネンスボール! 相手は死ぬ!】


 ――ほんぎゃああああ!?



 見た瞬間に分かる大惨事である。これには多少鷹揚に構えていた金ちゃん監督も血の気の引いた顔でブーさんと相方さんの名前を叫んでたし。


 ブーさんたちを包んだ炎の海はたっぷり10秒ほど彼らを包んでいた後、ふっとガスの元栓を〆たかのように消える。後に残されたのは、ひっくり返った二人の中年男性の姿だった。いやぁ、あの時は心底安堵したよね。流石に殺人犯になんてなりたくないからね。


 まぁ、ちょっと犠牲にしたものは多かったりしたけどね。たとえばブーさんの体重とか。





「えー、それでは自分からやりたいと声を上げる男気のある者は手を上げてくださいっ」


「しかたねぇなぁ」


「おっと。俺を忘れて貰っちゃ困るぜ」


「じゃあ俺も」


「「「どうぞどうぞどうぞ」」」



 流れにつられて手を上げたブーさん――恰幅の良かった姿はもはや過去の話。一回僕の魔球を受けただけで40kgも体重を落としてしまった中肉中背の男性は周囲の手のひら返しにキレ散らかしながら今日のあまね係というプラカードを首にぶら下げた。これ、ようは僕の魔球を受けるためだけに試合に出る係って事だ。先週もこの係やったのにまた……と思うけど、ブーさんは優先してあまね係をやるって契約だから仕方ないんだよね。ほら、テレビ番組的な意味合いで!


 ブーさんの変わり果てた姿を見て、金ちゃん監督及び北埼玉デッドボールの運営さん達は僕の魔球を活用していくという方針に舵を切った。もちろん公式戦では魔球は使えないけど、それ以外の部分。それこそ金ちゃん監督がやりたいと思っている興行的な野球に関しては僕の魔球は中心的な位置づけになったみたい。


 その一端として、ブーさんが魔球を受けた瞬間は彼がレギュラーを務めている全国区の人気TV番組で放映されたんだ。そこで合わせて魔球への挑戦者を全国で募集。試合の様子をその番組内で紹介するコーナーまで作られることになったらしく、視聴率はかなり好調なんだとか。


 流石に試合の全貌まではその番組では流せないから、ローカルテレビとの契約はそのまま。でもこの試合を見たいって理由でローカルテレビの視聴率もグンと上がってるらしく、プロデューサー兼カメラマンさんからは会うたびにジュースを奢ってもらってる。



「いや、あまちゃんはもうギャラ貰った方がいいと思うよ。うちの事務所紹介する? 山本興行」


「こらこらこら。カメラの前で勧誘しなさんな」


「んー、お金は欲しいけど野球優先したいかな! あ、その分うちの実家を宣伝してくれるとありがたいッス。ッス」


「おー、今度うちの後輩連れて食べに行くよ。なんだっけ純喫茶アンタッチャブル?」


「純喫茶アンデッドだよ! そんな触るもの皆傷つけるみたいな名前じゃないよ!」


「いや、アンデッドの方がダメじゃないかなぁ?」



 くっだらないノリの会話を繰り広げながら試合を観戦し、たまに監督が交代をちらつかせてブーさんやその時々のあまね係を動揺させる。このいつもの流れみたいなゆるぅいお笑いの流れが結構受けて、北埼玉デッドボールの運営はとっても好調らしい。それに比例するように僕の知名度もガンガン上がっていって、こないだなんかは知らない地区の野球少年がわざわざ僕の顔を見にハラキリトルの練習を見学に来るようになったんだ。


 この調子で知名度をあげていき、あわせて実力も知らしめていけば。皮算用が現実味を帯び始めてきたとき、また新しいチャンスが僕の元へ転がり込んできた。


 以前、外野手として呼ばれたリトルシニア選抜のお誘いが、またやってきたのだ。今度はピッチャー兼任として。


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