第77話 帰国 そして日常へ
本日2話目
『見えました! ゲートをくぐり今、女子野球日本代表チームが日本に帰国いたしました! 先頭を歩くキャプテンの一色選手以下、各選手が手を振っています!』
『驚くべきは日本代表の。いや、AMACHANの海外人気だよね。彼女が人気になるのは分かるよ、分かりやすく面白いもん』
『欧米では彼女を通して初めて野球、ベースボールに触れたという若者が多くいるみたいですね』
ブライアン伯父さんの部屋にはいくつもテレビが置かれて別々のチャンネルが映し出されている。なんでも情報収集のためにこうやっているそうなんだけど、混乱しないんだろうかっていつも思う。
「あまねちゃん。君は、凄いことをやってのけたよ」
そんな部屋の主であるブライアン伯父さんは、お客様用のソファに僕を座らせたままグルグルとその周囲を歩き回っていた。なんなら僕が部屋に入った瞬間からずっとうろうろ歩いてたからそういう気分なんだろうね。
僕も前世で甲子園出場の電話が鳴るかどうかって時にこんな気持ちで5分に一回監督室を覗いてた事があるから、気持ちはよーくわかる。分かるんだけどちょっと忙しないよ伯父さん。せっかくあすみちゃんが淹れてくれたミルクティーが落ち着いて飲めないんだけど。
「お父様も、そろそろ落ち着いて。ティーを飲んで一息入れられては?」
「あ、ああ。すまないあすみ、頂くよ……うん。美味しい。実家を思い出す味だ」
「イギリスに立ち寄った時にコツを教わりましたの。まだまだお婆様の腕前には程遠いですわ」
ブライアン伯父さんの言葉に、あすみちゃんがはにかむように笑ってそう答える。ワールドツアーの途中でイギリスに寄ったんだけど、その時ついでにお母さん方のおじいちゃんとおばあちゃんに挨拶してきたんだよね。山田家は明治の時代にイギリスに渡った華族がルーツで、向こうの貴族家とも縁を結んで財を成した新興財閥みたいな家柄らしい。おかーさんはおとーさんと結ばれる時に家の反対を押し切って結婚しちゃったから、僕はあんまりそっちの事は知らないんだよね。
ただ、おとーさんおかーさんとはこじれてるけどそっちのおじいちゃんたちには僕も可愛がってもらってる。片手で数えるくらいしか会った事はなかったけど、毎回すっごくたくさんのお土産を貰ったりしてるんだ。
その実家周りの件での報告がてら伯父さんに挨拶をしにきたんだけど、もうちょっと時間空けてから来た方が良かったかな?
「構わないわよ。お父様がハシャいでるのは貴女が原因だもの」
「ええ……僕、伯父さんが(自宅)徘徊おじさんになる原因になっちゃったってこと……?」
「ほら、うちのお婆様が貴女を褒めていたでしょう? アレはね、貴女のお母さまも含めてのお話なの」
ティーカップを傾けながらそう語るあすみちゃんに、僕は首を傾げる。なんで僕が褒められるのとおかーさんに繋がるのかと思ったら、なんてことはない。おかーさんが実家の方から言われてたゆるーい絶縁が解かれたんだって。
ゆるーいってのは僕が向こうに遊びに行ったりしてたから。本当に縁が切れてるわけじゃなくて、ただ不仲になってた位ではあるんだけどね。ただ今回、僕が野球というスポーツの振興を行った事は山田家周りの親類に高く評価されてるらしくて、正式におかーさんの義絶状態が解かれたんだって。
それをシスコンのブライアン伯父さんはとっても喜んでて、今に至るってわけだ。
「あー。じゃあ、今度イギリスに行くときはうちの両親も一緒に行けるんだね」
「そう! そうなんだ、ついにアリスが! アリスがイギリスに帰れるんだよ!!!」
僕の言葉に我が意を得たり、とばかりにブライアン伯父さんが満面の笑顔でそう答えて、つらつらとどれだけおかーさんが可愛かったか、おかーさんの部屋は今も昔の状態で整えてある、実家の森を一緒に馬で駆けた日々が懐かしいと語り始めたので、僕とあすみちゃんは互いに顔を見合わせてティーを飲み切ると伯父さんに一声かけて部屋を後にした。
ああなると長いんだよね。一言声かけたから挨拶は十分でしょ。
あ、そうだ実録!グレートプロ野球の27を買ったんだった。あすみちゃん一緒にプレイしようぜい。
「やっぱ甲子園だよね。3年間頑張って甲子園に出て大活躍して優勝! これだよ!」
「3年目はどこまでいった?」
「準決勝で負けた……僕の変化球投手がぼこぼこに打たれたんだよ!! おかしいってあんなん!」
「今回の奴、やたらと投手が弱いっすよねぇ」
学校からの帰り道。モデルの仕事で先に帰ったあすみちゃんを除く幼馴染で新作の実録!グレートプロ野球についての感想を言い合う。二人はあすみちゃんの家でプレイしたらしく、結構やりこんでるみたいだ。そういえばあすみちゃん家のプレイゲーム2に二人が作ったっぽいアレンジチームがあったな。律儀にハラキリトルシニアの面々の名前がついてたから、多分全選手キャラ作成モードで作ったのかな。
僕は自分のキャラを再現するだけで精いっぱいなんだけどなぁ。どうやっても名前しか真似できないよ。
そんな取り留めもない話を交わしながら、時折優勝を逃しちゃった日本選手権と巨神カップの話題を振り返ったりしていつものように家へと帰ったんだけども。
家の前に、いつもなら間違いなく居ないはずの人物の姿を見つけて、僕たちは足を止めた。あれ久留米さんじゃん。え、なんで東京に居るの?




