第75話 対米国女子代表 後編
本日ラスト
第一打席がほとんど始球式と変わらないノリで終わった後。マウンドを交代したあすみちゃんは無事にアメリカ代表にぼっこぼこに打たれ――てなかった。
「うおおおおおおぉぉぉ!」
金髪ツインドリルをなびかせ、猛獣のような雄たけびを上げながらあすみちゃんが投球する。会場の熱気にただでさえ押されていた米国側のバッターはその勢いに飲まれているようで、手を出すべきじゃないボールを打たされて打ち取られたりしている。
流石は鬼畜外道師匠、相手の状況を見るのが上手い。英語は話せないって事だからいつものささやきはしてない筈なのにバッチリ相手打線のほとんどを抑えきってるよね。
ただ、抑えきれない相手はやっぱりいるみたいだけど。
「おー、いったなぁ」
カッキィンと甲高い音を立ててナタリーの打球が僕の頭上を越えていく。流石にこの高さは追いかけてもとれないなぁ。と見送ると、バックスクリーンに直撃してホームランとなった。金属バットとはいえあすみちゃんの打球があそこまで飛ぶんだ。凄いな、ナタリー。ゴリラじゃん。
続くアンジーの打席は良い感じに長打になりそうな当たりだったけど残念そこは権藤です。僕の華麗なるダイビングキャッチによりアンジーの二塁打は没収される事になった。
そしてアメリカの観客は日本よりかなり静かな観戦が多いんだけど、こういうファインプレーの時は敵味方関係なく讃えてくれたりする。大観衆からの拍手喝采は心地いいよね!
「あんた、本気でメジャー狙ってるの?」
「いや、僕は本気で甲子園狙ってるんだけども???」
ベンチに戻ると隣に座るあすみちゃんが割と真剣な表情で聞いてきたけど、僕からしたらお前はなにを言ってるんだって感じだ。多分小学生に上がる前から僕は君たちに甲子園の良さと甲子園を目指すべきりんりを語り続けてきたと思うんだけどな。
さて、ベンチに戻ったはいいけれど僕とあすみちゃん以外の日本の打者はほとんど三振かゴロに終わるせいですぐにまたグラウンドに戻る事になる。せめてもう少し球数投げてほしい所だけど、まぁお祭り試合だしね。互いに派手なピッチャーが投げてるから観客からの受けはいいし、良いのかなぁ。
ちなみに僕の打席の場合は。
「ぐわら!」
ガッキィィン! である。レイチェルは女子にしては球速が速いけど、僕の大苦手な久留米さんやあすみちゃんみたいにやたらと球質が重いって感じじゃないから狙い撃ちしやすいんだ。世界大会の時は二打席目以降勝負してもらえなかったけど、今日はお祭りだからそんな事もないしね。こんな試合に敬遠なんかしたらいくら何でも白けちゃうもん。
同じ理屈であすみちゃんもナタリーやアンジーと勝負しなきゃいけないけど、今のところ点取りレースでは互角の戦いになってる状況だ。問題はバッターとしての話だとあすみちゃんが大分アンジーに後れを取ってるから、僕が打ち損じた場合がかなり厳しい感じかなぁ。
もっともレイチェルのシンカーに上手くタイミングを外されてるけど、あすみちゃんはあと少しレイチェルの投球に慣れれば打てそうな気配あるんだけどね。問題はその後のバッターだ。トロ子ちゃんならワンチャンあるけど、トロ子ちゃん今日は9番だからなぁ。むしろトロ子ちゃんが塁に出て僕が返すのが一番楽ではあるんだけど、そのトロ子ちゃんが鈍足扇風機ってのがね。
「じゃあ歩いて返せよー」
「もちろん毎打席狙ってるよ」
そんな軽口を叩きながら7回。投球数が100を超え、若干疲れが見えてきたあすみちゃんの球をアンジーが捉えた事で点取りレースは一気に不利になる。このタイミングで真久部監督は投手を交代。あすみちゃんをライトに置き、変わりに軟投派の二番手投手をマウンドに上げる。
あの、そこは僕が投げても良いんだけど、と思ったんだけど真久部監督からしたら連れてきてる全投手に経験を積ませたいみたいだし、しょうがないか。なにせ国の勝敗がかかってない試合でベストメンバーの米国相手に投げられるんだ。若手にガンガン経験積ませたいよね。
とはいえそれが結果に伴うかはまた別の話。流石に大観衆に慣れてきたのと、明らかにあすみちゃんより打ちやすい相手に米国打線は大爆発し、9回には11対5と6点差をつけられることとなる。さすがのレイチェルもあすみちゃんとほぼ同じタイミングで降板してたけど、米国側の替えの投手は日本打線をのらりくらりと交わしてくるピッチングで上手くチャンスを潰してきて点数に繋げさせない。
うん、これは負けだね。流石にこっから6点差を取り返すのはちょっと無理だ。真久部監督もそう考えたのか、9回表最後の打席で僕はマウンドに再び立つことになる。
「ごめんね、こんな場面で」
「気にしないでください。ちゃんと〆ちゃいますから!」
塁をランナーで埋めてしまった先輩投手に謝られながら、手をブンブンと振って気にしないでアピールをしておく。まぁ満塁の場面で後続に引き継ぐのは気まずいよね。気持ちは分かるのでそこは気にしないでほしい。
さて、と。これだけランナーが居ようが結局やることは変わらないというか、相手バッターも塁に出てるランナーも「あー、今日も一日頑張った。最後のマキュウみて風呂入って寝るか!」みたいな表情を浮かべてるからね。完全に祭りの後ムードだ。
まぁこうなってくるとほとんどファンサだよね。初球にエベレストフォークを投げるとうおっみたいな表情で相手がのけ反ってボールを見送っていく。初見だと飛球シリーズは怖いんだよね、浮き上がってくるからこれ振ったら体に当たるんじゃないかって思う人もいるみたい。
次に投げるのは内角高めへの飛球ストレートだ。これもまた相手バッターはのけぞる様によけて大騒ぎをしている。うんうん、喜んでくれてるようで何より。
じゃあ、行こうか。
――女神様、オマタセシマシタ。ガチャのお時間です。
【ガチャ! ガチャのお時間ですね! いっぱい回していきましょう!】
――いっぱい回すのはトロ子ちゃんの精神面を考えて止めてほしいなぁ。
僕がボールを投げた瞬間、そのボールはレフトの外野席手前までぐわんと飛んでいった。観客が驚く中、その球は振り子のような軌道を浮かべて反対側のライトの外野席手前まで飛んでいく。これを何度も繰り返し、少しずつその振れ幅を小さくしながらバッターボックス前まで飛んで行ったあと、ボールは右に左にほとんど直角に、ピンポン玉のようにストライクゾーンを跳ね回り、最後にスパァンと良い音をたててキャッチャーミットに納まった。
【魔球ピンボール! 跳ね回るボールに目が追いつかず相手は死ぬ!】
――ストライクゾーンを跳ねまわってるならストライクだよね。うんうん
さしずめキャッチャーミットがアウトホールって事かな。確かにあそこにボールが入ればアウトって事だからよくできてるね。この魔球はチケット候補に入れとこう。
さて、そろそろ大観衆も現実に戻ってきたみたいだし、いつもの調子で〆るとしよう。手を高く上げて3本の指をたて、僕は声を張り上げた。
『スリーアウトチェンジ! さ、最終回頑張ってこー!』
『『『Yeah!Yeah!Yeah!Yeah!』』』
うんうん、観衆の様子を見るに僕の仕事は完ぺきに果たしたね。さて、今日は米国最後の夜だしナタリーたちを誘ってスイーツ食べに行こうかな!




