第71話 渡米と再会
本日1話目
いやー、台湾戦は激戦でしたね! 3-2でギリギリチャンピオンの面目を保ったって感じでした。
あ、試合の詳細? 日本側は真中パイセンが気合で6回1人を2失点で乗り切り、僕とあすみちゃんとトロ子ちゃんの3連打で勝ち越したよ。僕も今回のワールドツアー標準セットになってきてる試合開始と閉幕の2アウトを魔球でもぎ取ったりと大活躍だったね。打点……打点は打点乞食のあすみちゃんにとられちゃったよ。ちくしょうめ!!
やっぱり台湾代表は強いね。エキシビションマッチなのに僕を敬遠してくる心根も含めて強いと思うよ。なんで自国の民衆にブーイング喰らってたんだろ。流石に可哀そうだろ。
「まー、お祭り試合で敬遠はありかって話だわなー」
「オールスターとかで敬遠したら何しに来たんだって言われかねないものね……」
「僕としては真剣に日本に勝ちに来てるなって好印象だったんだけどね」
魔球に関しては完全にお客様モードだったけど。最初の打席にもはや定番化した魔球ホムンクルスを投げたら打席に居る打者が飛び跳ねて大喜びしてたからね。それで良いのか一番打者。君がチームの切り込み隊長だろうに……
ま、まあそんなこんなで台湾での試合も終わり、次はアメリカさんとの交流戦だ。本当ならこのままアジアを回るのが効率良いんだけど、アメリカ側のスケジュールの関係で8月前に終わらせたいらしいんだよねぇ。
その後はカナダとベネズエラに回る予定らしいんだけど、ベネズエラって女子野球あるのか……? あそこはプロを目指す子ばかりって印象だから女子野球選手ってあんまりイメージないんだけど。まぁ、男子はアマチュア野球じゃ下手すると日本に勝っちゃうこともあるチームだし、野球人口自体は多いだろうから女子も居るのかな?
「そういえばー、あっちでやってる全米大会でー。ケーちゃんが無双してるみたいだぞー」
「おお、流石はケーちゃん! 去年と同じくヤンキー共をしばき倒してほしいね!」
「弟の方も活躍してるってなー。あいつが活躍すると、私の出番が食われるー」
「同ポジの悲痛な叫びだね……あーピッチャーで良かったいてぇ!」
物思いにふけっていると、トロ子ちゃんから景気のいいニュースが入ってきた。男子世代代表チームが米国で大活躍しており、その中心に我が幼馴染、田中兄弟が居るのだとか。思わず安堵のため息を漏らしていると、トロ子ちゃんから拳骨が振り下ろされた。ひ、ひどい! 僕が何をしたっていうんだ!
長い事飛行機に揺られて、寝て、起きたら米国の空の上だった。見渡す限りの大地しか見えないよ……こ、これが大陸って奴か。日本だと上空ならどっちかに大体海が見えるもんね……
今回、僕たちが試合を行うのはニューヨークらしい。人の数としても興行としてもまぁそりゃそうだよねって感じではある。ただニューヨーク付近は元々野球熱が高い地域だから、僕らが試合して増えるファンがどれだけいるのかって感じではあるんだけどね。
「アメリカでやる理由なんてー金以外にあるわけないだろー」
「お、おう」
僕のつぶやきにぼそりと返して、トロ子ちゃんが人の悪い笑顔を浮かべる。うん、鬼畜外道師匠は今日も通常運転みたいだね。
なんでも日本代表VSアメリカ代表の試合はニューヨークヤンカーズのホーム球場で行われるらしい。バリバリシーズン中なんだけど大丈夫なのかなって思ったら、意外とドームが空いてる日もあるみたいでそこを抑えたのだとか。
そしてこの試合のチケットは通常のメジャーリーグ観戦チケットの倍の値段で売られているらしい。びっくりだね。しかももう予約でチケットが全部捌けてるから、当日は球場外にでっかいモニターを設置する状況になりそうなんだとか。びっくりだね(二度目)
いやぁ。ここまでの国々でも思ってたけど、マキュウブームヤバくない? 変なお薬キメてるのかってくらい夢中な人が多いし、依存性高いなにかを出したりしてないよね? 今度女神様に問いただすべきかなぁ。
でも女神様はそういう方向には興味無さそうだったし、やっぱり明らかに物理的におかしいものを見た人たちが正気を失って発狂してるだけってのが僕的には正しい気がする。佐竹さんもお目目キラキラしながら野球してる相手チーム視て「SAN値直葬やん狂っとる」とか苦笑いしてたし。でもなんで産地直送なんだろうね。実家から直接来たって意味かな?
「日本代表の皆さん! 遠い所をお越しいただきありがとうございます。双方にとって実りある試合にしましょう」
ニューヨークに着いたら、米国側のお偉いさんが通訳を連れて空港で出迎えをしてくれた。そして眩しいくらいに焚かれるフラッシュの嵐。うわー、目が痛い。日本側を代表して真久部監督がお偉いさんと握手を交わすと、彼は通訳に何事かを伝えて僕を見た。あ、これは賢い僕には分かるぞ。呼ばれる前にトコトコと前に出て、満足そうに頷くお偉いさんと握手! そしてまた焚かれるフラッシュの嵐。
皆さん、これがエンタメです。自国のお偉いさんと外国のにんきものが握手をするだけでも国内の人はにっこり出来てしまうんですよ。このお偉いさんは人気取りができてWIN、僕らはこのお偉いさんの心証を良くして滞在期間中の扱いが向上すればWIN。どちらにとっても損のない素晴らしい行事ですね。うんうん。
空港でのお出迎えが終わった後、僕らを案内してくれたのはお偉いさんが連れてきていた通訳さんだった。日本語が分かる人がいた方が話は早いしね。
「はえー、でっかい」
「あら。ここ、お母さまがニューヨークに来るときによく使うホテルよ」
「金持ちめー」
そして案内されたホテルはニューヨークでも上から数えた方が早い超高級ホテルである。こんなホテルにチーム全員で泊まらせてもらうって米国側はいくら今回の計画に突っ込んでるんだって戦慄しちゃったけど、よくよく話を聞いてみたらこのホテルは今回の米国代表VS日本代表戦のスポンサーをしているそうだ。ようは米国代表の運営側の企業って事だね。
今回の試合は米国内でも大評判らしく、米国のテレビ局からはひっきりなしに取材が舞い込んでくる状態。当然テレビカメラが回されるたびにホテルの外観が映し出され、アマチュア野球のスポンサーとしては異例ってくらいに費用対効果が高い。とあすみちゃんは分析してる。こういう話を聴くとあすみちゃんはちゃんとブライアン伯父さんの後継者してるなぁって思うね。
「お父様はあんたにも経営に参加してほしいって思ってるみたいだけど」
「いや無理でしょ。僕はどう頑張っても一介のプレイヤーが精いっぱいじゃないかな」
あすみちゃんと駄弁りながら割り当てられた部屋で荷物を広げていると、リンゴーンとドアベルのなる音がする。おや、早速誰か来たのかな、とドアののぞき窓から外を見てみると、一年ぶりに見る顔がそこにある。
『ハァイ! あまちゃん! お久しぶりね、遊びに行きましょ?』
『お久しぶり。私は、その。お姉ちゃんに連れられて』
『うん、お久しぶり。元気そうだねぇ』
ナタリーとアンジー。米国女子野球代表チームの主砲と正捕手は、相変わらずの様子で声をかけてきた。




