第68話 対韓国ナショナルチーム
本日3話目
連日満員の球場で公開練習とかいう良く分からない歓迎を受けて数日。ついに韓国ナショナルチームとの試合の日がやってきた。
「すみません、色々とお手間をおかけしますが」
「任せてくれシスター。あまねちはこの手の興行のプロだからな」
「いやプロじゃないんですが???」
結局今日まで僕たち日本代表と帯同していたキム・ジウォンちゃんが僕たちに何度も頭を下げるが、彼女と仲良くなった佐竹さんが自分は試合に出ないのに太鼓判を押して僕の肩を叩いてくる。おかしいな、僕はげいのーじんとはいえ野球選手で通ってる筈なんだけども。
球場は韓国プロ野球でも使われるという大きなドーム球場だ。なんとこの一日だけプロ野球の興行を別球場に移しての試合だという。女子野球が男子プロ野球を差し置いて良いのかって疑問はあるけど、ドーム球場の運営側としてはこれで良いという判断なんだろう。
なにせ、数万人は入るだろう球場がすでに満杯。事前予約の段階でチケットが完売したというから、恐らくキャパシティ一杯に詰めかけているんだろう。更に当日券目当てに観客が押し寄せているって話だから、運営側は急遽屋外にもスクリーンを設置して試合の中継をそこかしこで行うんだとか。
いや、怖いわ。なんでここまで人気なんだよ。母国の日本でもここまでじゃないぞ。
「それだけAMACHANがワールドワイドな人気を博してるって事でしょうね。イギリスにいるお母さまも連絡の度に笑っていらっしゃったわ」
「オリヴィア伯母さんはいつも笑ってるじゃん」
数回しか会ったことがないけど、それだけで脳内再生が余裕で出来るインパクトのある伯母の姿を思い出す。カリスマデザイナーとして欧州で大人気の人だから、滅多に日本には来ないんだけどね。超豪華版あすみちゃんって感じで一度見かけたら脳裏に焼き付いて離れないんだ。
「まぁ、今年の冬には仕事でこちらに来るらしいから。その時にでも欧州でのAMACHANがどういう扱いか聞いてみたら良いんじゃないかしら」
「AMACHANって呼ばれるの慣れないんだよなぁ」
愚痴を言いながら、グラウンドに整列して韓国ナショナルチームと挨拶を交わす。ちなみに僕が一番前だ。普通はキャプテンの一色さん(29)がこういう時は先頭で相手のキャプテンと挨拶を交わすんだけど、今日に限っては絶対に僕が先頭でとのお達しが出てるから特別な順番だよ。
なんせスコアボードの表記も日本のJじゃなくて世界大会優勝チームって意味でWが付けられてるからね。どんだけ対日感情悪いんだよって笑っちゃった。
「「「AMACHAAAAAAAN!!!」」」
「「「MAKYUU!!!!」」」
そして挨拶を交わすだけでこの大歓声。あ、あれ。僕は野球をしに来た筈なんだけどいつの間にかコンサートを開催していたのかな……?
なんて錯覚を起こしながらもマウンドへ足を向ける。今日の試合は日本が後攻だ。少しでも僕がグラウンドに居る時間を長くしたいという韓国側の要望に応えた形になる。というか、韓国ナショナルチーム側も自分たちが勝てるとはほとんど思ってないのがね。
いや、まぁ。男子のほうなら兎も角女子野球の方は本当にまだまだ発展途上なんだね。今回の試合を機に韓国の女子野球を盛り上げたいって熱意も分かるから、僕も頑張って客寄せパンダしないと。
――というわけで本日のチケットはこんな感じでお願いします。
【ふむ、ふむふむ。なるほど、女神はこの魔球の意図を完ぺきに見破りました。権藤あまねさん、なかなかの策士のようですね?】
――へへぇー。女神様のご想像通りでごぜーますー
今日は水鳥先生が居ないからか、ご機嫌な女神様の声を聴きながら灰色の世界から現実世界へ。さて、仕事の時間だ。
最初のバッターはここ数日帯同して仲良くなったジウォンちゃん。一緒に練習にも混ざってたから分かるんだけど、ジウォンちゃんは打てる守備要員って感じの選手だ。足も速いし守備範囲も広い。女子日本代表の方でも十分通用する良い選手だね。
ただ、十分通用するってだけで大活躍とまでは言えない。僕が投げた低めのムービングファストを、芯でとらえることが出来ずにファールへ。アレがアメリカのアンジーとかなら力で長打にしてるだろうから、まぁ普通に打てるくらいのバッターって感じだね。
低めに意識が向いたところで高めに高速ナックルを投げると、ジウォンちゃんはクルリとバットを回転させて2ストライク。もう一球遊び玉を混ぜても良いけど、今日は完全なエキシビジョンマッチだからね。顧客のニーズにお応えするために、投げる球はもう決まってる。
僕が投じたボールはゆっくりとしたスピードで飛びながら小太りの小人オジさんへと変身し、爆音で音楽を奏でながら踊り始めた。ジウォンちゃんの困惑が見える。そうだね、小太りの小人オジさんをバットで殴って良いのか。人としての倫理観が問われる場面だね。
そのままオジさんは踊りながらストライクゾーンに差し掛かると、元のボールに戻ってまっすぐキャッチャーミットへ突き刺さった。ボールがストライクゾーンを通ってキャッチャーミットに収まった。完ぺきなストライクの要項を満たしている投球だ。
受けるトロ子ちゃんも慣れたもので、ミットの中のボールを球審に見せてアピールプレイをしている。球審はまだ現実感がないのか僕とトロ子ちゃんを何度も見た後、大きなジェスチャーでストライクをコールした。
【魔球アイドル! 踊り狂うアイドルの姿に我を忘れてバットを振らず相手は死ぬ!】
――あれがアイドルなのか。韓国……あ、次の魔球はこれでお願いします。
本日は特別に。開始と終了時に魔球の二本立てで行わせていただきます! 最近、チケットが溜まってたからね。二枚使っても痛くないのだ!
それにこれだけサービスしてたら今日の懇親会の料理も期待できるげふんげふん。野球を盛り上げるのは野球選手の義務だからね! 義務!
「というわけで1アウトー! 今日もしまって行こー!」
「「「いやいやIYAIYA!」」」
さぁ今日も頑張るぞ、と声を張り上げると、会場中から一斉にいやいやコールが湧き上がる。あ、あれ。もしかしてこのコール、お約束になってる……なってない?




