僕は受けた恩はちゃんと返す主義なんだぜ!
本日2話目
大観衆に戸惑っている僕たちに、韓国ナショナルチームのユニフォームを着た高校生くらいの女の子がニコニコしながら日本語で話しかけてきた。おお、日本語! 確か去年の国際交流戦でヒットを打ったのに相手の監督にビンタされてた子だったかな。活躍したのにビンタかよって驚いて顔を覚えたんだよねぇ。
バッティングの方は1安打だったけど守備の方で良い動きしてたし、韓国全体の中でも上位の総合力を持った選手だったから今年もナショナルチームに参加してるんだな。
「私、キム・ジウォンです。あ、日本人の皆さんだとキム・ジウォンニダって言った方が良いか?」
「いや、なにその話し方」
「あ、あれ? 日本人、韓国人の話し方はこうだって印象持ってるって書いてたのに。おかしいな」
ジウォンちゃんが明らかに僕に向かって話しかけてくるから対応していたら、気づいた時には先輩方の姿が周囲から消えていたよ。外国人アレルギーの日本人どもはさぁ……(ため息)
仕方ない。なんか日本人に対して誤解してるみたいだしここはこの権藤あまねさんが一肌脱ぐかぁ。なんて思っているとポンと肩に手を置かれ、そちらに振り向くと良い顔をした佐竹さんがジェスチャーで私に任せろとアピールしてきた。いや、言葉で言おうよ。なんでジェスチャー?
まぁ特に拒否することでもないので頷くと、佐竹さんは良い顔をしたままジウォンちゃんの前に立ち。
「ぬるぽ」
「ガッ」
バシーン! と大きな音を立てて、佐竹さんとジウォンちゃんの右手がぶつかり合う。たったの一言でハイタッチを交わすほどに打ち解けた……!? バカな、この一瞬でいったいどんなやり取りが行われたんだ……!?
球場の中にあるロッカールームに案内された僕たちは、着替えもそこそこにジウォンちゃんからの相談――という名前の韓国側の要望を聞かされていた。
「ピッチャーは権藤あまねさんで。魔球とかガンガン投げて良いから権藤あまねさんで。もしくは万が一権藤あまねさんが降りるような事があれば山田・シャーロット・あすみ選手にお願いしたいんです。あ、ですニダ」
「ニダは要らんぞシスター。それは2ちゃんの頭の可笑しい連中が使う韓国蔑視のスラングだ」
「そ、そうなのかシスター。ありがとう、日本語は難しいな……」
「まぁネット経由で日本語を学んだらそうもなるか……いや凄いな。普通無理だぞ。シスターは十分すぎるくらい日本語が出来てるから、後は経験で習熟できる! 私が保証する!」
「シスター……! トゥンク」
意味が分からないやり取りで打ち解けた佐竹さんとジウォンちゃんは、ついさっきであったばかりとは思えないくらいの阿吽の呼吸で会話を交わしている。ただ、それだと正直意味わからないんで僕らの言葉になんとか翻訳して日本語にしてほしいんだけども。
僕の要求が通じたのか、佐竹さんは一旦口を閉じてジウォンちゃんに続きを促した。さすがは佐竹さん、時たま変になるとき以外は普通の頼れるお姉さんなんだよなぁ。
「えーと。そう、ですね。まず今の外のアマチャンフィーバーが最大の理由です。日本の皆さんだと分かりづらいかもですが、韓国はちょっと対日戦だと特殊でして。負けると選手側が国民に責められるんで、私たちとしては負ける戦いをしたくないんですが、アマチャンだけは別なんです。アマチャンは韓国でも大流行してて、もしかしたら北埼玉デッドボール相手でも別かも。あとは、恐らく山田選手も別です」
「う、うーん?」
所々たどたどしくなりながらもジウォンちゃんはなんとか説明しようとするも、あんまり要領を得ないというかなんというか。韓国側は負けたくない。でも僕とあすみちゃんは別ってどういう事なんだろ。
「シスター、つまり韓国ナショナルチームとしては日本代表に負けると非常にまずいけど、相手があまねち……権藤選手や山田選手なら国民感情を抑えられると思ってる。そういう事か?」
「あ、そう! それですシスター! 流石はシスター、私に出来ない事を平然とやってのける! そこに痺れる、憧れるぅ!」
「ジジの奇妙な人生は名作。異論は認めない」
ジウォンちゃんのヨイショに渾身のどや顔を披露しながら、佐竹さんは僕らに対して恐らくこうだろうという説明をし始めた。
去年の国際交流戦で、恐らく日本代表に負けた韓国ナショナルチームは結構なバッシングを受けたのだろう。それが今年も起こる事を恐れているのだが、日本代表と韓国ナショナルチームの間にある壁はたった一年で越えられるようなものではなかった。それを昨年肌で感じていたから、韓国ナショナルチーム側は敗北した場合における一計を案じたらしい。
それが世界中を駆け巡る流行、マキュウフィーバーである。
韓国では昨年の世界大会以降、米国で大流行、と銘打って毎週のように北埼玉デッドボールの試合を放映しているそうだ。なんでも韓国は米国の影響を受けやすいらしく、実際に米国で流行ってるのは間違いないからと放映してみたら瞬く間に北埼玉デッドボールの試合は大人気コンテンツになったらしい。
そしてそこから流れるようにAMACHANが流行り始めたのだとか。AMACHANってなんだよ。もうそういうキャラ名のヒーローでも居るんじゃないかって最近思うようになってきたよ!
あと、それだとなんであすみちゃんはって話だけどあすみちゃんは見た目からして日本人じゃないかららしい。金髪赤目の上に身長180オーバーだからな、あすみちゃん。アジア人には確かに見えないか……
「実際、韓国ではAMACHANは日本人じゃなくて、マキュウの代名詞みたいな感じです」
「ピッチャーと魔球の立場が逆転してるんだけども???」
「まぁ、あながち間違ってないんじゃない?」
僕の率直な意見って奴にあすみちゃんが正論パンチで殴りつけてきたので、さっきから視界の端にチラチラ映る憎たらしい縦ドリルを引っ張っておく。大観衆だからっていつもよりも見栄えが良くなるように巻きやがって! この! この!
とはいえ、事情は分かった。分かりたくないけど、まぁ、別に公式戦ってわけでもなし。今回のワールドツアー自体が魔球人気にかこつけて野球ってスポーツの知名度を上げたいという国際野球機構の思惑で組まれたツアーだからね。客寄せパンダとして期待されてる以上、それらしく振る舞うのはやぶさかじゃない。ただ、それなら北埼玉デッドボールに直接話を持ってった方が良いと思うんだけどなぁ。あっちはもうその道のプロ集団だし。
それとジウォンちゃんがこうして僕らに帯同するような形で案内役を仰せつかったのも、韓国のお国柄みたいだ。ジウォンちゃんは韓国ナショナルチームでも最年少でレギュラー陣でも一番の下っ端扱いだから、こうやって他所の国の雑用に差し出しても問題ない。という建前で日本語が出来るジウォンちゃんを日本代表に帯同させて、韓国側の内情を伝えてなんとかソフトランディングを図りたいのだとか。
そういって頭を下げるジウォンちゃんに、日本代表メンバーは困ったように顔を見合わせて僕を見る。僕の匙加減次第だからね、これって。
いや、まぁそんな目で見られなくても、そこまで言われたらこちら側としてもある程度合わせるくらいはするよ。再三いうけどこれ公式戦でもないただの親善試合だもんね。なにより、最高級ホテルに泊めさせてもらって美味しい韓国料理でもてなされたんだから、別に八百長やれって訳でもないならこっちとしても相手の事情に合わせて忖度くらいはするよ、常識的に考えて。
ただ試合をするよりもちょっと条件がついちゃったけど、僕は受けた恩はちゃんと返す主義なんだぜ! まぁ、任せてくれたまへよ。ふんすふんす。




