第63話 閑話 げいのーじんのお仕事
本日3話目
「野球用品の宣伝? いいけど」
「そうですか、良かった」
中学二年生も始まり、学業にスポーツにげいのー活動に忙しい日々を過ごしていたある日。マネージャーの有川さんがいつもとはちょっと毛色の違う仕事を持ち込んできた。なんでもアメリカで開発されている野球練習用の道具があり、これを宣伝するためのCMを作りたいのでぜひ権藤あまねさんに出演を、と熱烈なオファーが米国の動画配信サービスの運営会社に来たらしい。
うん、なぜか動画配信サービスの運営会社の方に。なんでも先方は権藤あまねというタレントの連絡先を探したけど国内だと見当たらず、仕方なく公式に協力関係がある動画配信サービスの運営さんに連絡したのだとか。
あれ、おかしいな。もしかして僕、アメリカ人だと思われてる?
「米国の人はAMACHANを米国人だと思ってるらしいですね」
「おっかしいなぁ。僕、世界大会で日本代表として活躍した筈なんだけども」
「ブライアン様も驚愕しておられました。我が山田グループは米国にも進出しているのに、そちらに連絡が何故来ないのか、と」
あれ、僕とブライアン伯父さんとで驚愕してる部分が違う気がするけど。い、いや。これは経営者と一労働者との視点の違いによっておこる誤差だよね、うん。ブライアン伯父さんが素で僕が日本人だという事を忘れてるなんてあるわけない……ないよね?
さて、色々疑問が湧き上がったお仕事だけどお仕事はお仕事。引き受けた以上はきちんとやらせてもらうよ、という事で色々条件を詰めてみたんだけどね。詰めれば詰めるほどに問題のオンパレードになってビックリ。
まず、先方の要望としては世界規模での知名度確保を狙っていて、今回協力してもらった動画配信サービスや衛星放送みたいないろんな国で視聴できる形にしたいらしい。ネットの利用者はここ数年でどんどん増えてるから、そこに宣伝広告を、というのはかなり先見の明があると思う。僕もブライアン伯父さんにネット関係は押さえた方が良いって言ってるし、相手先の戦略は理解できる部分が多い。
ただ、問題はその先見性に反比例するかのような足元のお留守さというか、わきの甘さが見え隠れする所がね。米国内での撮影まではまだ理解できるんだけど、出来れば北埼玉デッドボールの試合を背景に撮影したいって何いってんだこいつってなっちゃったよ。
北埼玉デッドボールの参加者は元プロ野球選手やげいのーじんが多数いて、日本国内ですら毎週末メンバーを集めるのに苦労してるんだぞ。その面々を引き連れて米国遠征なんてそうそう出来るわけないでしょ。せめて半年前くらいから調整しないと無理だって。
その事を先方に伝えて戻ってきた返答は、「北埼玉デッドボールは米国のアマチュア球団だと思ってた」だからね。いや、まぁ。前の世界大会でそういう人が多いって米国の選手から聴いてたけど、スポーツ用品を開発してる会社がそれは色々不味いんじゃないかなって思うんだけどもね?
というか北埼玉デッドボールに仕事として出演を依頼したら総額いくらになるんだろ。ブーさんは確か一本で数十万超えるって言ってたし、それがチーム丸ごと米国出張って考えたら億とか軽く超えるんじゃないかな?
流石にそんな予算は米国の企業でも難しいだろうし、結局米国内での撮影は取り止めて日本での撮影に相成ったわけだけど。今度は北埼玉デッドボールと試合を組むという点が結構なネックになる。先方は自社で持ってるアマチュアチームを対戦相手にしようと思ってたみたいだけど、それがもう無理というかね。
そもそも北埼玉デッドボールとの試合は、社会人野球全体の大人気コンテンツになっていて半年先まで予約で埋まってるんだよね。中にはセミプロばかりが居る大企業なんかも順番待ちしてるから、そこに簡単に割り込めるかっていうとそれは無理って話になる。半年先まで一気にズレちゃうからね。
という訳で自社チームとの対戦も無理ということになったんだけど、米国企業のCMにAMACHAN以外アジア人しか出ないのは流石にどうなのかって至極もっともな言い分が出てきて色々相談した結果、対戦相手の企業チームに一時的に用意した外国人選手を参加させて、さも米国で撮影してますという空気を出してお茶を濁すことにしたのだ。
それで良いのかって思うけど、まぁそれで良いのだろう。業界の黒い部分を見てしまった気になるよね……それと僕はちゃんとアジア人だぞ???
そんな感じで色々な問題を孕んだけれど兎に角撮影は始まった。始まった以上、精一杯お仕事をするのが僕らげいのーじんの役目だからね。良い映像だと満足してもらえるように頑張らないと……いけないんだけどね。
『こんにちは、権藤あまねです。野球がうまくなるには適切な練習が必要です。今日は僕がオススメするGive me Zipを紹介します(cv権藤あまね)』
『使い方は簡単! コードをフェンスかなにかにひっかけて後はピッチャー役の人が引くだけ! ボールはコードの通りに飛んでくるからそれをバットでかっとばせ! かっ飛ばしたボールはピッチャーの手元に戻ってくるから周りも安全! ホームランボールが通行人の頭をホームランすることもないぞ! 少人数の練習にオススメだね!(cv権藤あまね)』
撮影中、普通に試合をしながらその脇。普段は投球練習をしているファールグラウンドで実際に僕やブーさん等の北埼玉デッドボールの面々がこのGive me Zipを試してみる。ある程度のスペースがあれば使えるから確かに思った以上に使えそうというか、純粋に面白いんだけどもね。
これ、わざわざ北埼玉デッドボールの試合を指定してやる意味あったのかな?
『住宅街や細い道。子供だけじゃ練習しづらいですよね? そんな時にこのGive me Zipが役に立つんです(cv権藤あまね)』
流石に演技っぽく喋るには僕の英語は不安定だったから、別撮りで録音した音声に口パクを合わせながら撮影をして、そのまま試合も進めて終了。今日は女神様が苦手としている水鳥先生も居なかったので普通に魔球を〆に投げてブーさんが爆発したけれど、そこもCMに使うらしい。
え、それのための一言も? あ、はい。Give me Zipを使っても魔球は投げられない、と。これ言わないと勘違いした人が訴訟してくるから? べ、米国って怖い国なんだなぁ。




