第62話 中学二年生
本日2話目
選抜大会から帰って数日後。ということは、うん。そうだね!
権藤あまね、中学二年生になりました!
「まぁ、まだ1年は入学してないんだけどね」
「入学式は明日だっけ?」
とはいえ先月と変わったことは3年生が居なくなったくらいで、柔道部の幽霊部員である僕の生活は特に変わる事はない。あ、クラス替えがあったくらいか。あすみちゃんと一緒になれたのは運が良かったね。田中兄弟は隣のクラスでちょっと残念だったけど。
ケーちゃんあすみちゃんと同じクラスになったらあすみちゃんの楽しい反応が毎日見れるんだよね。3年のクラス替えを期待しとこうっと。
柔道部と言えば今回の新入生歓迎会で柔道部のアピールしなきゃいけないんだった。僕は月に1回参加するかどうかの幽霊部員なんだけどね。代わりに大会とか諸々免除して貰ってるからたまには部活に貢献しないと。部長からも頼み込まれちゃったしなぁ。
というわけで入学式も終わり。学校説明も兼ねた新入生歓迎会が行われたのだけども。
「目の前にアイドルが居ようが芸能人が居ようが僕らは大丈夫! 何故なら僕たちはすでに、そんな誘惑にも耐えられる強い精神力をみにつけているのだから! 柔道をすることによって!」
「そんな原木♪」
「そんな原木♪」
「じゅうど~ぶ!」
「「どぅわ~♪」」
「あ、僕は幽霊部員なんで悪しからず」
体育館の舞台上で部長と副部長が織りなす三文芝居に最後だけコメントを添えて出番終了です。お疲れさまでした。
これで部員が増えたらちょっと新入生の常識を疑っちゃうかも、と思っていたら柔道部は歴代最多の部員数になったのだとか。明らかに僕目当ての子には悪いんだけど僕、月に1回顔出すくらいの頻度の幽霊部員なんだけどね……?
「いや。権藤はうちの学校だと他に接点全然ないからなぁ。放課後なんかバタバタ出かけるし昼間すら学校に居ない日も多いし」
「なんでこれで成績上のほうなんだろうな」
「ちゃんと空き時間で勉強してるからだよ!」
お目目をキラキラさせた新入部員が遠巻きにしてくる中、同級生の柔道部員にそう愚痴ると率直な意見が返ってきた。こいつらも同じ小学校上がりだからか気安いというか割とずけずけ言ってくるんだよね。それが今はちょっとありがたかったりする。
ミーハーって言うのかな。遠巻きに見てくる子たちが最近増えてきたのは、多分テレビの影響なんだろうなぁ。げいのーじんになって一番変わったのは、やっぱり周囲が自分を見る目だったりする。あの遠巻きに見てる子たちの中には、一昨年まで先輩先輩って僕に声をかけてくれていた子も居るんだ。それが今じゃあアイドルを遠巻きに眺めるファンの一人になっちゃってるんだからね。
自分としてはなにも変わったつもりはないんだけどね、ちょっと寂しいって思っちゃうな。
「随分とファンシーな柔道部だねぇ」
「あの。僕の相談に対して返答がそれです?」
さて、今日も今日とて日曜日。最近は試合会場も大きくなり、観客数も増加している北埼玉デッドボールの試合で僕はいつも通りに金ちゃん監督の隣に座り、いつも通りに試合の解説をしているわけだけど。
僕が人生の相談をしているのにちょっと酷いんじゃないかな? 金ちゃん監督の人生経験の豊富さを見込んで相談してるというのに!
「いやぁ。だって自分でこの道に飛び込んだんだから、周りが変わっていくのなんて当たり前だよ。それにあまちゃん、なんだかんだ言ってるけどもう割り切れてはいるんでしょ?」
「まぁ、うん。寂しいなとは思うけど、この道を進むと決めたのは僕だからね」
「うん」
僕の言葉に金ちゃん監督は少しだけ笑って頷いた。北埼玉デッドボールに参加すると決めた時点で、こうなる可能性もちゃんと考えていた。名前を売るってのは、知名度を上げるってのはこういうものなんだって。だから、僕が今言っている言葉は全部愚痴だ。この道を行けばどうなるものかって有名なプロレスラーも言ってたけど、歩んだ道のりは自分が歩いた道のりなんだ。当然責任も結果も全て僕に帰結する。それから逃げる気はもちろんない。
だけど、たまには愚痴りたくなることだってあるからさぁ。もうちょっと真面目に聞いてほしいんだけどね?
「仕方ない。この憤りは全てブーさんに投げる魔球で解消するとしようかな」
「ああ、それなら全然オッケー。番組的にもありがたいなぁ」
「頼んだぞブーさん!」
HAHAHAHAHA!
「なんでだよ!!」
仕方なく。本当に仕方なくだけどね。胸の奥のもやもやをスッキリするためにもやっぱり体を動かすって大事だよね? ほら金ちゃん監督もOKって言ってるし他の芸人さんたちも親指立ててるから僕は間違ってないよね。というわけでいつものキレ芸でアピールしてるブーさんのためにもいっちょ一投げ行きますかぁ。
「いやぁ、思った以上に盛り上がってるんですねぇ」
「あ。水鳥せんせ」
「遅れて応援に来て申し訳ない。ただ、肝心のタイミングには間に合ってよかった」
金網越しに声をかけてきた水鳥さんがスケッチブックを開きながらそう口にする。スケッチ出来る魔球だといいね……封印した魔球ワープとかみたいなのが出たら流石に描写もなにもないからなぁ。
――女神様、というわけで今日の魔球はちょっと派手目な感じで。見やすいのが多いと嬉しいのですが
【あ、あばばばば】
――女神様? 女神様ぁ?
最近連載が始まりインターネット上で読める漫画として好評を博しているらしい権藤あまね野球伝(仮)のお礼も兼ねて、かるーくファンサしようかと女神様にお伺いを立てたんだけど、女神様の様子がおかしい。
いるのは分かっているんだけど、反応がおかしいというかなんというか。呼びかけにも反応しないし、どうしたんだろ。
――女神様ぁ。ガチャですよガチャ。ガチャのお時間ですー
【ガチャ! いえ、しかし……ご、権藤あまねさん。ガチャは大変心躍るのですが、女神はまだ心の準備と覚悟がですね?】
――いや魔球を投げるのにどんな覚悟が???
なんかこんなやり取りをつい最近やったような気がするけど、今日の試合は北埼玉デッドボールの試合。魔球は〆に使われるものだから、こないだの選抜大会と違って投げられないとちょっと困るんだよねぇ。いや、まぁ水鳥さんが居るし夢飛球でお茶を濁す手もあるけど。
……水鳥さん……?
そういえば、と思い起こす。水鳥さんが居たり見てる試合では女神様の様子がおかしかったり、魔球がお休みになったりしてたなぁと。
ぽくぽく、ちーん。賢い僕は考え、そしてとある結論に至った。
――もしかして女神様……
【いけません、権藤あまねさん! 女神は、女神はもう! このチカっと光ったら前後数分の記憶が飛ぶ光線を使うしか!】
――水鳥さんが苦手なんだね! まぁ苦手な人がいるのはしょうがないよね!
【フーッ! 権藤あまねさんが権藤あまねさんで良かった……】
女神様、水鳥さんが苦手なんだなぁ。うん、間違いない。苦手なのはしょうがないから今日は夢飛球でお茶を濁すか。カーッ! 信者は辛いなぁ、信仰対象にも配慮しないといけなくて! カーッ!
なお飛球シリーズでフォークを投げたら水鳥さんがまた泣き始めてちょっと気まずい思いをしたのは別の話だ。エベレストフォーク? あ、そういう魔球も書いてたんですね……し、知ってたよ。もちろんじゃないですか!




