第61話 全国選抜優勝
本日1話目
雑賀一さんはやっぱりドクターストップで病院へ行くことになった。恐らくはヒビが入ったくらいらしいけど、骨折とかは癖になる場合もあるからね。大事を取って早めの受診が一番だ。代わりにマウンドに立ったのは雑賀3兄弟の3男坊、雑賀三くん。
リトル時代はケーちゃんのライバルとして全国でも名が通っていた彼は、実際にそれを裏付ける能力も持っている。120後半の威力のある直球をほどよく散らしながら、決め球のシュートとスライダーを使い分けるピッチングスタイルは中々攻略が難しいものだ。
ただ……そんな彼と鎬を削ってリトルの頂点に立った人間が、うちのチームには二人居る。あ、諸星君もオマケしたら三人か。
交代してすぐに打席に立ったコーちゃんは三くんの立ち上がりの癖らしい最初のインコース直球をはじき返し、僕をホームに帰して勝ち越し。続くあすみちゃんがフライに打ち取られチャンスを生かしきれなかったが、貴重すぎる一点が追加された。
そしてケーちゃんは、ここから誰一人にもボールをかすらせることなく7回を投げ切った。雑賀一さんの姿にギアが上がったんだろう。ケーちゃんも割かし久留米さんと同じく気合が球に乗るタイプだから、こうなったケーちゃんはもう手が付けられないんだよね。
三くんも頑張った。コーちゃん以外には打たれずライバルのケーちゃんも三振に切って落としたんだから。でも、コーちゃんに打たれたタイムリーが決勝点になり試合は西東京選抜の勝利となった。
「…………う、うわああああ」
試合後の整列で、挨拶を交わした後。崩れ落ちるように膝をついた三くんに、二さんが駆け寄っている。そんな三くんに声をかけようとしたケーちゃんの袖をつかむと、ぐいぐいと引っ張ってベンチに戻る。
「ダメだよケーちゃん。今だけは駄目」
「あまネキ、でもアイツ」
「ダメったらダメ! 今、ケーちゃんが慰めなんてしたら三くん、野球辞めるかもしれないよ!?」
勝者と敗者が出るのは仕方がない。競技である以上、競い合っている以上は優劣や勝敗がつくものだからだ。
でも、今ケーちゃんが三くんに声をかけるのは違う。花畑選抜相手に僕が話しかけた事とはレベルが違うんだ、今回の負けは。兄に託されたマウンドを守れなかった。その事実に打ちのめされている三くんに、勝者がかける言葉なんてないんだ。しかも兄と互角に投げ合った積年のライバルから慰めなんてされたら追い打ちなんてもんじゃないよ。もし僕が三くんの立場だったら立ち直れないかもしれない。
なおも渋るケーちゃんをコーちゃんとケーちゃん相手だと役に立たないことに定評があるあすみちゃんとのジェットストリームアタックでグラウンド外へ引きずり出す。あすみちゃん、ちゃんと力入れて! それもう服の袖掴んでるだけじゃん!?
「つ、疲れた……」
「閉会式でなんでこんなに疲れてんだ、俺たちは」
無事に閉会式も終わり、悲願の優勝を果たした西東京選抜の稲葉監督を有志で胴上げした後。バスの奥の方にケーちゃんを封印した僕とコーちゃんは、ようやくひと段落、と深くバスの座席に座り込んだ。
閉会式でもケーちゃんは三くんと話したそうにしてたからね。流石に事情を把握した両チーム総出で三くんとケーちゃんの距離を空けるという気苦労の絶えない中、トロフィー受け取って個人賞貰って胴上げまでした僕らは褒めたたえられても良いんじゃないかな。去年の数倍は疲れた気がする。
あ、僕は無事に首位打者とMVPを受賞しました。打点王とホームラン王はケーちゃんにとられちゃったね。今年は網走くんも凄いペースでホームラン打ってたんだけどね。流石に3回戦で負けたのと久留米さん相手にはホームラン打ててなかったからねぇ。
僕も久留米さんや雑賀一さんとすっごいピッチャーばっかり相手にしてたから、ホームラン数が伸びなかったしねぇ。
今回、久留米さんとの勝負で思い知ったけどやっぱり筋トレを制限してるせいでパワー不足が目立ってくるようになってきたから、僕もそろそろ覚悟を決めるべきなのかもしれないけど。でもポパイにはもう成りたくないんだよなぁ……
「そういえばコーちゃん、ベストナインおめでとう。今年のナンバーワン捕手はコーちゃんだったね」
「茨城中央の権田さんが選ばれると思ったんだけどな。決勝のタイムリーが評価されたのかもしれない」
そうそう、タイトルといえばついに我がハラキリトルシニアの扇の要、コーちゃんがベストナインに選出される事になった。それを褒めたたえるとコーちゃんは謙遜して顔を歪めるが、打率も打点もホームラン数も10位以内に入るつよつよキャッチャーなんてコーちゃんしかいないんだから、もっと誇っても良いのにね。打点なんてあすみちゃんと打順が逆ならコーちゃんが取ってたんじゃないかってくらいタイムリーも打ってるし。
ケーちゃんにも言えることだけど、田中兄弟はチャンスにもピンチにも強いんだよねぇ。やっぱり? 幼馴染の頼れるお姉さまたる僕の頼れるとっても頼れる背中を見て育ったから、精神的に強くなったのかもね! ふんすふんす。
「まぁ、お前の背中を見て育ったら確かに精神的に強くなるよ」
「うんうん、そうだろうね!」
「褒められてないことに気付きなさいよ?」
びよーんと鼻を伸ばした僕の隣で、あすみちゃんが白けた顔でそう口にする。ん、なんだ幼馴染4人衆でただ一人なんの称号も得てないミソッカスのあすみちゃん、どうしたのってあ、こらやめろ! 僕の頭を! 髪の毛をぐしゃぐしゃにするなよデカ女! チキショウメェ!




