第60話 決勝 対茨城中央選抜 後編
本日ラスト
えー。1回の攻撃に関してですが。
なんの成果も! 得られませんでしたぁ!
いや。まぁ、しょうがないというかアレはねぇ。よくひきつけてバットを振るしか攻略法がない球だからそりゃあ僕みたいな相手の投げる瞬間の握りまで見える眼でもなきゃ確定で弾き返せたりはしませんけどもね。幼馴染たちの打力を考えたらもう少しいい結果に繋がると思ったんですよ。
でも結果は三者三振。三者三振ですよ!
「すまん」
「いやー、申し訳。ありゃそう簡単に打てねっすよ」
「三盗してホームスチールしてきなさいよ」
僕がブーブー文句を垂れていると、コーちゃんとケーちゃんは素直に頭を下げた。まぁ、あんなんいきなり打てって言われたらそりゃ困るからね。ちゃんとごめんなさい出来た二人はもちろん許すよ。ただしあすみちゃん、テメーは駄目だ。
ちゃんと二塁までは盗んだんだから! ワンヒットで帰ってこれたんだよ! それだけで僕は十分仕事をしたと判断してもいいんじゃないですかねぇ!?
ごほん。とはいえ、叫んだところで結果は変わらない。2回が終わった段階で6連続三振なんて喰らっちゃってるからね。正直、雑賀一さんの踊る球をはじき返すのはめちゃめちゃ難しいって事は分かった。まともにバットに当てることも出来てないからね。
僕が無理してホームランを狙うって考えても、僕もねじ巻き打法でアレを捉えられる自信がないんだよなぁ。欲張ったりせずにもっと筋トレしてポパイになるべきだったか。い、いや。それは女の子として絶対に踏み越えちゃいけない一線だ。そこだけは死守しないといけない(必死)
それに今から筋トレしたって間に合わないしね。うん。という訳で妄想はここまでだ。さてさて、どうやって攻略すっかなぁ。
いくつか取り得る選択肢はあるんだけど一番確実なのは――
「待球だろ」
「待球だなー」
「やっぱそれだよね」
ぶつぶつと考え事をしていると、いつの間にか隣に来ていたコーちゃんとトロ子ちゃんがそう口にする。
「後はバントも加えて揺さぶろう。幸い、前の試合の久留米くんほど理不尽な重さはないようだし」
あ、訂正。来ていたのは稲葉監督もだね。
まぁ、昨日の久留米さんはね……皆には分からなかったかもだけど、僕はずっと魔球を相手にさせられていたから多分皆以上に悩まされてたと思うんだけどそれは置いとくとして。雑賀一さんの踊る球も処置なしな類の魔球と呼んでしかるべき球だけど、久留米さんほどのバットが押し負けるとかいう馬鹿みたいなノリはないから当てさえすればなんとかなるって気持ちにはなれる。
金属バットが標準球に押し負けるってなんだよ。改めて言ってもおかしいぞ絶対に。
ごほんごほん。とにかく、雑賀一さんの踊る球はバットに当たりさえすれば前に飛ぶ。これは実際に僕がどこでも打法で確認したから間違いない。であるならやることは待球で球数を多く投げさせて打てる球が来たら好球必打だ。
雑賀一さんの踊る球は完全にランダムな動きをしている。稀に変化が少ない直球があるから、毎回の握りすらランダムかもしれない。狙うのはこの変化が少ない直球だ。
「ただ、彼は別に直球しかない投手ではありません。狙われていると判断すれば変化球を織り交ぜてくることも考えられます」
「むしろそれを狙ってーバスターで牽制するのも良いかもなー」
稲葉監督の補足にトロ子ちゃんが付け足して現場会議は終了。僕らの会話を聞いていた次のバッターは監督に向かって一つ頷いて打席に入り、バントの構えを取った。うん、堂に入った構えだね。日本野球のお家芸、スモールベースボールはね。効果があるから日本野球のお家芸なんだよ!
西東京選抜と茨城中央選抜の試合はここから投手戦に移行した。ケーちゃんは茨城中央選抜の攻撃をきっちりと防ぎ切り、雑賀さんは西東京の粘り強い攻撃をねじ伏せる。とはいえ互いに多少のヒットは出てくるから繋がり次第で点が取れたり取られたりしていく。
先制点は茨城中央選抜だった。4回表に下位打線にちょっと抜けた速球をレフト前に持っていかれた後、雑賀三くんの執念染みたバッティングがタイムリーになり1点。2番を三振に切ってとり最少失点で抑えたけど、今日の試合展開だとこの1点が重くなりかねない。
その為気合を入れて臨んだ4回裏の打席。3番のあすみちゃんが粘りに粘って四球で塁に出ると、我がチームの主砲ケーちゃんがなんと雑賀さんの変化球、おそらくスライダーを痛打して1点を返したのだ。自分の失点は自分で返す自援護によって試合は振り出しに戻って5回。
前の回の失敗を取り返すようにクリーンナップを連続三振で抑え、次の攻撃に弾みをつけるもそこは流石の雑賀一さん。現リトルシニア最高の名前は伊達じゃなく、危なげなく西東京選抜の下位打線を抑えきり、2アウトでバッターは僕。
打順を考えると、これがこの試合最後の対戦になるかもしれない。それに2アウトである以上、この場面で繋ぎの打撃は効果が薄い。なによりも。
「久留米さんからこっち。ずぅっと真っ向勝負から逃げてるからね。流石にそろそろ、女が廃るよ」
「廃るほどの歳じゃねぇだろ、ネコ娘」
僕の呟き声に苦笑で返して、茨城中央のキャッチャーさんが腰を深く降ろす。つまり真っ向勝負の意思表示。だと僕は勝手に思わせてもらうよ!
バットを深く、ふかぁく振り被り相手に自身の背番号が見えるほどに体を捻じる。左目だけで相手の一挙一動を睨みつけるこのスタイルは、ただ思い切りバットを叩きつけることに特化したものだ。相手のボールを見極めてバットを合わせるなんて技術とは対極に位置するねじ巻き打法の構えに、チラリと見えた雑賀一さんの表情が笑ったのが見えた。
勝負は一球。二度目は考えない。ただその事だけを頭に思い浮かべて、雑賀一さんの投じたボールに集中する。
右に、左に、下に、上に。四方に揺れる踊る球に視界を踊らされながら、限界ギリギリまでバットを引き絞り、振るう。狙うは右に左に揺れる球の中心。もしも外に揺れていくなら僕の負け、そうじゃないなら。内に揺り戻しが起きるならば――
「ぐわら!」
ガキィン、と、バットから甲高い金属音が鳴り響く。飛んでいく打球の行方を目で追い、そして叩き落とされた打球に僕は目を奪われた。マウンド上空を抜けようとしたボールを、飛び上がった雑賀一さんがグローブで叩き落としたのだ。
うっそだろマジかよ!? 驚愕しながらも慌ててファーストに駆け込む。ギリギリかな、と思ったが流石の雑賀さんでもあそこからファーストへボールを投げるほどの余裕はなかったみたいだ。マウンドに視線を戻すと、キャッチャーさんが慌てた様子でボールを拾うのが見えた。そして肝心の雑賀さんはマウンド上に尻もちをついて左手を気にしてる。
あの打球を打ち落としたんだから当然だろう。無茶するよなぁ……そう思っていると、雑賀一さんがこっちに視線を向けて、ニヤリと微笑みを一つ浮かべてきた。
……うん、許す。ヒットになったとはいえ、今のは完全に僕の負けって思えるからね。正直脱帽だよ。
ただ、脂汗を流しながら笑顔を浮かべる根性は認めるけど病院行きなよ? その顔色絶対に骨に異常があるでしょ。ったく。
男の子は、バカだなぁ。




