第6話 グラグラクェイクボール
本日1話目
無事に社会人クラブチームにも参加するというミッションをクリアした以上、僕の野球人生はバラ色だぁ! なーんて調子に乗ってる暇はない。というかむしろここからが本番なんだよね。
野球ってのは人気も必要だけど、ぶっちゃけ一番重要なのは実力だ。どんだけ人気のあるプロ野球選手だって実力が衰えてくれば引退することになる。ましてや僕は中学一年生マイナス1。未だ成長期とはいえ実力を証明しないと客寄せパンダ扱いで終わってしまうことになる。
客寄せパンダが悪いって事じゃないよ? やっぱり人気のある人が居ないとスポーツってどんどん廃れちゃうから。ただ、人気もあって実力もある。僕はそんな野球選手になりたいんだ。
「という事でガンガン使ってくださいね監督! 僕、頑張って活躍するから!」
「うんうん」
「僕だってこのチームで大人の仲間入りしたんだからね!」
「言い方言い方」
なぜか堂々とベンチ脇に居座るカメラマンさんのカメラに映されながら、僕と金ちゃん監督さんの漫談?が続く。これは事前に監督さんから頼まれてた事だ。今回の試合は北埼玉デッドボールの知名度アップをかねてローカルテレビでも放映されるらしいからお話の相手をしてねって話。もちろん試合全部ってわけじゃないけどね。
社会人クラブチームの練習試合でテレビが入るって相当なんじゃないかな。そんなに詳しくないけど、少なくとも前世も含めてこのチームくらいしか僕は聞いたことがない。監督さんってやっぱり人気ものなんだなぁ、と口にすると、いやいやいやと監督さんが手を横に振った。
「この人ね。あまちゃん見に来たんだよ。ほら前のギャンブルナックルの時、一応Vとってたから」
「あー。佐藤さんが百裂拳くらったみたいになったアレですか」
「キミがやったんだけどね???」
そういえばそんな事もあったなぁ、と感慨深く頷いていると金ちゃん監督さんがビックリした顔でこっちを見てくる。や、やだなぁもちろん覚えてますよ。珍しくすぐにキャッチャーが立ち上がってこれたから。
などとダベっている間に試合はどんどん進んでいく。今日の北埼玉デッドボールの先発・本村さんは右投げサイドという面白いピッチャーだが、ちょっと今日は調子が悪いのか3回終了時点で3失点。四球が多めで球数も増えてきているし、早めに交代したほうが良いかもしれない。
例えば僕とか。
「あまちゃんはほら。最終兵器だから。一番面白い場面で出したいんだよねぇ」
「それで最後の最後まで温存してまた来週ー」
「サヨウナラー! って、なんでだよ! 僕、せっかく千葉まで来たのに試合解説とおじさんたちのダイエット計画話してただけで試合終わっちゃうじゃん!」
「あ。ほら、あまちゃん怒ってるし出番作らなきゃいかんかな」
「でもですよ金ちゃん監督。正直この子話させてるだけで面白いですし僕と金ちゃん監督だけで解説しても華がないですし」
「えー、カメラマンさんもこう言ってることですし厳選な審議の結果落選って事であまちゃんには伝えましょう」
「目の前に僕、居るんですけど???」
大体こんな感じのくっだらないノリの会話を繰り返しながらも試合は進んでいき、先発の本村さんは降板。次にマウンドに立ったのは僕――じゃなくて左投のバーバ正樹さん。面白い登録名だなぁと思ったら俳優さんで老女の演技が上手いらしい。あ、だからババ……げふんげふん
バーバ正樹さんは名前の割には結構考えた投球をする人で、前の本村さんが貯めていたランナーを一人返してしまうもゲッツーを取ってピンチを切り抜けた。うんうん。今のは一点は正直仕方ないよね。必要最小限で切り抜けるってのはリリーフピッチャーとしては大事な事だよ。
おしむらくはもうちょい制球が安定すれば先発でも活躍できそうなんだけど、それは今後の改善点。足腰が弱いのが制球に影響してそうだから、そこをもっと鍛えればグッと実力アップできそうな人だね!
「えー。ようやく出番かと思ったのに肩透かしを食らったあまちゃんがキレ散らかすのを期待してたんですが、ちょっと予想外に面白い画が撮れたんで結果オーライでーす」
「思った以上に良く見てるなぁ。あまちゃん、コーチとか興味ない?」
「僕、小学生ぇ! 教わる側!!」
僕の人物評を耳にした監督さんやカメラマンさんの言葉攻め(そう口にしたら慌てて止められた)に耐えながら解説を続けていき、試合はいよいよ終盤に突入。練習試合の為最終回となる7回になった瞬間にポン、と金ちゃん監督が僕の肩を叩いた。
よく我慢したな、と表情だけで僕にそう伝えて、監督は審判に向かって声をかける。
「ピッチャー交代! ゴンドー!」
さぁ、出番の時間だ!
「あまね。今度はきっちり取ってやるからな」
今日の相方は前と同じ佐藤選手。今度こそ僕の魔球を取るんだと意気揚々とした様子でマウンドに歩いてくる佐藤選手に、僕は努めて冷静に言葉を選び、返答する。
「とりあえず2ストライクまでは温存でいきましょう」
「お、おお。いやそれは構わんけど監督さんから」
「2ストライクまで温存で逝きましょう」
「分かった分かった。あと、なんかいきましょうがなんかイントネーション違うような気がするんだけど」
「気のせいです(メソラシー)」
多分、当社比1.5倍くらい真面目な顔で言ったからだろう。佐藤選手は僕の勢いに押されて首を縦に振る。くっくっく。なんとか誤魔化し切ったな。佐藤選手は前回の分裂魔球を僕の魔球の基準にしてるけど、あんな過去1大人しい魔球を基準に耐えられるって判断されても信用できないんだよね。
いや、耐える耐えれないって話をすることじたいがおかしいんだけどさ。
【出番です?】
――もうちょっと座っててください
さてさて一先ずはお仕事だ。相手の打順は7番から。試合の解説をしながら見ていたけど結構鋭いスイングをする人で、もうちょっと打順が上でも良いんじゃないかなって良いバッターだ。一先ずは投球練習で、コントロールを無視してストレートを放り込む。首を傾げた佐藤選手に今度は高めに投げるとこちらからサインを送り、また同じようにストレートを高めへ。
4,5球投げてもう十分種は蒔いたかな、と判断し、投球練習を終了。バッターボックスに相手選手が入ってくる。
さてさて、最初はこれで行きましょう。え、いきなりこれはあかんだろって? むしろ今だから良いんすよへへへ。という華やかなサインのやり取りを終えて、第一球。てやー! と投げた球は、ピョーンっと上に向かって飛んで行った。
「は?」
呆けた表情の相手バッターの目の前でボールがホームベースの一番前に当たってバウンドし、そのままキャッチャーミットに納まる。相手のバッターが僕を見て、ボールが当たったホームベースを見て、そしてミットに納まったボールを見てと忙しく視線を動かしている。
「ス、スットラー!」
「はぁ!?」
「ストライクですよ。ちゃんとストライクゾーンに落としてますから」
混乱する相手のバッターにニヤニヤと笑いながら佐藤選手が話しかける。ふふふ、その混乱もよぉくわかるぞバッター君。なにせ君が今目にしたボールを実戦で使えるレベルの人は、恐らく世界中で5本の指で数えられるくらい少ないんだから。
その名もイーファスピッチ。またの名を超スローボール! 僕の前世ではかの伝説のメジャーリーガーTDNが投げたことでも知られていて、打ち気に流行った相手にはよぉく効くんだよね。
たとえばこんな風に! てやー!
「!?」
「スットラー!」
佐藤選手のサインに従い、今度は内角高め、というよりも明らかなクソボールをぶん投げる。普通のタイミングなら間違いなく見送るクソボールだが、相手のバッターはつい、といった様子でバットを出してしまった。もちろんそれはボールにかすりもせずに2ストライクのカウントとなる。
相手さんの選球眼が悪いとかじゃない。これも組み立ての妙って奴なんだ。
最初の投球練習でストレートを何度も見せたのは、相手のバッターには僕の普通の球筋が目に焼き付けるためだった。その状態でイーファスピッチで視界から消えるくらい高めのボールを放り投げる。これは相手のバッターのバッティング感覚をズラすのが目的だ。こんなクソボールにも手を出してしまうくらいに頭と体の感覚、崩れちゃったみたいだね!
まぁ、僕としてもさ。普通に投球して普通に勝負したいところなんだけど。この後を考えると、こういう事も出来るんだよってアピールは早めにしとかないといけないんだよ。
なにせ僕の頭上でカラカラする奴がずっと待機してるから!
【あ、出番です?】
――オマタセシマシタ
僕と女神様以外が止まった世界で、僕は女神様へそう返事を返す。
僕自身の実力アピールは終了。ここからは女神様へのご褒美タイムである。勘違いしてはいけない。僕から! 女神さまへの! ご褒美タイムである。こうやってガス抜きしないと前回みたいに無理くり魔球を投げさせられるかもしれないからね。
その点、今回はキャッチャーも監督さんもゴーサインを出してくれてるし、僕も安心して魔球を投げられるって所。
さてさて。ガラガラ、ペッと吐き出された玉は――
佐藤選手のサインは右投げのナックル。前に自身が受け損ねたその時と全く同じサインだ。
頷き、僕が振り被った瞬間、地面が大きく揺れ動く。すわ地震か、と皆がへたり込む中、僕の強靭な足腰は地震に耐え、更にその力を伝導してボールに伝え、投球する。投じられたボールは小刻みに震えながらゆっくりとキャッチャーミットへ飛んでいく。
小刻みに揺れながらも、その速度は平凡以下のもの。バットを合わせるくらいなら可能だとバッターは判断したのだろう。軽くバットを振ってボールに合わせる――が。バットから伝わる振動が伝導して、彼の体はアスファルトを押し固めるランマーのように地面の上で上下に飛び跳ねる事になった。
バットとボールが接触したまま、凡そ2秒ほどドドドドドドと飛び跳ねていただろうか。やがて振動のエネルギーが無くなったのかポトリとボールが地面に落ち、全身を震わせながらバッターは仰向けに倒れた。
シィン、と先ほどまで騒がしかったグラウンドが静まり返る。
【決まったぁぁ! グラグラクェイクボール! 相手は死ぬ!】
――ほんとに死んでないよね???
流石に最後の一線は超えてないか確認すると、震えてるから大丈夫という返答が届く。その理由で大丈夫なのかどうかはともかくとして、今回はキャッチャーを殺さなかっただけ僕としては第一から第五の魔球までよりもマシだ。
誰一人動かないグラウンドの中、落ちていたボールを拾って震えるバッターにグラブでタッチ。
「1アウトー!」
「「「いやいやいやいや!」」」
キャッチャーさんが無事だったのにマウンドを引きずり降ろされてしまった。解せぬ。




