第57話 準決勝 対大牟田選抜~僕だけに投げられる魔球~
本日2話目
大牟田選抜の今日のピッチャーは久留米さん。どうやら本気で僕ら西東京選抜にリベンジ狙ってたみたいだね。巨神カップでも対戦しなかったから一年ぶりに久留米さんを見たんだけど、びっくりするくらい大きくなってる。身長的な意味でね?
去年はあすみちゃんよりも小さかったのに、今年はあすみちゃんよりも大きくなってるかも。190はまだ行ってないと思うけど、もうすぐ中3でこの体格は凄い。なんだかんだ体の大きさってスポーツには大事な要素だからね。
「お久しぶりばい。権藤さん」
「うん、お久しぶりです。大きくなりましたね、久留米さん」
「よう言わるーばってん、身長だけばい」
いやぁ、身長だけの人の体つきじゃないけどねぇ。去年の久留米さんもとんでもない剛球投げてたけど、今年はあれより2割増しくらいは覚悟しておいた方が良いかもね。まだ球を見てないけど、道頓堀選抜が打てなかったのも頷ける。
「ところで昨日。道頓堀の連中と遊びに行ってきたて聞いたっちゃけど」
「え。あ、道頓堀選抜の人から? うん、大阪案内してもらったんですよー楽しかったなぁ」
「今日!!!! ワシが勝ったら、ま。また。その、遊びにいきませんか!!!!?」
「え。いやどっちが勝っても良いですけど。去年と同じかんじで焼肉行きます?」
「「「いきます!!!」」」
僕と久留米さんのやり取りになぜか大牟田選抜の人たちが食い気味にそう叫んだ。お、おう。こっちをチラチラ見ながらすっごい視線を久留米さんに向けてたけど、会話に混ざりたかったのかな。ふふん、人気者はつらいよねぇ。
まぁしれっと去年と同じって条件で焼肉の約束を取り付けることも出来たしこれで今年もただ焼肉にありつけるなら事前の言葉合戦の結果としては上々でしょ。これなら今日はコーちゃんがマスクを被るからベンチ確定のトロ子ちゃんパイセンも合格だって言ってくれるでしょ。鬼畜外道の道は長く険しいよ……!
「いやー余計やる気になってるじゃん減点ー」
「そんなー」
思わず口調を真似してしまうくらいの辛口判定に唇を尖らせる。とはいえ、久留米さんの投球練習見てるとちょっとトロ子ちゃんが文句を言いたくなる気持ちも分かるかなぁ。
音がね、違うんだよ久留米さんの投球。ズバーンじゃなくてズゴーンって音がするんだよミットから。なんだよゴーンって。金属がぶつかってんのかな?
まぁ、どれだけの剛速球だろうとね。僕も去年の雪辱を果たすために努力をしてきたんだ。打ってやりましょうとも!
打席に立ち、久留米さんに視線を向けると久留米さんは顔というか体中を真っ赤にしながら僕を睨み……睨むというにはやたらと表情が崩れてるけど多分睨めつけてくる。ま、まぁやる気はあるみたいだから良いんだけど。
去年の打席では明らかにパワー不足で競り負けちゃったから、今年は封印していた筋トレを解禁! 体のバランスが崩れないように気を付けながらケーちゃんコーちゃんあすみちゃんと鍛えに鍛えたこのパワーで、かっ飛ばしてやる!
「権藤さん! ワシぁこの一年、ずぅっと待っとった!」
振り被りながら、久留米さんが大声を張り上げる。おいおい叫びながら投げるって漫画かよと内心で突っ込んでいると、久留米さんの体から赤い炎が吹き上がった。
「は?」
「権藤さん!」
思わず驚愕し気の抜けた声を上げる僕を尻目に、久留米さんが頭上から振り下ろすようにボールを投げる。まさかり投法じゃん! と思う間もなく、僕は二度目の驚愕を味わわされることになる。
≪好きったい!!!≫
投じられたボールに久留米さんの顔が浮かび上がり、吠え声を上げながらキャッチャーに向かって突き進んでいくからだ。思わずバットを引いた僕の目の前を通過して久留米さんのボールはキャッチャーミットに収まった。
いや、ボール、なのか?
おもわずキャッチャーミットに収まったボールに視線を向けるも、そこには普通の白球があるだけだ。吠えたり顔が浮き上がったりはしていない。
――あの、女神様! 女神様! なんか、魔球投げて、これ魔球ですよね!? 魔球ホムンクルス!?
【モグモグ……あ! ああ権藤あまねさんこんにちはごきげんよう。女神はポップコーンを食べたりはしてませんよ? 魔球ですか? 魔球は女神パゥワァがある権藤あまねさんにしか投げられませんよ?】
――女神パワー?
【女神パゥワァ】
思わず聞き返したのだけれど違う、発音じゃないんだ。女神パゥワァとかいう不思議パワーが自分にあることに驚愕したのと、じゃあ目の前の怪現象はどういう事なのかって意味なんだけども!
――いや、あの。じゃあなんで相手が魔球ホムンクルスを……?
【女神も驚いています。権藤あまねさんが持つ女神パゥワァが相手の想いに反応してしまったようですね。他の人には普通のボールに見えていますよ?】
――えぇ……僕だけに投げられる魔球って事……?
【女神は安心です。こんな未熟な魔球が見られていたらと思うと。うう、ぶるぶる】
しかも当人は一切そんなつもりはなさそう。そんな想いとかでパワーアップするって漫画かよ(本日二度目)って感じなんだけども、実際に起きてるんだからしょうがないよね。
僕に魔球投げられる人たちは皆こんな気持ちだったのかぁ。やっぱりガチャ魔球って害悪なのでは。僕は訝しんだよ。
「ストラーイクツー!」
≪愛!≫
「うわぁん打ちにくいよぉ!」
久留米さんの投球は遊び球なしの直球勝負。それだというのに僕だけは盛大なデバフをぶちまけられてしまっている状況だ。というか普通に久留米さんの球、速い! 体感だけどこれ、もしかして140超えてるんじゃないかな!?
勝手に動揺してしまって平常心でいられない僕じゃぁ、この球をかっ飛ばすのはちょっと難しいというか思い切り知人の顔をぶっ叩くって罪悪感スゴイし!
し、しかたない。ここは!
「ど~こ~で~も~打~法~!」
カキィンと軽い金属音を立てて久留米さんのボールをはじき返す。力対力ではなく、流すように打つと書いての流し打ちが綺麗に決まってまずは1塁へ。お、女の子はグイグイくる男の子をこうやって受け流すものなんだ! 多分!
でも打った感触は普通のボールだったからよかった……あれ僕以外に見えてなくてよかったよね。久留米さんまで魔球禁止令に巻き込まれるところだったし。
さて、僕以外には普通の球に見えるという久留米さんの投球だけど、2番のコーちゃんはあっさりと三振に切って落とされた。「お前だけには絶対に打たれん!!」とか僕に投げたときよりも大きい声で叫んでたのを見るに、コーちゃんはなにか久留米さんにしちゃったのかもしれない。感情で能力が増減するタイプにそれは不味いよぉ。
そして続く3番のあすみちゃんに久留米さんは棒球を投げてカッキィンとホームランを打たれる事となる。
おい。
「ちょっと久留米さん! なんでそんな気の抜けた球投げてるんだよ! 僕とかコーちゃんに投げた気迫は!!?」
「す、すんません。他の女子にはちょっと……申し訳なかですがワシには心に決めたアイドルが居るけん……」
明らかにあすみちゃんに対してやる気を失ってた久留米さんにそう抗議するも、返ってきた言葉は要領を得ないものだった。フェ、フェミニストって奴か!? 僕だって女の子なんだからあんな顔球投げるようなやる気出さないでほしいんですけど!?




