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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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第55話 3回戦 対神奈川横浜選抜

本日ラスト

 マネージャーの有川さんが大阪にやってきた。いや、だからどうしたって感じではあるけどね。有川さんは僕の仕事の調整がメインのお仕事だから、普段は東京から離れることはほぼないんだけどね。ここ数か月の間で何度も変な奴に絡まれたから、東京を離れる際には近辺に護身術の心得がある人をって事で有川さんが出張してきた形になる。元々僕のマネージャーさんだしね?


 でも野球場でも相変わらずメイド服なのは凄いね。周囲から明らかに浮きまくってるのに全然表情が崩れてない。あれがプロ意識って奴か……参考になるなぁ。



「なんで有川はメイド服で来てるのよ」


「いやぁ。僕山田さん家の子じゃないからよくわかんないや」



 あすみちゃんのぼやく声にそう返事を返すと、あすみちゃんは僕の頭に手を当てて髪をぐじゃぐじゃにかきまぜはじめた。こ、こら! 反論できないからってぼーりょくに訴えるな! ぼーりょくに!


 こんな暴虐に唯々諾々とやられてたまるもんか! もちろん僕は抵抗するよ、この両手で! という訳で喰らえ、ツインテドリル粉砕拳! そのわざとらしいツインテドリルをケーちゃんの前でぐちゃぐちゃにしてくれるわ!



「やかましいぞお前らー」


「ごめん」


「すんません」



 そんなやり取りを十数秒続けたら、僕とあすみちゃんは揃ってトロ子ちゃんの拳骨を貰う事になった。トロ子ちゃんの怪力で殴られたら頭の形が変わっちゃうよぉ。あっちが先に仕掛けてきたんだからもうちょい手加減してくれないかな……



 閑話休題



 さて、3回戦の相手は神奈川横浜選抜だ。横浜かぁ。中華街に行ってみたいなぁ。杏仁豆腐も好きなんだよね、僕。


 横浜選抜とはご近所さんな事もあって、関東の大会とかで顔を合わせた相手がちらほらいらっしゃるね。向こうの注目選手は今年3年になる軟投派エースと相方のバッテリーだ。この二人は粘り勝つって言葉がよく似合う試合展開が多く、去年は接戦をモノにして日本選手権にこぎつけたんだよねぇ。僕らは負けちゃったから、その点の実績じゃ向こうが上。けっして甘く見ていい相手じゃないんだけども。



「とはいえ、うちはエース先輩のくんとーが篤いからね! ぐわら!」



 ガキィン! と音を立ててボールが飛んでいく。ただ、低めのボールを狙い打ったのだが少しズレていたのか失速して柵を越えることは出来ず2塁打になった。この結果は残念だが、今年の西東京選抜はここからが違う!


 2番のコーちゃんは巧打のキャッチャーだ。相手バッテリーの心情を見抜いて当たりをつけたのか、迷うことなく内角に来たボールをはじき返して2塁に駆け込んだ。もちろん僕はホームインで1点。続くあすみちゃんとケーちゃんは単打ながらもチャンスを継続させ、5番の先輩も打ったから初回に一挙5得点で試合は始まった。


 こうなるとどれだけバッテリーが頑張ろうと一方的になっちゃうよね。野球は勢いが大事なスポーツだから、ノリに乗ってる西東京選抜を横浜選抜は止められなかった。初回のような大量得点はなかったけど、これ以降もズルズルと失点していき5回の時点でコールドが成立。西東京選抜は3回戦も無事に突破する事が出来た。


 今回の先発は本来2番手の先輩だったから、こっちの失点も最小限だったし。総合してみると地力の差で押し勝った試合だった。初回に勢いに乗れてなければもうちょっと苦戦したかもしれない位には横浜選抜も良いチームだったんだけどね。


 帰る前に向こうのチームにいる知り合いに声をかけて、ついでに知らない人にも声をかけてともだちの輪を広げておくのも忘れずに。こういった地道な努力が甲子園へと繋がるんだ。


 さてそろそろ帰るか、とチームのバスに荷物を載せていると、今日も今日とて他の試合の偵察に行っていたトロ子ちゃんがどたどたとおっそい足を一生けん命動かして走ってくる。どうしたんだろ、トイレかな? と首をかしげていると、トロ子ちゃんは僕のふらちな考えが分かったのか僕の方へどたどたと走ってきて、荒い息のままこう告げた。



「道頓堀がーまけたー! 明日の相手は大牟田選抜だー」



 道頓堀選抜は前大会の覇者であり今大会でも優勝候補で、網走くんが居るチームだね。ふむふむ、その道頓堀選抜が負けたと。


 ……なんですと!?






 豪打といえば聞こえはいいが、打力偏重のチーム。それが福岡大牟田選抜の評価だった。基本的に毎試合相手に打ち勝つ以外の勝ち方がなく、ハマれば強豪を打ち崩すほどの力をもつがハマらなければあっけなく負けてしまう安定感の無いチーム。大会前まではそれが大牟田選抜の評価だった。


 それが、今。



「分かるぞ、網走。お前も愛に生きる男や」



 バッターボックスで殺気にも等しい威圧感を放つ一つ年下の男を、大牟田のエースである久留米は誰よりも評価していた。女子代表など華々しい実績がある権藤あまねの陰に隠れているが、純粋な強打者としてなら間違いなくリトルシニア最強の男だと。


 だが、だからこそ久留米は負けられない。負けるわけにはいかないのだ。


 同じ女を愛する男として。



「やけんここで抑える。お前に勝って、ワシは……ワシは!」



 振り被った久留米を網走の目が捉える。網走は確かにこの瞬間、それを知覚した。幻視したのだ。


 久留米の背後に見える、赤色に燃える焔が象るハートマークを。



「あまねちゃんに! 愛をぶつけるんじゃぁ!!!!」


「やかましい! 権藤さんと勝負するんは、俺や!!!」



 久留米の叫びに呼応するように、網走がそう吠える。久留米の眼には青い炎がバットに乗り移ったかのように見えた。青い炎と赤い炎がぶつかりあい、鈍い金属音が会場に響き渡る。


 そして大牟田選抜は勝ち上がり。準決勝は西東京選抜と大牟田選抜との戦いになったのだ。

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