第54話 2回戦 対佐渡ヶ島選抜
本日4話目
「網走くんがーかわいそうになってきたー」
「え、なんで?」
「そういうとこだぞ」
ホテルに帰った後、早速戻ってきたトロ子ちゃんをからかおうと話しかけると、深いため息と共にこの言葉が返ってきた。あれれ。おかしいぞ。恋の逢瀬から帰ってきたトロ子ちゃんをからかう筈が何故か僕の糾弾会場に早変わりしてない?
ごほんごほんと咳ばらいをして話を逸らす。これが元営業マンの処世術だい!
「それで、今年の道頓堀選抜はどんな感じ?」
「黄金世代が抜けたからーやっぱりパワーダウンしてるなー」
大阪のリトルとかは基本的にめちゃめちゃ強いんだけど、やっぱり年によって当たり外れが出てくる。去年はちょうど当たり年って言われてる世代+網走くんとかいう手の付けられないモンスターが加入したタイミングだったから鬼のように強かったけど、今年は去年ほどの理不尽さは感じられないのだとか。
網走くんとの勝負から逃げても5番6番もガンガン打てる人だったからなぁ、去年は。おかげでエース先輩が火だるまになっちゃってたけど、今年はその分のリベンジができるかもしれない。西東京の強豪校に内定したエース先輩も草葉の陰で喜んでくれるはずだ。きっと。
やっぱり強豪校の練習はキツイって泣き言をメールしてきたエース先輩、見ててくださいね。今年は西東京選抜が天下をとりますんで!
さて、今回の大会ではやっぱり道頓堀選抜が強い所だけど、相変わらず強い、というか去年に引き続きの優勝候補チームはもう一つ存在する。雑賀三兄弟が揃った茨城中央選抜だ。
現在日本のリトルシニアではナンバーワン投手の呼び声も高い雑賀一さんに同じく最強ショートと呼ばれてる雑賀二さん、そして同世代ピッチャーではケーちゃんのライバルと言われてる雑賀三くんが加入し、より一層厚みを増した茨城中央選抜は、若干評価を落とした道頓堀選抜と比較して今大会最高評価の優勝候補だったりする。
「雑賀さんはー米国の大会でも活躍したからなー」
「あ、男子のリトルシニアだっけ。僕、呼ばれなかったなぁ」
「そりゃ女子代表の世界戦に出る奴ー年齢制限代表に呼ばねぇだろー常識的に考えて」
「あ、その言い回し佐竹さんっぽい」
「いろいろおそわったからなー」
佐竹さんは大学生の割にあんまりおしゃれっ気がないけど、色々と面白い知識を持ってて話すと楽しくなる人だ。ネットの掲示板とかも結構楽しいでがんすって言ってたし今度見てみようかな。
さて、そんなこんなで次の日。今日のお相手は北陸の佐渡ヶ島選抜だ。ここにはコレっていう有名選手は居ないけど、チームとしての完成度が高い印象。巨神カップの時に何人か知り合いになった人が居るから挨拶しておくと、見慣れない女の子が一人選抜メンバーに加わっていた。
「はじめまして、だよね? 権藤権藤あまね権藤の権藤あまねです!」
「なんかやたらとゴロが良い自己紹介すねぇ。自分は長尾かんなす、よろしくおねがいします」
選抜に来るレベルの女子となるとほとんど顔見知りなんだけど、もしかして中学に上がる前とかかな。と思っていたら案の定、今年中学生に上がる子で去年リトルで活躍してリトルシニアに加入したのだとか。ふぅむ、同じ大会に出てたはずのケーちゃんかコーちゃんにも聞いてみたら知ってるかな。
「あぁ、覚えてるっすよ。北陸のめちゃめちゃ速い子でしょ」
「速い子?」
「見たらすぐわかるっすよ」
というわけで早速聞いてみたんだけど、思った以上に面白そうな子みたいだね。ケーちゃんが名前聞いただけで特徴まで覚えてるんなら相当だよ。ケーちゃん、こういう所はほとんどコーちゃんに頼ってるからな……
今日の先発のあすみちゃんとぶつかったらどっちが勝つのかなぁ。女子の身でありながら130を超える剛球投手に成長したあすみちゃんが、ついに全国の舞台でヴェールを脱ぐことになるタイミングでそんな面白そうな相手とぶつかるなんて。あすみちゃんも持ってるねぇ。
「いやマジで面白い子だわ」
ガツン、とあすみちゃんの剛球にバットを振り下ろしてボールを地面に叩きつける。まさかり投法ならぬまさかり打法かぁ。そして打ったかんなちゃんは1塁へ走り、跳ね上がった打球をあすみちゃんが待っている間にかんなちゃんはもう1塁に滑り込もうとしている。いや速いな、塁間何秒で走ってるんだあの子。
当然余裕でセーフになったかんなちゃんはそのまま2塁も盗み、3塁まで盗んで他の打者がアウトになり残塁でチェンジ。悔しそうな表情であすみちゃんを見るけど、あすみちゃんとトロ子ちゃんはかんなちゃんをガン無視で投球してるからね。チェンジになった後も視線もくれずにベンチに戻っていく。
あれ悔しいよね。僕も喰らった事あるから分かるよ。
「ね、速かったっしょ?」
「うん。びっくりした。僕よりも足が速い下級生初めて見たかも」
「あまねきもたいがいおかしい足してるっすからねぇ」
あんだけ足が速いんだから外野を守ってるのかな、と思ったらかんなちゃんはショートのポジションらしい。ってことは肩がそこまでじゃないのか文字通りセンスの塊で外野に置くのがもったいないのか。うーん、守備の動きを見る感じ後者の方かな?
「まぁ、あの子多分そろそろ交代するっすから。向こうにとっては賭けだったんっすかね」
「交代? あ、そういう」
ケーちゃんの言う通り、4回が終わった段階で明らかにかんなちゃんは肩で息をし始め、ベンチに引っ込んでいった。瞬発力が高い分持久力に難があるタイプかぁ。でも、あの足なら確かに先制点を狙って出場って選択肢もあるよね。
長尾かんなか。うぅん、一つ下の世代はあんまり付き合いがないけど、岩手の方にもめちゃめちゃ速い球投げる子もいるって言うし中々粒ぞろいの世代かもしれないね。まぁ、僕ら幼馴染カルテットほどじゃないと思うけどね! ふんすふんす。
かんなちゃんが交代してから、試合は一方的な展開になった。あすみちゃんを打てる選手がもう相手に居ない上に、こっちの打線を止められる投手も居ない。結局7回7点差で西東京選抜の勝利で試合は終わった。
「あ、かんなちゃんこれ僕の電話番号とメルアドね」
「え、良いんすかゴンドー先輩!?」
「うん。数少ない選抜女子仲間だし、多分かんなちゃんは女子野球の方でもご一緒しそうだしね。呼ばれたら先輩風吹かせちゃるからね! 覚悟の準備をしといてよ!」
「あ、あざーす!」
よしよし、これで僕のともだちせんにん計画に新たなる名前が刻まれることになったね。かんなちゃんに関しては打算も結構あるけど、同年代の女子選手とはあんまり付き合いがないから純粋に嬉しい気持ちもある。なんだかね、同年代の女子野球の子って僕が話しかけるとすっごい気まずそうにするんだよねぇ。
やっぱりげいのーじんやってるから、絡みづらいのかな。気にしないでも良いのに……ぐすん。




