第52話 ピッチャーで! 世界大会MVPで! ついでに野手なんだよ!
本日2話目
ブライアン伯父さんから進学先については言質を取られないようにとお達しが入ってきた。あの、僕まだ中1なんだけども。
トロ子ちゃんといいブライアン伯父さんといい何か企んでるみたいなんだけど、まぁこっちを罠にハメるとかそういう事はブライアン伯父さんが絡んでる以上はないと思いたい。あ、でもブライアン伯父さん割と親ばかだから僕を貶めてあすみちゃんを少しでもいい学校に、とか企てるのはワンチャンあるか……?
いやないか。伯父さん親ばかよりも前にシスコン拗らせて妹の家の隣に屋敷構える人だからな。おかーさんから叱られるリスク考えてそんな馬鹿な事はしないだろう。
まぁ二年も先の事は兎も角として、今年もリトルシニア選抜の季節がやってきた。今年はね、狙ってますよ僕ぁ。なんせ我が幼馴染が全員揃った記念すべき年だからね。それに前評判でも我が西東京リトルシニア選抜は優勝候補に名を連ねてるからね!
エース先輩たちが抜けた穴はあれど西東京でもナンバーワン投手と呼び声高いケーちゃんと成長著しいあすみちゃんあとおまけの顔が四角い諸星君という強力な投手陣にコーちゃん・トロ子ちゃんという特色の違うキャッチャーが二枚。更に更になぜか野手としては現役リトルシニア最優の誉も高い権藤あまねという外野手が居るという隙の無い布陣でいや待てぃ。なんで僕の評価が野手一択みたいになってんだよ。
僕は! ピッチャーで! 世界大会MVPで! ついでに野手なんだよ!
「女子とはいえ世界大会で打率10割とか頭の可笑しい記録出した外野手ならしょうがないんじゃないかな」
「監督。僕はね、そんな正論パンチみたいな言葉は聞きたくない。聞きたくないんだよ監督!」
今回、西東京リトルシニアの選抜を指揮するのは昨年に引き続きマンネリトルシニアの監督を務める稲葉監督だ。去年は久しぶりに表彰台にチームを連れて行ったって実績があるからね。運があるのもそうだけど僕を2回も先発で使ったという先見の明もある。この人が監督をするのは当然だよね至極真っ当な評価として。忖度じゃなくてね?
「とはいえ貴女を投手として使う訳にはいかないんですよねぇ。魔球禁止令に関してはまだ進展がなく」
「ワールドワイドでマキュウを受け入れる方向に進んでるのに! 米国の超有名大学がチームを組んで研究してるんだよ!!?」
「その超有名大学のチームから発狂した人もいるとニュースになってましたね」
「あ、ちょうちょ」
都合が悪い言葉が聞こえてきたら意識を逸らす。鬼ばかりの世間を渡る極意の一つだ。
「まぁ、今年は去年よりも投手陣が充実してますからね。なんとかやりくりしますから貴女も全国ナンバーワン野手と呼び声高い不動のセンターとして頑張ってください」
「うぅっす……」
多分稲葉監督的には褒めてるつもりなんだろうけど、僕からすると全力で煽られてるように感じる誉め言葉なんだよねぇ。もうすぐ中2になるとはいえ、網走くんを差し置いてナンバーワン呼びは正直後ろめたい。それにもっとこう、あるでしょ? 世界最強女子投手って肩書が!
「という事で非常に失礼なんだよね、選抜の監督が!」
「うんうん、そうだね」
「聞いてます? 金ちゃん監督」
「もちろん。今日の夕飯はお寿司で良い?」
「まるで聞いてないよね??? あ、僕はお肉食べたいです!」
北埼玉デッドボールの試合はいつも通り僕と金ちゃん監督の実況解説で盛り上がってる。マイクを使って会場内に放送してるから、観客席の方もウケてるかどうかがわかって楽しいんだよね、この実況解説。世界大会の時の実況もねぇ。悪くはなかったけど、やっぱりリアルな反応が見れる方が面白いよね。
ん、という事はリアルに視聴者の反応が見れる動画配信サービスって面白いんじゃないかな? もしかしたらもうあるかもだけど、これもブライアン伯父さんに投げてみようかな!
「所であまちゃんの今日の見所はどこかしらん?」
「何故かブーさんがキャッチャーしてるとこですかね?」
HAHAHAHAHA !
ベンチに居た芸人さんたちが渾身のガヤ笑いを披露してくれる。これも最近出来たシステム……システム?で、僕と金ちゃん監督のやり取りにベンチメンバーの芸人さんとかがガヤ笑いを披露してくれるようになったのだ。テレビの方では芸人さん方が笑ってる姿も撮られてるみたいで、少しでもカメラに映る瞬間を増やそうと皆さん真剣な表情でスタンバってるのが好印象だね。やっぱり芸人さんのプロ意識は凄いや!!!
「なんで俺がキャッチャーやってるのでガヤってんだよ! 真面目に練習してスタメン掴んだの!」
「おー。ブーさんが今日も元気にキレ散らかしてますねぇ」
売れっ子芸人をやりながら社会人野球チームのスタメンをゲットする。何気に凄い事なんだけどブーさんだとなんか別の方面で。例えば魔球をどれだけ受けても立ち上がろうとする強い意志とかが凄くて、実力的な部分は正直おまけって気がしないでもないんだよね。うん、やっぱり野球選手としてよりも芸人としてのブーさんの方が僕は尊敬してる気がする。参考になる部分が多いからかな?
さて、そんな尊敬する芸人さんが物欲しそうに叫んでるし、そろそろ僕の出番かな?
「うん、そうだね。じゃピッチャーゴンドー、行ってみよう!」
「はーい!」
よぉし、出番だ!
マウンドに上がった後、相手バッターの様子を確認する。なんというか、もう完全に勝負の顔じゃなくなってるなぁ。言葉にするとライブ最前列を取ったアイドルファンみたいって言うのかな? すっごく楽しそうなんだけど完全に勝負の相手から一介のファンに代わってるよね。
まぁたとえ相手が勝負を下りたとしても僕には関係ない、とはいえないか。こういう人もファンの一人。ファンサービスは大事だからね。
というわけで飛球シリーズから一番人気の夢飛球をチョイス。ここ最近、なんだかんだ漫画原案! みたいなノリで情報が拡散してるからか夢飛球を見たいって人多いんだよね。まだ僕、件の漫画呼んでないんだけども。
バットも振らずにキラキラした目で僕の投球を見る相手バッターさんにウィンクを送り、二球目は一球目と同じ場所に緩めのストレート。気付く人は気付くくらいに同じ場所に放り込んでカウントを整えて、さて最後は勿論マキュウチャレンジだ!
僕が投じたボールは手から離れた瞬間に消えてキャッチャーミットに納まった。ん? と首を傾げた相手バッターと球審に、え、マジ? と自身のキャッチャーミットの中を見るブーさん。投げてミットに入ったからストライクだよね。
【魔球ワープ! 投げられたボールは間髪入れずにミットに納まり相手は死ぬ!】
――野球のルール上絶対に攻略できない魔球だね。女神様、これは今後禁止でお願いします
【え!!!?】
僕の言葉に女神様が驚きの声を上げるが、当たり前じゃないか。僕はどんな形であれ勝負に勝ちたいのであって勝負が成り立たないのは駄目だと思うんだよね。せめて投げたボールが飛んでってミットに納まってくれないとダメでしょ。
ま、まぁ投げてしまったものは仕方ないよね。次にこの反省を活かせばいいでしょ。
「というわけでスリーアウト! お疲れさまでしたー」
「いやいやいやいや」
僕がそう声を張り上げると一斉に周囲の人たちが首を横に振った。な、なんでだよぉ。ルール上はちゃんとアウトでしょ?




