第47話 権藤あまね野球伝
本日2話目
僕が主人公の漫画が連載されることになったんだって。
いや、なに言ってるか分からないと思うんだけど僕も言っててなにいってんだろって気分になってる。人生を歩んでて自分が主役の漫画が発売されるって何事って話だからね。
書くのは前に僕が泣かしちゃった水鳥先生という漫画家さんだ。なんでもドスベンとかいう野球漫画の金字塔を打ち立てた野球漫画界の神みたいな人らしい。そりゃ周りの皆も様子がおかしいわけだよ。僕の感覚で言うと水島〇司先生に登場作品の魔球投げたって事だからね。
「あれ。たしかどぶろくって漫画に出したいって話じゃなかった?」
「そっちはもう出演してます。試合があった翌週の号で」
「……早すぎない?」
「試合前からもう書いてたみたいですよ」
マネージャーの有川さんにその辺を尋ねてみると、びっくりするほどのスピードでとっくに僕は漫画の登場人物になってたらしい。
どぶろくという野球漫画はどぶろくこと主人公・土部六郎が酔っぱらいプロ野球選手としてお酒を飲みながら各地で野球をしたりお酒を飲んだりご飯を食べたりって事をする漫画で、今回の僕の出演シーンはこのどぶろくがスカウトマンに声をかけられて北埼玉デッドボールの試合を見に来たって語り口で始まっている。
北埼玉デッドボールの試合はエンタメ重視な所があるからその部分は笑ってみてたんだけど、最後の打者に出てきた僕の投球を見てどぶろくの表情が一変。試合後に監督に話を通して、僕とどぶろくの一打席勝負が行われて夢飛球(これがただしい文字らしい)で打ち取られるそうだ。
あれ、主人公に勝っちゃって良いの? って思ったけどどぶろくはわざと打たなかったりすることもあるらしくてこれはこれでいいらしい。というか漫画の中でも最後の球はバットを降ろして球筋をじっと見て冷や汗を流すって描写だったから勝ちを譲られた的な感覚なんだろうかな。
僕は勝負は勝負、出せる力に差はあれど相手を打ち取りに行くのは礼儀だって思ってるから、その点は僕の主義とはズレるって思ったけどね。でも初めて漫画に出るなんて快挙を達成したからもちろんケーちゃんコーちゃんとあすみちゃんには自慢したよ。ふんすふんす。
そう、自慢で終わっただけならよかったのに、まさかの追加で僕主人公である。それは自慢越えて恐怖だよ。僕まだ中1の野球少女なんだけども???
「自伝を原作にした漫画というのもありますのでそういう感じになるかと。タイトルは『権藤あまね野球伝』を予定しているそうです」
「タイトルが古いよ!!! そこはもっとこう、『道なき道~甲子園への軌跡』とか自伝漫画でもやりようあるでしょ!!?」
「そうですね。お嬢様のご提案も含めて検討していただきます」
僕の当然すぎる主張に有川さんも同感なのか、先方にタイトル変更の打診をお願いしてくれるんだとか。ただ、この野球漫画に関してはもう水鳥先生がやる気満々で年1であっても書く、書かせてくれる雑誌がなければ自費出版してでも書くと言い出してるらしい。
この話を聞いてそれなら山田芸能事務所のWEBサイトに不定期で掲載してみないかって話も出てて、原稿料とかも含めてブライアン伯父さんが水鳥先生と交渉してるんだとか。水鳥先生、WEBとかネット関係はあんまり好きじゃないっぽくて最初はWEBサイトで連載って意味が良く分かってなかったみたいだけど、要は新聞の4コマみたいにWEBサイト開いたら水鳥先生の漫画が記事として出てくるって言ったらなんとなく理解はしてくれたみたい。
「お試しで3話分はWEBでやってみようかという話になりそうですので、その際は宣伝お願いしますね」
「あ、うす……」
宣伝というけれど自分が主人公の漫画があるから読んでくれと言えってことなんだろうか。それ、くっそ恥ずかしいんだけど僕の感覚がおかしいのかな。一流のげいのーじんならこんなことも当たり前に出来てしまうんだろうか。げいのーじん道は長く険しいね……
さて、そんなこんなで気付けばもうすぐ年末だ。秋以降のリトルシニアは大きい大会がないから、どうしても時間の流れが速くなっちゃうよね。いちおう西東京限定の大会とかには参加してるんだけど毎回うちとマンネリトルシニアがどっかで当たって事実上の決勝戦みたいになるから割愛だよ、割愛。
トロ子ちゃんの宣言通り、あすみちゃんの成長が著しいってのが唯一の報告かな。球速も130近くにまで上がり、そろそろ日本最速は真中パイセンからあすみちゃんのものになりそう。あとあすみちゃんの速球は、スピード以上に伸びが凄いんだよね。長い手足を最大限つかってるからか、速度+5キロくらいの体感で感じるんだ。火の玉ストレートってのはこういう球のことを言うのかな。
まぁそんなあすみちゃんに負けないくらい僕やケーちゃんとコーちゃんも成長してるんだけどね。やっぱおかしいよ僕の幼馴染。伸び方が普通の人が1.5とかの所を2倍3倍くらいの速度で成長してる気がする。特にケーちゃんは真面目に野球始めてまだ3年目なのにもう西東京のリトルシニアじゃナンバーワンって言われ始めてるもん。
ぼ、僕がちゃんと投げられたらケーちゃんともためを張れるんだけどね。未だに魔球禁止令が出てるから試合で投げれないだけで! 実際に投げたらスゴイから!
「いやぁ、まぁ。テレビで北埼玉デッドボールの試合を見てると、この娘をリトルシニアで投げさせて良いのかって気持ちになるのはしょうがないからなぁ」
「どういう事だい監督、僕の完ぺきなラストワンピッチングのどこに問題があると???」
「ボールを受けたキャッチャーがいきなり透明になったりしたよな」
「それはブーさんが悪いから(迫真)」
細かい事を言ってくるハラキリトルシニアの監督にそう答えを返す。そう、あれは不幸な事故だったんだ。最近、大人しめの魔球が多くなったよなぁってブーさんが余計な一言を言わなければ、女神様もアップなんてしなかったんだ。
僕の中で永久封印が確定した魔球、その名も『スケルトンボール』。受けた相手はしばらく見えなくなって(映像的に)死ぬ!というこの魔球に関しては僕も全力で女神さまにクレームを入れ、女神さまも僕がここまで怒ると思ってなかったのかもうガチャの中にはこの魔球は入れないと言ってくれたのだけども。
10分間は身に着けてる衣服まで見えなくなるから、ボールだけが宙に浮かぶ謎の映像になっちゃったんだよねぇ。ただ透明になるだけだけど、見えなくなるってのは割とシャレにならないからさ。危ないし。
ま。まぁ過ぎ去ったことは良いよね、問題なかったしテレビ的には大好評だったみたいだから北埼玉デッドボールの試合としては万々歳だろう。うん。おかげで僕のリトルシニアでの幽閉(センター専)期間は延びてる気がしないでもないけども。
さて、話を切り替えて季節はもう冬。年末に向けて駆け込み需要の時期は僕にとっても結構忙しい季節なのだ。今年も星選手に――いや。星元選手に呼ばれてるし、その前には例の年末特番、リアルで野球盤する企画にも呼ばれてる。そしてそしてなんといっても、発売するんだよ。ついに僕が出演する例のゲームが!
流石にね。自分が出演する作品をプレイしないわけにはいかないから、今年の冬はあすみちゃん家でゲーム三昧になるかもしれないね。事務所が運営してる権藤あまねファンクラブのサイトに作った選手のデータを張っておけばいいファンサになるだろうし、頑張らないと!




