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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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第36話 事務所のお仕事

本日1話目

 日本に帰ってくると待望の夏休みがすでに始まっていた。やっぱり短いよなぁ夏休み。学生の健康を考えてもう1か月くらい延ばすべきなんじゃないだろうか。


 ええと、僕の今後のスケジュールは土日は北埼玉デッドボールの方で試合に出て、平日はリトルシニアの練習と日本女子代表の広報活動。うん、今までの行動予定に入っていた学校という項目がごっそり抜けて代わりに広報活動が入ってきてるだけで大まかな変更はなさそうだね。



「じゃあ台湾に行ってる間になにか問題とか起きなかったんですね」


「いえ。お嬢様が考案されたネット通販の方が繁盛しすぎて問題になっているそうです。ブライアン様からお嬢様がお戻りになられたら知恵をお借りできないか、と言伝を頂いております」


「えぇ……?」



 予想してなかった方面からの問題噴出に、思わず言葉を忘れちゃったよ。知恵をお借りできないかって言われても、僕もふわっとした前世の記憶から「こーいうの出来ません?」って提案しただけだからね。技術的な事なんて一個もしてないから聞かれても答えられないよ?


 まぁ、内容を聞かない事には判断も出来ない。ブライアン伯父さんは在宅だっていうからお土産を持って挨拶に行くと、そのまま高そうな車に乗せられて山田芸能事務所まで連れてこられた。



「という訳でね。事務所の業務も滞るくらい問い合わせが殺到しちゃって。アクセスが集中しすぎてHPが落ちるのも頻繁に起きてるんだ」


「あー。これは、そうですねぇ。ホームページの運用保守? の外部委託と、コールセンターの設置が必要かも……? 知らんけど」


「うん、僕らもそう考えて餅は餅屋にゆだねようと思うんだけどね。これを奇貨としてうちの事務所でもネット関連に手を出そうと考えていて、あまねちゃんに意見を聞きたくてね」



 キラキラとした目で商機を語るブライアン伯父さん。あの、ごめんなさい僕、本当に素人で……ふわっふわしたコメントしか返せないんです。そう正直に伝えると、ブライアン伯父さんは満面の笑顔で「大丈夫、あまねちゃんのアイデアは僕ら大人がちゃんと形にするから!」と答えてくれた。違う、そうじゃない。


 頭の中でイケボの伯父さんが女の人に縋り付く歌が流れ始めるけど、現実は待ってはくれない。失敗した。ブライアン伯父さんには事前にネット関連、特にSNSや動画投稿サイトは新しい産業にまで発展すると伝えた事があって、それで僕に聞いてきてるんだろうけど僕はそっちの専門家じゃないというか、漠然としたこうなるといいねしか言えないんだよ……!


 あ、そうだ。そういえばもう初期のSNSとか動画配信サービス自体は始まってるし、それらに公式チャンネルとして登録して情報発信を始めるってのはどうだろう。あとは所属タレントの仕事の報告とかちょっとしたプライベートな姿を写真や動画で見せるだけでその人のファンは食いつくと思う。


 あとは動画配信サービスと提携して動画内に広告を入れることで閲覧数に応じた収入を得るとか? そういうのは多分もう開発されてるか開発中かだろうから、最大手の動画配信サービスに問い合わせてお話ししてみるのも良いんじゃないかな。



「……うん。やっぱりあまねちゃんに話を聞いて正解だったね」


「はっ!? し、しまったこれは罠だ!!!」



 お目目がドルマークになっているブライアン伯父さんにガシッと肩を掴まれて、その後数時間にもわたる過酷な尋問とイチゴパフェに抗えなかった僕はこうなると思うよ~という漠然とした未来絵図をブライアン伯父さんに語る事ととなる。空腹だったから、ちくしょう! 美味しいに抗えないんだ、人間は!!!



「うちのお父様がいきなりインターネット関連に投資し始めたんだけどなにか知ってる?」


「知らんけど??? ひゅーひゅー」



 日本女子代表の合同練習で、ブルペンのベンチに座ったあすみちゃんに若干ジト目でそう尋ねられた。もちろん僕はそんなきみつじょうほうを知る由もなく、ただ、あ、そこに投資したんだ伯父さんと思いながら口笛を吹いて誤魔化す。欧州で作られたネット回線を使った無料IP電話は、この後一世を風靡することになるからね。今から仕込んでおけば5,6年後が面白くなるだろう。


 まぁそんな専門外の分野はどうでもいいんだ、今は問題じゃない。


 明日は北埼玉デッドボールの試合がある。約1か月ほどぶりに僕も登板予定であるんだけど、今回は間が空いちゃったからなぁ。女神様、最近声もかけてこないし正直不気味なんだよね。


 いや、小6になるまではこの感覚が普通だったんだけどさ。なんなら12年間で5回しか魔球を投げてなかったんだから。でも、北埼玉デッドボールに参加してからは月に数回投げるのが当たり前というかテレビの仕事の方でも投げるようになったから月十数回が当たり前になっちゃったんだよね。一度売れると仕事が一杯来る芸人さんみたいだなって思っちゃったんだけど、多分そんなに変わらない気がする。


 ブーさんから聞いた話では一度売れた芸人さんは仕事が減るのが怖くなるって話だったし、今の状況的に女神様がなにかしら不満を持っててもおかしくはない。次の北埼玉デッドボールの試合はもしかしたら地獄になるかもしれないな……ごくり。







 さて、そんなこんなで九州は鹿児島県にやってきました。ここにはなんと北埼玉デッドボールの兄弟チームがいるらしく、そことの対戦という事で普段よりも報道陣も多めの賑わいとなっている。あと、1か月ぶりに僕が試合に出るからか観戦客も結構多めだ。あ、どうも。大人気大投手の権藤あまねです、サイン? もちろん書きますとも!!キリッ


 久しぶりだからという事で金ちゃん監督との実況漫才も普段より割り増しのテンションでお送りし、やっぱり金ちゃん監督相手だと話しやすいなぁと思いながら差し出されたするめをくちゃくちゃ噛んだりしてると、試合は7回表最終バッターの場面となった。


 はい、出番ですね。行ってきます!



――という訳で女神様、大変お待たせしましたが魔球の出番、整えさせていただきました


タッタッタッターラ


――あれ。女神様?



 さぁ今日もお仕事だ、とマウンドに立ち、灰色の世界に世界が切り替わる。も、普段はやかましいくらいに自己主張の激しい女神様の手が上空にはなく、変わって灰色の世界にはなんかどこかで聞いた覚えのある電子音のBGMが流れている。



――おーい、女神様ぁ!


【はっ!? ご、権藤あまねさん、いつの間に!?】


――いつの間にって訳でもないんですが。どうされました? お忙しいとかでしょうか


【いえ! 女神は女神は忙しくなんて欠片も! ええ、別に? 野球げーむなんて女神はやっていませんよ? ただ女神がつくった魔球をいじらしくも人間が模倣してげーむに封じたというのが気になったからげーむをしてみたらすっごくたのしかったなんてことはありませんよ? ほんとですとも!】


――あ、うっす



 なんか最近、女神様があんまり話しかけてこなかった理由が分かった気がする。そっか、うん。僕も年末に向けてあすみちゃんの家で前作をプレイしたけど面白いからね。キャラ作成。



【そうなのです。でもなかなか強いキャラクターが出来なくて。それに魔球をどうすればピッチャーにつけられるのか】


――あ、それは年末に発売される奴じゃないとつけられないんですよ


【…………ええ、もちろん。もちろん知ってましたとも! ささ、魔球ガチャのお時間ですね! 今回も良い魔球そろえてますよぉ!】



 いつものガラガラが当社比1.5倍速くらいで回されるの見ながら、あ、これは。と内心で思う。まぁ、シリーズものだからどれも同じだって思うよね。うん。相手バッターは右打者のため左投にしようかと思ったら、出てきた魔球に女神様からのたっての希望があり、右手のサブマリン投法で投げることに。というわけでてやー!


 投げた瞬間からボールは水しぶきをまき散らしながら浮き上がるような軌道でバッターボックスに向かい、塩水をまき散らしながらいきなり急制動をかけてバッターの足元に向かって沈むように落ちていく。水しぶきがなければ切れ味の鋭いシンカーだけど水しぶきがなぁ。田んぼじゃ投げられない魔球だね。



【魔球大海ボール! 大いなる海の力により上がった水しぶきで相手は死ぬ!】


――っス。久しぶりのお勤め、ご苦労様でした



 塩水にバッターとキャッチャーのブーさんと球審が悲鳴を上げながらもちゃんとボールはミットに収まっており、僕の出番は終了。そして結構な被害を周囲にまき散らしたため金ちゃん監督からゴーサインが出て、僕は試合終了したというのに両腕を芸人さんに抱えられて退場処分を受ける事となった。仮にも日本女子代表選手様に対する扱いかこれは! 訴訟も辞さない! と喚き散らしておくのも忘れない。ここまでがようしきびって奴だからね!

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