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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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第34話 今、僕はするめを食べています。

本日4話目

「日本対台湾戦、前回大会ではともに好成績を残した2チームの戦いが今始まろうとしています。実況はワタクシ亀沢と」



 くちゃくちゃくちゃくちゃ



「……えー。失礼しました。解説は日本女子代表のメンバーである権藤あまねさんにおねがいして……しているのですが」



 くちゃくちゃくちゃくちゃごっくん



「あの。権藤さん。もう中継始まっちゃっておりまして」


「するめを、食べています」


「はい???」



 今回のアジア交流戦はプロデューサー兼カメラマンさんが居るように、日本でも放送している。なんなら時差もほとんどないから生放送で実況してたりする。プロデューサー兼カメラマンさんに聞いた所、初日は僕が出ないからってそんなに視聴率は良くなかったけど僕とプロデューサー兼カメラマンさんが雑談をし始めた辺りから上向きになっていって、終わってみれば女子代表の試合としては破格の視聴率になったのだとか。


 で、今日は元々僕が出場予定だったからとなんと現地で実況と解説をつけて放送する予定だったらしいんだけど、いくつかの要因が重なって解説の元プロ野球選手が台湾入りできなくなり、そこで出番が無くなって暇になった僕が何故か自分が出場するはずだった試合の解説を行う事になった、らしい。


 公式戦じゃないからって無茶苦茶するなぁと思ったけど、この交流戦の資金はほとんど日本の企業が出してるから出来る事なんだって。やっぱりお金だよ、世の中。


 まあそんなこんなでお仕事を振られて台湾入りが無駄じゃなくなったわけだけど、僕としては正直あんまり面白くない。なんせ試合に出るつもりで台湾に来たんだしね。それと普通に解説するにしても相方が金ちゃん監督じゃないからいつもの調子でやれないってのもある。


 というわけで初手から困らせに行く事にしたわけだ。悪意を持ってやってるわけでも不真面目なわけでもない。


 真面目に、真剣にふざけてるんだ!!!!!!!



「今、僕はするめを食べています。そして僕はクチャラーではありません」


「あ、はい」



 僕の真剣な表情に押されたのか実況の亀沢さんはつい、といった様子で頷きを返し、中継先のスタジオに居る芸人さんに「はいじゃないが!」と突っ込まれたりしてる。時刻は14時。日本だと今日は平日なのに、この時間に生放送なんてして大丈夫なのかな?


 そんな心配をしている内に試合は始まった。今日の先発は軟投派の大学生で、2年前の世界大会でも好成績を残した人だ。



「今日先発の佐竹選手はコントロールに定評のある左のサイドスローで、内外の出し入れがとっても上手なピッチャーです。またスタミナにも定評があるんでイニングイーターでもあります。同じ軟投派である僕にとっても親近感の湧く投手ですね。投球練習を見る限り今日の調子は良さそうですし期待できると思います」


「あ、良かった……なるほどですねぇ。そうなりますと打線の調子次第になりそうでしょうか」


「くちゃくちゃくちゃ」


「あ、するめをたべてるんですね。いやいやいや食べちゃダメでしょこれなまほうそう!」



 お、早速ツッコミを入れてくれたね。うんうん、亀沢さんにも僕の呼吸? というか間の使い方が分かってきたのかな。まぁあんまりやりすぎると僕の印象が悪くなっちゃうから程々にしないとね。あ、冷たくて甘いパフェとかがあったらするめ食べないですむかもって主張しとこう。僕がパフェを食べる映像も人気だったってタツさん言ってたしね。


 こんな感じで解説をしながら実況の人と遊んでいると、中継の先はけっこう笑い声が多くなってる気がする。野球の試合ってどうしても間延びしちゃうからね。試合を見ながらもちょっとアクセントが欲しくなるんだ。球場なら周りのざわめきや隣に座る同じチームを応援する人たちとの会話なんてのがあるけど、テレビ中継だとそうはいかないからね。好きな人以外はどうしても野球を退屈に感じてしまう。


 でも、それはちょっともったいないよねっていうのが北埼玉デッドボールの理念だ。野球は面白い。それを広めるために野球をやっている人たちばっかりのチームに居るんだから、僕だって頑張って野球の面白さを広めないと。もちろん、僕なりの形で!



「うーん、このパフェ美味しい! 今打席に入った台湾の選手は2年前の大会で台湾チームの本塁打王に輝いた強打の選手です。振りの鋭さがウリの筈ですが、こうしてみると非常にバットコントロールが上手ですねぇ」


「温度差! パフェ食べてその解説は温度差凄いんですよ! キンッキンに冷えてやがる!」


「あ、キンッキンに冷えたオロカモンDありますよ。一本どうぞ」


「ありがとうございます???」



 この実況のアナウンサーさんも一回なんか壊れたら急に面白くなったね。クーラーボックスに満載したオロカモンDを取り出し、「ガッツー!」と口にすると「イッパーツ!」とアナウンサーさんが返してきてカチンコと乾杯だ。やっぱりこの掛け声、言いたくなっちゃうよねぇ。



「この番組はオロカモンDの売り上げで提供されています。美味しいよ?」


「ステマを超えたダイマありがとうございます。あれ、これ本当に放送していいの? 中継大丈夫ですか?」



 もしかしたら放送事故を起こしたかもしれないのはさておき、日本対台湾の試合は中々の好勝負になっている。日本の先発、佐竹選手は相手の攻め気を上手くかわしながら捌いていき、対する相手ピッチャーのファンさんという人も負けじと日本打線を封じていく。あれクセ球使いっぽいな。良くも悪くも日本人って綺麗な球筋のボールに慣れてるから、ああいう球を使う人には若干不利になるんだよね。


 まぁ流石に雑賀兄弟の長男ほどのクオリティじゃなさそうだから、仮に僕が出場してたら打てたとは思うけどね。ふんすふんす。そして、日本代表には僕以外にもクセ球使いからホームランを打った実績のある選手がいる。


 6回表、球数が増えたため交代した佐竹選手の代わりに打席にトロ子ちゃんが入った。相手ピッチャーのファンさんは変わらずだけど、若干呼吸が荒くなっているように感じる。大体70球くらいは投げてるからね。そろそろ交代の頃合いだと思うんだけど台湾側のベンチに動きはない。ここはファンさんに任せるって事だろう。



「さて今打席に入った能登選手は今年3月にあった選抜大会で権藤さんとバッテリーを組んだ方とお伺いしていますが、どうでしょうか。相方の雄姿を見てなにか感想は」


「トロ子ちゃんが相手キャッチャーに喧嘩を売らないか心配です。あ、中国語出来ないから大丈夫か」


「今年の日本代表は大丈夫なのか。権藤さんに話を伺っているとそればっかりが心配です」



 うん、それはどういう意味だろうか。僕のしんらつでからくちなコメントが厳しいって事だよね。おおん?


 さて、トロ子ちゃんの打席だけど上から見てたら一発で分かるね。トロ子ちゃんなにか狙ってるわ。


 ファンさんの一球目にたいして見送って様子を見た後、トロ子ちゃんは一回タイムを取った後に滑り止めを付けなおして再度バッターボックスへ。相手ピッチャーが振り被った瞬間にバントの構えを見せると、ファンさんは明らかに驚いた様子で少しフォームが崩れながら投球。あからさまなボール球にトロ子ちゃんがバットを引いてカウントは1ストライク1ボール。


 ファンさんはバント処理に飛び出したけど、途中で明らかにバテてるのが見て取れる走り方だったね。トロ子ちゃん、えげつない事するなぁ。


 そして2打席目は最初からバントの構えで相手バッテリーをけん制。ファンさんは嫌そうな表情を見せながらも投球を開始し、投げられた高めに外れる速球にトロ子ちゃんはバットを引いた。これで1ストライク2ボール。


 台湾のキャッチャーさんがタイムを取ってマウンドに上がったけど、ファンさんはしきりに首を横に振っている。交代を勧められたんだろうけど、嫌がってるんだろう。ただ明らかにバント処理が出来なくなってるからここで交代するのが最適解なんだけどねぇ。トロ子ちゃんの足がめちゃめちゃ遅いのを知ってるこっちとしてはバントなんてブラフだと分かってるんだけど、相手にそれは分からないからね。この判断も仕方ない。


 次が勝負だろうな。トロ子ちゃんは再度バントの構えを見せると、相手ピッチャーは据わった眼でそれを眺め、振り被る。高めに勢いよく投げられたボールは、スタミナがなくなっているせいか制球が利いておらず甘々なコースに投げ込まれた。


 トロ子ちゃんが狙ってたのはそれだ。バットを引いてそして一閃。快音がバットから響き渡る。さすがのパワーだね。これぞバスター本塁打!


 相手のファンさんも頑張っていたけどここで降板。続いてマウンドに上がった相手ピッチャーは速球自慢の本格派みたいだけど、代打に入ったあすみちゃんは速球にはすこぶる強いんだよね。なにせケーちゃんとしょっちゅう対戦してるから。


 2球目。けっして悪くないコースに放り込まれた123km/hの速球は綺麗な放物線を描いてスタンドに入り込んだ。これはもう、決まりだろうね。


 試合はそのまま2-0で試合終了。リリーフに入ったあすみちゃんは自慢の速球でぶんぶん台湾選手を空ぶりにとってきっちりと試合を締め切った。軟投派の後に本格派が出てくると速度差ですっごく打ち辛くなるからね。同じ速球派の真中パイセンは先発1番手だし、あすみちゃんは佐竹さんのリリーフとして世界大会では使えるか見られたんだろうなぁ。



「いやぁ、いい試合でしたね。ワタクシ、野球の実況は初めてでしたがいい経験を積めた気がします!」


「あ、普通の野球中継だと今回の経験は忘れた方が良いですよ?」


「どういうことです???」


「以上、台湾からの中継でしたー」



 そして僕の方も無事お仕事は終了! やっぱり金ちゃん監督とのやり取りみたいに気合は乗らないけど、中継で聞こえる声は笑い声が多かったからそこそこウケは取れてたはずだ。明日もこのまま解説をやらされそうだし、この調子で北埼玉デッドボールの一員として恥ずかしくない解説が出来るよう頑張ろう。


 でも試合には出たいなぁ……ぐすん。

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