第31話 巨神カップ予選決勝 対マンネリトルシニア
本日1話目
巨神カップの地区予選が始まった。この巨神カップというのは東京巨神タイタンズ主催の野球大会の事で、リトルシニアやボーイズなどから選ばれたチームでトーナメントを行い優勝したチームが地区代表として本大会に出場する大会だ。ここでいい成績を得られれば強豪校からの指名もあり得るから、もう進学先が決まってるような雑賀一さんみたいな超上澄み以外の出場選手は、誰もが死に物狂いで試合に臨んでくる。ほぼラストチャンスに近しい大会だからね。
当然我がハラキリトルシニアの先輩達もここにかけてる人が多く、つい先日行った北埼玉デッドボールとの試合のように粘りに粘る野球でたとえ格上と評される相手であっても一歩も引かずに戦い、見事勝ち進んでいる。僕も試合には出てるけど、相も変わらず魔球禁止令が出てるために投手としての登板はなし。むしゃくしゃしたので恐怖の核弾頭として先頭打者ホームランを量産したりしていると、いつの間にか決勝まで勝ち進むことが出来ていた。
ハラキリトルシニアの事前評価は中堅上位って所だから、正直ここまで勝てればかなり頑張ってる方だ。巨神カップは地区予選でも上位に行ければすっごいアピールになるからね。まぁここまで勝ち上がっている理由は先輩たちが頑張っているのは当然として、相変わらず何故か撮影に来てるローカルテレビのカメラによるデバフが相手チームを襲ってるのもあるだろうね。
先輩たちはこないだの北埼玉デッドボールの試合でカメラに対して吹っ切れたのか、カメラを向けられても相手チームほど固くなったりはしていない。そうそう。どうせ埼玉でしか流れないローカルテレビなんだから気にしないのが一番だよ。
「で。決勝まで来たらやっぱり来るよねぇ」
「途中で負けてくれたら楽だったんだけどね」
そして同地区のトーナメントということは、どっちかが負けなければ当然いつかはぶつかるわけで。決勝戦はあすみちゃんとトロ子ちゃんがいるマンネリトルシニアとの対決だ。あすみちゃんもバッチリ日本代表入りしてるから、この試合には女子とはいえ日本代表選手が3人も出る事になるんだね。
でも相手の先発はあすみちゃんじゃなくてマンネリトルシニアのエースさん。たしかMAX140km/hを超えた次世代の怪物って言われてる人で、選抜大会の時はあすみちゃんと一緒にリリーフとして活躍してた人だね。球速だけなら雑賀一さん以上だけど、制球に難があるのが大きな欠点だ。でもそれも3か月前の話。中学生くらいの選手はちょっとしたきっかけで大きく成長するから、3か月前のデータを過信は出来ない。
そして個人的には煽れるポイントなんだけど、何故かあすみちゃんはセンターとして試合に出場してる。いやぁ、分かるよ。あすみちゃんのバッティングセンスは控えにしとくには勿体ないからね。でもあすみちゃん。これでもう僕に投手もどきなんて嫌味は言えないよねぇ。にやにや。
「まぁ、それはともかくとしてぐわら!」
ガキィン! と良い音を立てて打球はフェンスの向こうへと飛んでいく。おお、ちゃんと狙った通りあすみちゃんの真上を通っていったね。あすみちゃん、入るの確信してるのか腕くんで仁王立ちのまま動かないでやんの。
いやね。まさかまさかの初球ど真ん中ストレートだったからさ。思わず球筋を見るのを忘れて思い切り振っちゃったんだよね。言い訳じゃないよ? ほんとだから。
これで初球先頭打者ホームランとかいう最低の出鼻になっちゃったわけだけど、相手のピッチャーさんは逆に出会い頭過ぎて吹っ切れたのか。これ以降は良い感じに腕が振れてるみたいで、凡打と三振の山を築いていく。
対するこちらのエース先輩は、やっぱり粘りの投球って感じだね。エース先輩は球速も普通より上、制球も普通より上、変化球もキレるというほどじゃないって感じだけど、ピンチでも決して集中を切らさない粘り強さがウリだ。
どうしても塁を埋めてしまいがちだけど、逆に2塁まで相手が進んだ後のエース先輩は強い! 長打を許さず、ホームに相手を帰さずに。気付けばスコアボードは0の行進が続くことになるんだ。
そして迎えた僕の第二打席。打ってもよし走ってもよしな僕相手には敬遠もあまり効果がないから、相手バッテリーも思い切った攻め方をしてくる。つまり力押し一辺倒だ。いやね、確かに僕って変化球打ちはすっごく得意だし。僕がアウトになる場合って球威に詰まらされてゴロっちゃうかライナーになっちゃう時なんだけどね。
でも、大牟田選抜の久留米さんみたいな異次元の剛球でもなければ、こんな一本調子な投球で詰まらされるほど僕のねじ巻き打法は弱っちくないぞ!
「ぐわら!」
ガキィン! と良い音を立てて1回の焼き直しのように打球はあすみちゃんの頭上を越えてフェンスの向こうへと飛んで行った。あすみちゃん、二度目の仁王立ちである。というかあすみちゃんの立ち位置、フェンスギリギリじゃん。明らかに打たれるって分かっててそこに移動してるよね……?
相手のエースさんは流石に今度の1発は堪えたのか。2番の先輩相手に四球を出して、345と続くうちのクリーンナップに連打を浴びて更に2点追加。そこで一旦立て直して下位打線を抑えたけど、試合の均衡は明らかにハラキリトルシニアに傾いた。
5回を投げ切った辺りで相手のエースさんは降板。代わりにセンターにいたあすみちゃんがマウンドに上がってきて、相手のキャッチャーはトロ子ちゃんに交代だ。
「いやー。あすみちゃんが出る前に追加点とれてよかったー!」
「うっさいわぼけー。うちでホームラン稼ぎやがってー」
「地区大会二冠王の権藤です。対戦よろしくお願いします。キリッ」
打点は一番だからそんなに稼げてないけど、今日の試合前の段階でほぼ二冠は確定してる。本塁打王の方はケーちゃんかコーちゃんがスタメンになったら取られちゃうかもしれないけど、少なくとも今年は僕が二冠王だ。ふんすふんす。
そういえば網走くんからトロ子ちゃんは相手のバッティングのダメ出しをひたすらする性格の悪いささやき戦法の使い手って聞いてたけど、僕の打席の時はトロ子ちゃん静かなんだよね。言う事ないって事なのかな?
「なんでそのフォームであんなに打てるか意味わからんからー。あきれてるだけー」
「まぁ、他人に勧める事はできないよ、ね!」
会話に乗る風を見せてその瞬間に投球を始める。間の外し方が上手だなぁという印象だけど、僕はずぅっとあすみちゃんを見てるからね? 投げ込まれたスプリットを振り抜くもちょっと早すぎたためか打球はレフトポールの外側だ。
惜しいなぁ。次は外さないぞぉ、と気合を入れるも、トロ子ちゃんはすっと立ち上がって思い切り外側でミットを構える。おいおい敬遠かよ。プライドの塊みたいなあすみちゃんが飲むのかぁ? と思ってたら、あすみちゃんは顔を真っ赤にしながらも大人しくトロ子ちゃんにボールを投げている。
ええ。前のあすみちゃんなら間違いなく地団駄踏みながら誰もないホームベースに向かって直球投げてたのに。大人になったって事かな?
「今のあすみじゃー。おまえに勝てねーからなー」
「ふーん? じゃあ勝てるようになったら勝負してくれるの?」
「…………来年だ。絶対にお前を倒して、あいつが女子最高の投手だって証明してやる」
「わかった。楽しみにしてる」
トロ子ちゃんに軽く挑発をぶつけると、思った以上の熱量で返されちゃった。ヤバイね、胸がドキドキするよ。もしかして、これが恋って奴かな?
塁に出られた以上はガンガン揺さぶってやろうと思ったけど、なんとあすみちゃんとトロ子ちゃんバッテリー、塁に出た僕を完全に無視してきた。歩いて盗塁とかしたけど余裕でセーフになっちゃったよ。でも、これが功を奏したというか後続を完全に断ち切って結局僕は残塁。6回の攻撃は0点という形で幕を閉じた。
もっともそれはこちらも同じ。6回からマウンドに上がったケーちゃんの投球は、制圧的という言葉がふさわしいほどに圧倒的だった。1球も掠らせなければ相手は勝てない。言うだけなら簡単だけど、これに近い事を中1の男の子がやっちゃうんだから才能って怖いよね。
これで夏季大会では予選落ちしたハラキリトルシニアは見事、巨神カップの本選に出場だ。夏季大会で落ちちゃった評判はこれで十分以上に取り返せたはず。後は全国制覇目指してひた走るだけだね!




