第30話 練習試合 対ハラキリトルシニア
本日ラスト
夏季大会の敗退が決定したせいで大分スケジュール的に暇が出来たので、僕はげいのーじんとしてバリバリ仕事をこなす事になった。あ、もちろん土日は北埼玉デッドボールの方で活動してるしハラキリトルシニアでの練習もしてるよ? あくまでこれまでに比べたらって事。
所属事務所からは専属のマネージャーさんがつけられているから、この人に僕の希望を伝えてスケジュール調整をお願いしてるんだけども。
「なんか、僕が思ってたよりも当社比1.5倍くらい忙しい……忙しくない?」
「お嬢様が日本代表になんてなられるから仕方ないのでは」
僕の至極真っ当な抗議は面の皮が厚そうなお姉さんの正論で叩き潰されることになる。くそぅ、僕だって日本代表だし仕方ないなって思っちゃうよ。くそぅ。
彼女は有川さん。僕のマネージャーさんで、おかーさんが山田家に居た時は専属のメイドさんだった人だ。おかーさんが結婚した時にメイドさんは辞めて叔父さんの会社に配置転換?したらしいんだけど、僕が事務所に所属するという事になった時に叔父さんに直談判してマネージャーさんになってくれたらしい。
僕の事をお嬢様って呼んでくるのは、おかーさんの娘だからだって。今でもおかーさんのメイドさんに戻りたいって愚痴るように僕に言ってくるんだけど、流石に喫茶アンデッドの稼ぎでメイドさんを雇うのは……ウェイトレスとしてならまぁイケるかもだけど。
ちなみに僕の今週のスケジュールは平日は学校に行った後練習がない日はバタバタ都心へ移動して取材や日本代表としての広報活動、土日は北埼玉デッドボールの試合かバラエティー番組での魔球担当係をやってたりする。
年末に撮影したリアルで野球盤をするバラエティーがすっごく好評だったからって今夏も放送しようという事になり、僕もブーさんと一緒に参加する事になったんだよね。もちろん魔球係で。
で、今回は前回よりも更に僕の自由度が上がったというか、タツ・スズキさんには好きに動いてていいって言われたからグラウンドの端っこに寝転がって「暇なんですけどー」とか「あー。漢気みたいなー」とか言ってバッターを挑発したり、収録中にカメラを引き連れてドームの喫茶店でパフェを食べたりしてたら前回よりも小悪魔度が上がっててベリグーってタツさんに褒められちゃった。
「おい〇〇! お前、あんな小娘にああまで言われて悔しくないのか! 漢気見せろや漢気をよぉ!」
「魔球こいや魔球!」
こういう感じのお約束の流れが出来たから魔球も一杯投げられたしね。その分、ブーさんたちは大変な目に遭ってたけど撮影が終わった後は満足そうにしてるから小悪魔度っていうのはちょっと意味わかんないけど、多分バラエティーとしてはこの路線が良いって事だね。心のメモ帳にメモッとこう。
あと、こんな挑発をした甲斐もあってかポイントがガンガン溜まってなんと! 1回の収録で2回分もチケットが溜まったんだよねぇ。今のところは合計で5枚あるから、5試合は使える計算になる。夏の開催だから流石にペナントレース中の一軍バリバリって選手は出てこなくて、現役を引退した名選手とかが対戦相手だったけど、社会人で頑張ってる人たちよりも格上の強敵扱いになったのは嬉しいね。
そしてそんな名選手の中には僕の魔球を前に転がす人もチラチラ居て、やっぱりプロは凄いなって思ったよ。僕、サンダーイナズマボールとか投げられたら絶対に打ちたくないもん。
「ええと。うちとしては胸を借りるつもりで行かせてもらうけど、本当に大丈夫なのかな?」
「はい! 金ちゃん監督にお願いしたら快く受け入れてくれました!」
「そうか……なら、よろしく頼むよ」
さて、仕事が忙しくなっているとはいえ僕の本業は野球。その野球での失態を副業のげいのーじんパワーで挽回するのは、僕としては歯がゆい所だけどなにもしないよりはずぅっとマシだ。
という訳で、金ちゃん監督にお願いして北埼玉デッドボールと我がハラキリトルシニアでの練習試合を組みました。色物臭が凄いとはいえ北埼玉デッドボールはれっきとした社会人野球チームで、クラブ選手権大会で優勝した実力があるチームでもある。もっとも僕は公式戦には参加してないから、そっちでは貢献できてないけどね。
それだけ実力のあるチームとの対戦になるんだから、当然ここで活躍出来れば良いアピールにもなる。北埼玉デッドボールの試合はローカルテレビの人気コンテンツだから、当然この練習試合もテレビカメラが入ってくる予定だ。
「ここまではお膳立て出来ました! ただ、これを乗り越えられるかは……」
「分かってる。後は、俺ら次第だろ」
大会で振るわなかった先輩たちに、せめてアピールチャンスを。リトルの頃からお世話になってる人ばっかりなんだから、これくらいはしとかないとね。あとは、次の巨神カップに向けての景気づけって意味合いもある。巨神カップの結果いかんでは、入学できる学校のグレードが1段か2段はね上がる可能性もあるんだから。
ハラキリトルシニアの先発はエース先輩。普段はセンターに僕が入るんだけど、今日は先輩たちのアピールのためにそこは空けてある。というか僕は今回、北埼玉デッドボール側での出場だ。
「さぁ始まりました北埼玉デッドボール対ハラキリトルシニアの一戦、実況解説はワタクシゴンドーがお送りいたします!」
「おお、あまちゃんが最初からやる気だ……傘持ってきてないんだけどなぁ」
「降水確率0%だからね!? 必要ないよね!?」
僕はいつだってやる気満々だろ! しつれいだなぁ。なんて金ちゃん監督と言い合いながら僕はテキパキと試合の実況をする。両チームに所属してるからみんなの良い所も欠点もバッチリしってるからね。身内びいき120%くらいでハラキリトルシニアの先輩方をヨイショしても違和感はそれほどない筈だ。
試合は予想通りというか、やっぱり元プロも参加してる北埼玉デッドボールの方が圧倒的に優勢。大人と子供の差ってのは単純な筋力だけじゃない。経験値って意味でもそうだ。
エース先輩は決して悪いピッチャーじゃないけど、それは同年代の中での話。MAX130に届かないくらいの彼の投球は、むしろ社会人野球では打ち頃の球になってしまう。3回を終えた辺りで2本の本塁打を含む5失点だけど、それでもエース先輩は折れなかった。粘り強くコースを攻めてじりじりと打たれながらもアウトを積み重ねていく。
それに応えるように、野手の先輩たちも懸命にバットを振った。今回登板しているバーバ正樹さんはスタミナが課題点のピッチャーだけど、去年から重点的に取り組んだ制球練習が功を奏して先発になった人だ。持ち味の速球とフォークの組み合わせは中学生レベルでは文字通り手も足も出ない代物だけど、必死に食らいついてなんとか1点。もう1点と5回までに2点を取り返す。
ただ、5回時点でエース先輩はすでに7失点。流石に限界だと監督がマウンドに上がるも、エース先輩は食い下がっている。
「凄い気迫だねぇ。彼、良い投手になるよぉ」
「あ、金ちゃん監督もそう思います? 僕も頑張ってほしいって思ってる人なんですよね」
「だからこの試合お願いしてきたんだ。うんうん、あまちゃんにも人の感情があったのかぁ」
「僕の事人類だと思ってなかったです???」
じゃあ、君が引導を渡してあげなさい。そう言って金ちゃん監督は代打を申請した。センターの番場選手に代わって僕を打席にあげる。ううん、まさかのサプライズ。僕としてはいつものラストワンアウトでちゃんちゃん、の流れだと思ってたんだけどさ。
でも、まぁ。それならお言葉に甘えよう。圧倒的格上の社会人相手に5回まで粘投したんだ。たとえ僕が打ったとしても、これでエース先輩を軽く見る奴は野球関係者には居ないはず。
僕が打席に入ると、ハラキリトルシニア側から歓声が上がる。口々に三振にしてやる、だとか頼むぞエース! 裏切者に目にもの見せろ! とか言って囃し立てるのだ。おいおい、この試合組んだの僕だぞ? と唇を尖らせると、エース先輩がニヤリと笑って僕に握りを見せてくる。
4シーム。まさかの直球勝負宣言。
思わず笑っちゃって、僕はバットをこんこんとヘルメットに当てる。これは僕なりのおまじないだ。全力でバットを振るうために、自分自身に魔法をかけるための。
先輩が振り被り、投げる。ギュン!と擬音が聞こえそうな威力のあるストレートが、外角一杯に飛んでくる。予測よりも速い。バットの先に当てるとボールはライト側のフェンスに当たった。ファールだ。
こんこんとヘルメットにバットを当てる。次は今よりも速いかも。ただの勘だけどそう思ったから、そう感じた通りに頭の中を修正する。先輩が振り被り、投げる。今度は上、ボール球。勢いよくキャッチャーミットに突き刺さったボールは、ズバァンと良い音を立てた。
さて、1ストライク1ボール。バッティングには良いカウントだ。セオリーなら次はストライクを取りに来るが、多分いまのボールを見る限り、先輩はもう思い切り投げる以外に考えてないだろうな。だから、僕も深く考えるのを止めた。
第三球。内角に飛んできたボールを、ねじ巻き打法で迎え撃つ。
「ぐわら!」
ガキィンと良い音を響かせてボールはエース先輩の頭上を越え、いつも僕が守るセンターを越えて、金網の向こうへ消えていく。僕は丁寧にバットを地面に置いて、ダイヤモンドを一周する。内野の先輩たちがご祝儀のようにグラブで僕の頭をはたき、そして僕はホームベースに戻り1点の追加。エース先輩はすっきりとした顔でそこで降板し、2番手の先輩がマウンドに上がった。
試合は結局12対4で北埼玉デッドボールが勝利。僕は最終回にセンターからマウンドに上がり、いつもどおりブーさんに魔球を投げてブーさんと一緒に退場する流れを執り行った。もう完全に儀式みたいなもんだよね。
そして試合後に金ちゃん監督の奢りで近所の焼肉食べ放題へ行き、ハラキリトルシニアと北埼玉デッドボールの面々で腹いっぱいお肉を食べて帰った。やっぱり他人のお金で食べる焼肉は美味しいよねぇ。
このチームで戦うのは、次の巨神カップが最後だろう。
次こそは、一番上まで行きたいなぁ。
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