第22話 決勝。そして
本日2話目
昨日は大変だった。球審氷漬け事件は意外と大きな波紋となり、僕は目出度く?当該大会での登板を正式に禁じられることとなる。この件にはスポンサーになってるローカルテレビのプロデューサー兼カメラマンさんが猛抗議したみたいだけど覆ることはなかった。
まぁ、これは仕方ない。僕も派手にやるって決めた段階で覚悟は決めてたからね。ただあの試合の第一打席は結構な衝撃だったみたいで、次の日の朝には全国区の新聞の見出しに載ったりして大問題扱いになったから大きく責められることは無さそうかなって予想はしてる。来年、この大会出れるかなぁ?
さて、それはそれとして決勝戦だ。昨日はあすみちゃんが初回から5回までを3失点と試合を作り、残りをリリーフの先輩方が引き継いで勝利した我が西東京選抜。しっかりと休んだエース先輩をぶつけることが出来るとあって、今度こそ念願の優勝をと士気も高い。
対する道頓堀選抜は流石の優勝候補というか。危なげなくここまでの戦いを横綱相撲で勝ち進んできている。主砲の網走くんはすでに今大会5本の本塁打を放っており、同じく5本塁打の3年生と共に化け物打線の中核となっている。
この強力打線をうちのエース先輩が抑えきれるのかってのが今回の戦いの重要ポイントなんだけど。
「さすがにこれは取れないなぁ」
カキィーン! と快音と共に頭上のはるか上を超えていく打球に、僕としてはため息しかでないわけですよ。まさか完全に登板禁止になるなんてね。まぁ半ば覚悟してたけど実際にそうなると辛いっちゃあ辛いよ。
現在5回の段階でスコアは7-4で西東京選抜は負けてる状態。更に今の一発で2点向こうに持ってかれたからこれで9-4。満塁ホームランでも逆転できない点差だ。うちの打線も決して悪くないんだけどね。僕という核弾頭が1番に居るんだし!!!
でも、まぁ。道頓堀選抜の打線はそれ以上だったって訳だ。エース先輩も踏ん張ってたんだけど4回に3ランを打たれてズルズル失点してしまったんだよね。リリーフの先輩方も頑張ってるけど道頓堀打線を抑えることは叶わず。
結局そのまま道頓堀選抜に押し切られる形で僕らは敗退。僕は4打数4安打1本塁打と大活躍したんだけどね。相手の先発ピッチャーさん、僕に打たれても嬉しそうに勝負してくれたからもしかしたらちょっとMっ気があるのかもしれない。
「そこは男気がある言うてくれんか?」
「いやいや。流石はあまちゃん見る眼あるでぇ。このボンクラ女の子に叩かれるのがすっきやさかい」
「あ、やっぱり」
「やっぱりちゃうわい!」
試合終了時の握手でそう尋ねると相手投手の相良さんは1試合投げ切ったとは思えない元気さで周りにからかわれてる。うんうん、やっぱり優勝候補ともなるとチームの和も大事だよね。
「あ、網走くん1試合3本塁打おめでとう。今大会本塁打王だっけ? 中学生に交じってそれはヤバイね」
「……君を打てんかった記録なんてクソや」
「んー」
網走くんと握手を交わす。僕としては十分すぎるというかこれで文句をつけるのは違うんじゃってくらいにいい結果だと思うけど、網走くん的には僕との決着の方が大事だったって事か。嬉しいんだけど、まぁ、しょうがないよね。投げれないんだし。
でも、僕たちの戦いはこれで終わりじゃない。なんせ僕らはこれから中学生になるんだから、来年も再来年も鎬を削る事になる。決着はまたその時って事で良いんじゃないかな。あ、むしろそっちの草むらで1球勝負やる? 僕としては強敵認定の網走くんとバトるのは大歓迎なんだよねぇ。1ポイントおいてけ!
「あたしはつきあわねーぞー」
「うーん、イケずだなぁトロ子ちゃん」
「あー。あと網走ー。ごにょごにょ」
「う、うん?」
網走くんと一打席行こうぜ! をしようと思ったら相方のトロ子ちゃんに梯子を外されちゃった。残念だけどまぁ、コーちゃんでも練習で魔球は取りたがらなかったししょうがないか。こういう時こそブーさんが居てくれればありがたいんだけどね。
しかし、網走くん。トロ子ちゃんに内緒話されて顔が百面相になってるけど、どうしたんだろ。試合外でもささやきされちゃったのかな?
「皆さん、お疲れさまでした。惜しくも優勝を逃してしまったとはいえ十分な結果です。十分に、君たちは頑張った。胸を張って東京に帰りましょう」
監督の言葉に、先輩たちがうつ向いて震えている。明らかに力負けした結果だから、やっぱり悔しいんだよね。自力で負けていたってのが良く分かっちゃうからさ。
監督のあいさつの後、僕たちはホテルの部屋へ戻り荷物を纏める。5日も居たからね。若干愛着も湧いてきた部屋を綺麗にしないとね。5日間良く寝れました。ありがとうございました。
ホテルのロビーに集まり、お世話になったホテルの従業員さんたちにお礼を言ってホテルを出る。これからまたバスに乗っての長距離移動だ。到着は夜になるけど、保護者が迎えに来てくれる手はずになっている。
「負けたなぁ」
「負けたわねぇ」
「しゃーない」
また最前列の席に座らされた僕たちは、思わず口に出た言葉を皮切りにあの試合はこうだった。この試合はどうだったと振り返り感想戦を交わした。そして今大会の最大の敗因はやっぱり準決勝だという最終見解に居たり、あの球審絶対に許さねぇと愚痴りあう。ハラキリトルの時にも感じたけど、やっぱり負けるってのは好きじゃないね。
次は、勝つ。静かな決意を胸に、バスの背もたれに深く体を沈める。疲れてる筈なんだけどなぁ。今夜は眠れないかもね。




