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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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第21話 準決勝 対奈良北選抜とエターナルフォースブリザード

本日1話目

 〇亀の釜揚げをたらふく食べて英気を養い、やってきたるは準決勝!


 いやぁ大牟田選抜の皆はお金持ちだったね! まさか最後に皆に握手するだけでお替りにかしわ天まで許してくれるなんて思わなかったよ。



「あんた……そのうち刺されるんじゃない?」


「え? 皆喜んでくれてたじゃん」



 握手した手を一生洗わん! とか久留米さんが叫んでたけど、さすがに本当に洗わなかったらもう握手しないって釘指しといたから生物兵器の誕生も阻止したはずだし。ほら、僕なんにも悪い事してない。


 なぁんてガールズトークをしていると、ベンチ裏から僕を呼ぶ声が聞こえてくる。ちらっとそちらを見やるとローカルテレビのプロデューサー兼カメラマンさんが手招きしている姿が目に入った。



「あまちゃんおはよー! いやぁ、昨日はいい画をありがとうね。健気な青少年を手のひらで転がす小悪魔っぷりが板についてたよ!」


「すっごい風評被害やめてもらっていいです???」


「お陰様で視聴率もかなり良くってさぁ! リトルシニアの全国選抜なんて流してどうすんだって言ってた上司がねぇ! 手のひら返して褒めてくんのがもう気持ちいいんだぁ!」


「プロデューサー兼カメラマンさん、お主も悪よのぉ……」


「あまちゃん様ほどでは。おっほっほっほっ。という訳でね、あまちゃん、今日もいい画期待してるよぉ!」


「りょーかいっでっす。僕ももういっぱしのげいのーじん。期待に応えて魅せますよぉ!」



 なにせ今日は先発だしね。中1日休ませてくれたのはありがたいけど人気者は辛いぜ……!






 準決勝の相手は関西の奈良北選抜。関西圏は強豪ぞろいって言われてるけど、このチームも準決勝まで勝ち上がってくるチームなだけにまぁ強い。今年の奈良北は全国的に評価されてるエース格が3人いて、彼らが失点を最小限にして繋ぎの打線で点を取ってここまで勝ち上がってきている。


 つまりこのチームに勝つには打線が奮起する必要がある。前の試合で打力偏重の大牟田選抜を打ち破った打撃力を見せるぞぉ! と意気込む先輩たちを尻目に、先発の大役を任された僕は非常に冷静な判断を持って監督に伝えた。



「僕1番が良いです」


「あ、はい」



 2回戦では雑賀さん相手に苦労したからね。トロ子ちゃんがギャンブラーじゃなかったら、アレ延長まで行ったんじゃないかな。だから今日は最初からトップに出てガンガン相手をかき回してやろうって寸法だ。


 という訳でオーダーが発表されると、会場からは歓声が、相手のベンチからは怒号が放たれた。例によって例のごとく僕が先発だと相手の監督さんが怒り出すのはなんでだろうね。すくなくともこの大会中は大人しくしてると思うんだけどなぁ。



「あまちゃん! 良いよぉ! そのまま全部魔球でいっちゃおう!」


「それするとトロ子ちゃんが大変だから無理かなぁ」



 カメラを構えたプロデューサー兼カメラマンさんの怒鳴り声に思わず苦笑いがこぼれる。外野は勝手なことを言ってくれるよね。トロ子ちゃんは特別な訓練を受けた芸人さんじゃないんだから魔球連投なんて出来るわけないじゃないか。


 さてさて、今日も後攻だから僕が最初にマウンドに立つことになる。いやぁ、気持ちいいねぇ。ピッチャーがバッターに投げる第一球、つまり僕がこれから投げる球で試合が始まるのだ。まっさらなマウンドの上から、渾身の一球を放つ。この瞬間を楽しめないピッチャーなんて居るの? いや居ない!(キリッ)


 てやー! と投げたボールはちょっと高めの内角をえぐるシュート。右打者には結構気持ちよく決まるはずのソレは残念なことにボールの判定だった。アレ、今日の審判さん結構ゾーンが狭めかな?


 ならばと次は外角に。内側で見せたから踏み込みづらいだろう外角低めにストレートをズバシと投げ込むも、またボール。ええと、うん? 今のはかなりはっきりストライクだと思うんだけど。



「今の、なんでボールなんです?」


「ボールはボールだよ」


「はぁ……わかりました」



 たまらずトロ子ちゃんが球審さんに尋ねるも、球審さんは厳しい口調でトロ子ちゃんにそう言って一顧だにしない。ううん、なんだか怪しい雰囲気になってきたぞ?


 続く第三球。今度は真ん中から下に逃げていくチェンジアップを投げてみる。このコースなら仮に打たれても長打にはならない。そんなボールだけど相手のバッターさんはピクリとバットを動かしてスルー。直球狙いだったかな? まぁまだ2ボールと余裕があるし1番の彼が球筋を見るために見逃すってのは分かるんだけどさ……



「ボール!」


「はぁ!? ど真ん中ですよ!?」


「ボールだ!! 私がそう判断した!!」



 真ん中から多少落ちたとはいえほぼど真ん中に近い場所でボールの判定。思わず抗議の声を上げたトロ子ちゃんに球審さんが大きく声を上げる。いや、ボールだ、じゃないんだが。それをボールにされたら投げる球無くなっちゃうよ?


 たまらずうちの監督がベンチから出てきて、更に相手チームの監督もベンチから飛び出てきた。更に更に塁審の人たちにスーツ着た人たちまでグラウンドに入ってきての大騒ぎである。


 もちろん試合は一時中断となり、僕たちも各々ベンチに引っ込む形に。もしかして僕、球史に残る大誤審の立会人になったのかな? 中断は約10分ほど続き、大人たちの話し合いの結果非常に不服そうな表情で球審さんはマスクを被りなおした。あ、再開ですかそうですか。



「監督。けっきょくどうなってるんです?」


「ああ……権藤さん。災難でしたね」



 災難も災難。ど真ん中に投げてボール貰っちゃったからねぇ。伝説のMKHR3連続ボール事件に並ぶ事故にぶち当たった気分だよ。僕みたいにコントロールと多様な球種で攻めるタイプのピッチャーには死活問題だからね。これで四球にされてたら温厚な僕でも流石にブチギレですよ。


 さて、再スタートとはいえもう3ボールを相手に与えてしまっている事には変わりない。大人同士の話し合いででっかい釘を刺されてるだろうけど万全を期して怪しいボールは投げないようにしないと。


 なぜか申し訳なさそうな相手バッターに気にしないで、と笑いかけて第4球。最初の1球と同じく内角高めで、今度は外に曲がるカットボール。余裕でストライクゾーンだしこれなら大丈夫でしょうと思ったら審判は大きな声でボールのコールをだした。


 なるほど。これは野球じゃなかったんだね。僕としたことが気付くのに4球もかけてしまったよ。


 よし、殺るか。



「殺るかじゃねーんだわ」


「見逃してトロ子ちゃん! あいつ殺せない!」



 あわてて駆け寄ってきたトロ子ちゃんに球審抹殺計画をほのめかすと叱られた。解せぬ。


 とはいえこのままじゃあジリ貧もジリ貧だ。なんかあの球審さん、明らかにまともなジャッジするつもりないし。さっきの中断はなんだったんだろうね、ほんと。



「聞こえた話だけだけどー。女が―とか。魔球がきにくわねーだってー」


「はぁ!? 仮にも全国選抜の球審がそんな理由で……あ、いや。割とあるかぁ」



 なんせアマの審判なんて「私に逆らったからストライクからボールになったんだ!」って言っちゃう奴が居るくらいの魔境だからね。全国だと珍しいけど地方ならこんな奴いくらでも居るんだよ。ここまで大人げなくて強情な人は流石に珍しいけど。これテレビで撮ってるんだぞ……?


 しかしそうか。そもそも僕が投げてるのが気に食わないんじゃ割とどうしようもないのかなぁ。ううん、有名になるのは望んでた事だけど、こういう悪い意味での有名税みたいなのもあるんだね。


 でも、そうなるとセンターに引っ込んでも多分まともにプレイできないよね。敬遠されてストライク、なんて言われたら流石に困るんだけども。



「こまるからー」


「うんうん」


「あのきゅうしん殺るなら魔球でぶっころせ。1発なら誤爆だろ?」


「お、おう」



 いつものノリで球審の暗殺計画をほのめかすトロ子ちゃん。怖い、怖いよこの元小学生。



「あいつはー。この試合を汚しやがったー。そのうえー。まじめにがんばる女子全部をけなしたからー。絶許」


「おK、把握」



 僕が思っている以上にキてるみたいなトロ子ちゃんに親指を立てて送り返す。トロ子ちゃん。僕が今まで思っていた以上に熱い子だったんだね……!


 その思いに、同じ女子選手として男の子の中で頑張る思いに答えずしてどうするというのか。こんなことも出来ないようじゃ、夢の甲子園出場なんて夢で終わっちゃうよ!



【あ、今日は出番はやいです?】


――っス! とりあえずド派手な奴でいきます。ええと、これでいいかな?



 使った事のない魔球だけど名前的に派手そうだ。というわけでヨロシクッオナシャース!


 2番さんがバッターボックスに入る。この人もすっごく申し訳なさそうな感じで僕を見てくるし、向こうのチームもこの状況は喜んでないみたい。チームとしては有利になるとはいえやっぱりここまであからさまだとって事なんだろうね。


 多分、あの球審さんも試合が終わった後に色々言われるのを覚悟してやってるんだろうけど、そんなのは試合をしてる僕らには関係ない。そっちがその気なら、こっちもその気だ。


 振り被る。多分、この魔球を投げ始めてから初めて野球の為以外にボールを投げる。願わくば、この一球で終わりにしたい。というわけでてやー!


 投げられたボールはまっすぐど突き進みながら氷の塊になり、少しずつ大きさを増してキャッチャーミットへ向かって飛んでいく。サッカーボールくらいの大きさになったボールをバッターはスルーし、キャッチャーのトロ子ちゃんも横に倒れ込んで回避。そのまま突き進んで球審に着弾。ドゴォンと音を立てて腹部にぶち当たったボールは球審を吹き飛ばしながら更に大きくなり、バックネットに球審ごと激突。そして大きな氷の柱を創り出した。



【魔球エターナルフォースブリザード! 相手は死ぬ!(死にません)】


――ほんとに死んじゃったんじゃないかな???


【? ちょっと寒いだけで人は死にませんよ?】


「さっすがあまちゃん! これが見たかったんだよぉ!」



 騒然とする球場に大はしゃぎするプロデューサー兼カメラマンさんの声が響く。声デカいなぁ。そして不謹慎。ま、まぁエンタメに命をかけてる人だからしょうがないのかな。まぁ、とはいえ球審がコールできる状態にない以上はアピールしとかないといけないよね!



「とりあえず1ストライク―」


「「「いやいやいやいや」」」



 指を一本立ててそう宣言すると周囲から寄ってたかって責められる。ただのアピールプレイじゃないか! なんて寒い時代なんだ! あ、近くに氷の塊があるからか。


 氷の塊は1時間くらいで溶けて中に居た球審さんも無事に外に出られたけど、流石に球審を続ける元気はなく試合は1時間後に続行になる。僕とトロ子ちゃんは監督から厳重注意で交代だ。ただ、ベンチに引っ込んだら監督からこっそり褒められたから監督も相当キてたっぽい。


 まぁ、明日は決勝戦。そこでしっかり活躍すればいいかと思っていたら僕はもう今大会で登板しちゃダメ、というお達しが偉い人から直接言い渡される事に。ううん。流石にエターナルフォースブリザードはちょっと派手過ぎたみたいだね。

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