第2話 魔球《アレ》はやりたくてやってるわけじゃねぇんだよぉ!
「全滅! どこのクラブも拾ってくれませんでしたぁ!!!」
「お、おう」
「残念でもなくトーゼンじゃん?」
最後の大会も終わり、小学校生活も残りわずか。リトルリーグで活躍した選手たちはまぁ、大体この時期にはほとんどが次のステップに。所属してるチームのリトルシニアに参加するか他のリトルシニアに所属するかを選択する。まぁ大体はそのままチームのリトルシニアに所属するのだが、僕に関してはこれがちょっとネックになる。
なんせ僕、全国大会決勝でやらかした件が尾を引いて対外試合禁止を言い渡されてるんだよね。
天災だろって言いたいんだけど、前々から投球したら火が出たりボールが消えたりと変な出来事を起こしてたからね。僕が投げてるとたまにこういう事が起きるって認知されちゃって、チームの上層部からそう言い渡されてしまったのだ。完全に事実だけに否定できない……
「このままじゃ公式戦出場0の灰色の中学時代を送る事になるんだよ……! 僕は甲子園に出なければいけないのに……!」
「お、出たねあまネキのコーシエン! 女子高野球も甲子園で試合するしそっち目指した方が現実的っしょ。そもそも男子高校野球の大会に女子が出るのがオカシくね?」
「それは全くその通りなんだけどさ!!!」
軽薄な言葉遣いの割に至極真っ当な正論で僕の願望を叩き潰してくるのは、小学6年にして大覚醒し我がハラキリトルを全国大会決勝へ導いた大エース、田中くんである。キャッチャーの田中くんとは双子の兄弟であり兄弟バッテリーでの全国出場、とちょっとだけニュースにもなってて羨ましかったりする。
リトルの試合に女子が出るってのは割とよくあるせいで、僕が多少活躍してもニュースになんてならないからな! 話題性欲しいよ話題性! 強豪クラブに注目されるくらいの!
「いやー、あまネキはかっわ良いからアイドル推ししてたらイケんじゃね?」
「それも選択肢だけど実力で注目されたいんだよね」
「アイドルになれるくらい自分が可愛いとは思ってるんだな」
今まで黙って兄と僕の会話を眺めていた田中弟が口を挟んでくる。弟の方は軽薄口調の兄と違って随分と硬い感じがするが、この兄弟、実はは口調以外には大きな差がほとんどないんだよね。言ってることも含めて。顔だちも体格までそっくりだしどっちもスポーツ刈りだし。
そしてアイドルになれるくらい可愛いんじゃない。僕は世界でもトップレベルに可愛い。これは厳然たる事実だ。
なにせ僕を権藤あまねとして転生させた女神様が用意したこの体は、容姿から身体能力から全てがハイエンドにチェーンされた特別性だ。どれくらい特別かっていうと画面に僕が映ればほとんどの観客が僕の一挙一投足に夢中になるし、命を削るような魔球も損耗なしで投げられるくらい頑丈だったりする、らしい。大リーグボールとかも連投できそう(小並感)
転生してから始めて鏡を見た時は震えたね。鏡の中に女神か天使かって美幼女が居るんだもん。あの瞬間から僕は僕自身のファンになってしまったのかもしれない。鏡を見るたびに推しがこっちに笑いかけてるって控えめに言って最高では?
まぁそんな自分の感情を抜きにしても容姿が良いのとケガをしないってのは評価を稼ぐ上でプラスにしかならないし目的のためには非常に大きなアドだよね。変なファンとかがついたり服とかがボロボロになる系の魔球を投げさせられなきゃ。都合よく使えるものは全部使わないと甲子園になんて出られないのだ。
「その結果試合に出られそうにないんだけどな」
「魔球はやりたくてやってるわけじゃねぇんだよぉ!」
田中弟の苦笑交じりの声にそう叫び返しておく。女神様が我慢できなくなったら発動するんだから僕に言われても正直困る。それを毎回受けてる田中弟には、正直、その。苦労を掛けてるなって思うけど。
ともあれ田中弟の言う通りこのままでは対外試合に出られない灰色の中学時代が来てしまう。かといって他所からの誘いも来てないし。
「いっそ女子チームに行きゃいいんジャね? あまネキならすぐ試合出れっしょ!」
「それも選択肢なんだよねぇ。ブランクは作りたくないし。どっかに試合に出してくれるチームでもあればなぁ……」
「そんな夢みたいな事言ってねぇで練習しろよ。魔球なんかに頼らないでも、お前なら上でやれるだろ」
田中兄の言葉に頷いて、ついつい願望を口にすると田中弟が厳しい口調でそう言ってくる。正論過ぎて耳に痛いし魔球に頼ってるわけじゃねぇと声を大にしたい所だが、僕としてはある思い付きのせいでそっちの言葉に反応を返すことが出来なくなってしまった。
試合に出れないのがネック。女子野球では男子相手の試合経験や評価が厳しい。その両方を解決できて、しかも現在の僕に付きまとう落雷女というレッテルも上手く扱えるかもしれない魔法のような選択肢がそういえばあるわ。
「そうだよ。なにもリトルシニアで試合に出なきゃいけないわけじゃないんだよね」
「お、おう。もしかして中学野球部に行く気か? たしかにお前ならそっちでも結果は出せるだろうけど掛け持ちはキツイぜ?」
「んや。そっちじゃないよ。ハラキリトルシニアには行くけど中学野球には興味ないかな」
そもそも硬式から軟式に変えてまた高校で硬式に、なんて無駄すぎる事はやりたくないんだよね。本気で上を目指すならクラブチームで実践を積んで強豪校からのスカウトを受けるってのがほとんどの球児のサクセスストーリーだ。
そう。クラブチーム。どうにも自分も頭が固かったようだとこんこんと自分の側頭部を叩くと、田中兄と田中弟が揃って私の頭を叩きに来た。
「……なにやってるの?」
「ほら叩けば直るカナって!」
「左斜め45度が大事らしいぞ」
「直るか! 僕はブラウン管テレビじゃないわい!」
どうせテレビなら4Kの有機ELじゃい! 薄いし! なーんて言っても目の前に居る田中兄弟にはこのネタは伝わらないだろうな。この世界の日本は私の知ってる日本とちょっとだけたどってきた歴史が違っていて、彼らがネタにしているブラウン管テレビが未だに現役だったりする。
たぶん、今生きてる時代は前の歴史だと平成とかその辺くらいに感じるんだけど、年号も西暦も全然違うからいつくらいってのが出しにくいんだよね。ちなみに現在の和暦は晩南25年だ。晩南元年にやたらと人気になったロボットアニメが流行ったらしい。見たことないけど。
少し話がそれた。
とまれ僕の凝り固まった固定概念。前世の知識と経験に基づいた将来設計では出てこなかった第三の選択肢に、今生の僕なら手をかけることが出来るのではないだろうか。
まず事実として僕は可愛い。女神さまのチートのお陰なのかおばあちゃんが北欧のどこかの国出身だとかで異国の血が混じってるからか、日本人と西欧人のいいとこどりみたいな顔立ちで若干赤く光る瞳は見つめられたら大体の同級生が目を逸らしちゃうくらい魅力的。どんだけ日焼けしても綺麗に焼けるだけでお肌なんかいつもトゥルットゥルだし天然物の銀髪はいつだってサラサラだ。
テレビに出たらたちまちお茶の間の視線を独占すること請負である。この容姿だけでも客寄せパンダ的な活躍は出来ちゃうだろうっていうのは大前提として、その上で僕には野球の実力がある。
え、前回あんだけピンチになってて何を言ってるんだって? そこはそれ。相手が明らかに小学生のレベル超えてる怪物だったし、そもそも直球だけでアレの相手するのは無理無理カタツムリってものだろう。それこそ田中兄のように120kmという小学生離れしたスピードの直球をビシバシ四つ角に決まるコントロールがあるならなんとか勝負になるってレベルだ。こいつでも網走くんには3ラン打たれてるしね。
だがそれはあくまでも直球だけならという話だ。直球縛りがなければあの決勝戦の結果も大きく変わっていただろう。野球選手としての僕の持ち味は両手で全く同じ投球が出来る器用さと運動センスである。変な縛りがなければ網走くんだって、それこそ大人相手でもいい勝負を演じれる自信はあるのだ。
そう、大人相手でも、ね。
「ね、田中弟。あと兄」
「お、おう。どした。壊れたのか?」
「オレっちはこーたのついでかぁ?」
失礼な言葉を吐いてくる田中弟に返礼のデコピンをお見舞いした後、僕は勢いよく完ぺきすぎる今後の目標を口にした。
「僕、ちょっと大人になってくる!」
「「待て待て待て待て」」
決意表明を大きく口にした瞬間、二人掛かりで取り押さえられた。解せぬ。




