第17話 1回戦 対徳島西リトルシニア
本日2話目
大会前にすったもんだ合ったけどそれはそれとして大会は無事に始まった。なんとこの大会始まって初のテレビ中継付きだそうな。
「100%ゴンドーちゃん狙いだけどなぁ」
「西東京リトルシニアの試合だけだろ?」
観客席の人たちの声が耳に入る。まぁ、入ってるテレビ局が北埼玉デッドボールの試合を放映してるローカルテレビだからね。僕にはもう固定ファン層とやらが居るみたいだから、その人たち向けに放映するんだろう。
リトルシニア協会が良く許したなぁと思ったら、挨拶に来たプロデューサー兼カメラマンの人が結構なお金が動いたって話してた。予算って言葉はどこの世界でも付き物で、切っても切れないものなんだね……
初戦の相手は徳島西リトルシニアだ。結構いいピッチャーが居るみたいだけど打線はそれほどって感じであんまり強いってイメージはない。でも油断は禁物だよね。
大事な初戦という事で監督はエース格である3年生のピッチャーを先発に。キャッチャーは同じく3年生の人でこの人はハラキリトルでの先輩だった人だ。でも僕の魔球は受けてくれない。
「コータの惨状知っててアレ受けたいって奴はよぉ。トロ子しか居ねぇって」
「ブーさんは受けてくれてるよ!」
「アレは、その。特殊な訓練を受けた芸人さんだろ……」
いくらなんでもその人を例えに出すなよ、という先輩の視線にぐぬぬと返しておく。まぁあの人というか、魔球芸人って呼ばれてる人たちはちょっと外れ値になるよね。喜んで魔球を受けてるんだから。
さて、先発を先輩に譲ったからベンチを温める……なーんて事もなく、僕は1番センターでの出場だ。なんだか最近、自分が野手で居ることに慣れてきてる自分がいるよ。いや、別に野手が嫌いって訳じゃないんだけどさ。健康に投げれる体なのにマウンドに立ってない自分に違和感があるというか、何やってるんだろうって気持ちになっちゃうんだよねぇ。
なんて考えてる間にカーンと良い音がしてボールがひゅるるーって感じで飛んできた。初球を狙い撃ちされたかぁ。うちのエースさん、立ち上がり激悪なんだよね。いきなりど真ん中にストレート投げたとかじゃないかな。
ま、ホームランじゃなきゃリカバリーは効くけどさ。
背後にダッシュして手を掲げての背面キャッチ! 風が相手に味方してたら危なかったかもね。でも今日の風はそこまでいじわるじゃないから、こういうフライアウトが多くなりそう。
エース先輩は流石にまずいと思ったのか、この大飛球以降はピシャリと相手を抑えてこの回は3者凡退。まぁ打線そこそこって評価の相手にいきなり捕まったら色んな所から見に来てるスカウトさん達の評価がよろしくないことになっちゃうからね。先輩たちも必死だよ。
さて、先輩たちの明日を憂う前に目の前の打席だ。今回はリトルシニア上がってから初の公式戦という事もあり、普段にまして気合を入れないとね。なにせ僕は投げれて打って走れて守れる上に可愛いという5ツールプレイヤーを目指してるんだから。キリッ
「ヨロシクッオナシャース!」
バッターボックスに入る前にペコリとキャッチャーと審判、それにマウンドのピッチャーに頭を下げる。第一印象が良ければぶつかりそうな球はあんまり投げてこなくなるからねぇ。攻めるのは良いけど明らかに無謀なインコース攻めは害悪だよ、害悪。
相手のピッチャーさんは右投げ。相手が有名人の僕だからかちょっとそわそわしてるけど、必死にロージンを触って落ち着こうとしてる。アレ、これチャンスじゃね? と思いながら僕はいつものように構えて投球を待つ。
第一球はあからさまなクソボール! バットを振るまでもなく届かない位置だって分かる外の変化球だった。曲がりは小さかったけどスライダーかな? 初球にストレートが来なかったって事は……2球目は低めに外れるフォーク。ということは次は高めのストレートかにゃぁ。
なんて思ってたら見事にストレートが飛んできたので、ぐにゃあっと体を捻じりギリギリまで引き絞ったバットを――てやー!
グワラガキィン! と良い音を立ててボールはスタンドへ一直線に飛んでいく。落ち着こうと思って自信のある順にボールを投げてたのかな。落ち着く前に叩けたのはラッキーだったね。
ゆっくりとベースを回り、相手投手を観察する。打たれたショックはある、けど。チャンスと思ったけど、予想よりもショックは少なそうかな。これなら一発よりも先輩方に繋げて塁でかく乱した方が良かったかな……?
うーん、と悩みながらホームベースに到達。スコアボードに1点が刻まれるのを眺めながらベンチに戻ると、大量の手が僕を待ち構えていた。以前のセクハラ騒動から、僕にたいする歓迎はハイタッチに変わったんだけど思い切り頭をぱんぱん叩かれとるがな! かなわんでしかし! って言えばいいのかな。こういう場合って。
悪い予感の通り、相手のエースはこの一発で目が覚めたのかそれ以降はピシャリと抑えて3アウト。対する我がチームの先輩は相手の4番に長打を打たれたけどこれ以降はきっちり抑え、試合は投手戦の様相となってきた。
所々単打は出るんだけど後が続かないって感じだね。僕の第2打席は四球で出塁。甘いコースには全然投げてこなくなっちゃった。
まぁ塁に出た以上は後の人たちのためにもサポートに徹さないとね。1塁近くをウロチョロとして相手の注意をひいてみるも、多少は気にしてそうだけどあんまり効果なし。なら普通に盗んじゃおうと相手の投球モーションに合わせて走る――そぶりを見せて1塁に戻る。牽制のモーションはあんまり上手くないみたいだね。
そのまま次のタイミングで2塁を盗むも先輩がゴロった為ホームに戻れず残塁。どっちかのエースが根を上げるまではこんな状況が続きそうだ。
次に試合が動いたのは6回。1点を追いかける徳島西は疲れを見せ始めたエース先輩の4球で塁を埋め、次のバッターが送って1アウト2塁。同店のチャンスで相手は向こうの4番。くぉれはピンチだね。まごうことなきピンチだ。監督も出てきてマウンドに向かったし。うんうん、そうだよねぇ!
つまり僕の出番ってわけだ。えーおほん。ちょっと今のうちに準備運動しとこう。イッチニーイッチニー。
「ピッチャー交代!」
「お、待ってましたぁ」
「山田!」
「なんでやねん!」
センターから大きな声で叫ぶも、マウンドに居る監督には届かないみたいだ。ベンチから出てきたあすみちゃんがこっちにべろべろばーをしてきたので人差し指でズキューンを返しておく。へんだ、あすみちゃんなんかここでぼこぼこに打たれてセンターに飛ばすと良いよ! 全部取っちゃうから!
なおそのまま試合は1-0で終了した。あとの作業はあすみちゃんの豪快なピッチングをセンターから見守る作業になっちゃったよ。僕の今日の成績は4打数2安打1本塁打1四球。3打席目はショートにライナーで飛んじゃったんだよねぇ。残念。
試合が終わっても僕は暇にならない。インタビューに来たプロデューサー兼カメラマンさんにマイクを向けられたので、「きわどい勝負でした。すごくいい投手で立ち上がりの読みが外れてたら負けてたかも」的な玉虫色の回答をしておく。打った相手だからって調子に乗って貶すのは悪い文明だからね!
次の試合は同じ関東勢の茨城中央だ。かなりの強豪で正直、西東京選抜よりも向こうの方が評価は大分上。でも野球に絶対はない。あるのは勝つか、負けるかだけだ。
「よぉし、皆! 明日もがんばろー!」
「あ、権藤さん。明日の先発お願いしますね」
「はーい!」
…………………
「え”!?」




