第16話 卒業、選抜大会へ
本日1話目
「ご、ゴンドー先輩! 俺と付き合ってください!」
「ごめん。付き合えないかな」
「あまねちゃん! 俺、幼稚園の頃から君が、好きだった!」
「ありがと〇〇くん。でも、僕は友達として君を見てたから……ごめんね?」
「ゴンドー! 俺と付き合えよ! 俺ならお前を幸せにしてやれっから!」
「ありがと。でもごめん。僕は自分の幸せは自分で掴むって決めてるから!」
卒業式の日、校舎裏に呼び出された僕を待っていたのは同じ卒業生及び在学生からの告白攻勢だった。どうせ行列が出来るなら実家の喫茶店に行列を作ってほしいなぁ、と思いつつまた一人の告白を断る。その中に何故か諸星くんが混ざっててちょっとびっくりしたよね。顔真っ赤にして何も言わずにどっか行っちゃったけどアレは多分なにか勘違いして並んでたんじゃないかなぁ。サイン色紙持ってたし。チーム練習の時にサインくらい幾らでも書いたげるのに……
「あんたも付き合い良いわね。逃げちゃえばいいのに」
「あすみちゃんだってちゃんと全部受け止めて断ったんでしょ?」
「まぁね。高慢だなんて噂たったら嫌だもの」
おそらく50人ほどの告白を断った後、流石に喋りすぎて喉が痛くなった所にあすみちゃんが差し入れをもってやってきた。お、チ〇リオじゃん。ありがたやありがたや。
こんな事を言ってるあすみちゃんだけど、多分告白された相手には真摯に対応してるんだろうなって思う。これまでにあすみちゃんに振られた人はいっぱい知ってるけど、あすみちゃんを恨んでる人は一人も居なかったからね。
でも、まぁ。終わったなぁ小学生。入学前はもう一回6年も小学生やるなんてって嫌な気持ちでいっぱいだったけど、振り返ってみれば楽しい思い出ばっかりだった気がする。
6年間。ありがとうございました。校舎に向かって頭を下げて、あすみちゃんと一緒に学校を出ると校門前でケーちゃんに諸星くんがイジめられてるという面白そうなイベントが起きていた。絶対に手に持ってるサイン色紙だろうなぁ。もちろん僕も飛び入り参加だ! ちょっとしんみりするよりは、派手に騒いで卒業する方がきっと良いよね!
小学校を卒業して1週間もしない内に全国選抜大会はやってくる。僕たち西東京リトルシニア選抜チームは、全国大会へ参加するために貸切バスにのって大阪へと旅立った。本当は飛行機で行く方が楽なんだけど、野球チームは荷物が多くなっちゃうからね。
ただ、その分バスは結構豪華なもので、椅子はふかふかで広々としていて、更にトイレまで付いてる奴だ! これだとサービスエリアに止まる度に長蛇の列を作らなくて済むから助かるよね!
女子組は優先して最前列に座らされるから、僕の座席は監督のすぐ隣。もう片方の一番前の席にはあすみちゃんとあすみちゃんの相棒、トロ子ちゃんが座ってる。
トロ子ちゃんは勿論あだ名で、本名は能登六子ちゃん。今年に入ってから急遽キャッチャー枠として選抜に呼ばれた子だ。身長は170越えでラグビー選手みたいな体格をしてる正にキャッチャーって女の子で、キャッチャーとしては多分コーちゃんのライバルというかもしかしたらコーちゃんより世間の評価は上かもって子。間違いなく同年代だと5本の指、いいや。3本の指に入るキャッチャーだ。
それだけ有力な選手なのになんで今更呼ばれたのかというと、流石に中学3年生の正捕手の方が上だって評価されてたから。本来なら彼女の出番はケーちゃんコーちゃんと同じく来年になる予定だったんだけど、チーム事情が変わったために呼ばれた形になる。
まぁ端的に言うと僕が投げる時に魔球を受ける係として呼ばれたんだよね。トロ子ちゃん。チームの投手事情はあすみちゃんの見立て通り、やっぱりすごく悪い。このままじゃぁ念願の初優勝なんて夢のまた夢って感じなんだけど、そこに来て急に評判が上がってきた僕を使って見よう。というかテレビ放映入るかもしれないからぜひ権藤あまねちゃんはガンガン使ってほしいって声が上がったとかなかったとか。
大人の事情って奴だけど出番が増える分には僕は大歓迎! なんだけど……
「……怒ってる?」
「おこってないよぉ」
事情が事情だけに被害担当みたいな扱いをされてるトロ子ちゃんには、流石の僕もひじょーに気まずいのです。監督には1試合必ず1回は魔球出ますって言ってるから、それを受ける役目はその時に組むキャッチャーが担う事になる。これを3年生の正捕手にしてしまうのはチーム事情的に良くないって言われたんだよね。
だからって小学生(数日前卒業)を被害担当にするのはどうかと思うんだけどね。これが芸人さんなら僕もなにも言わないけど!
「いやぁ。私もでばんふえるからぁ。うれしいかなぁ」
「そ、そう? 無理やりやらされてるならすぐ僕に言ってね? 無理やり渡辺先輩(3年捕手)に取らせるから」
「勝手に俺を使うな!」
バスの中ではほどほどに騒いで、僕たちは大阪市内へ。到着した日はそのままホテルで一泊し、あくる朝に僕たちは会場となる舞々ベースボールパークへやってきた。ふへー、おっきな球場。流石はリトルシニアの全国大会だね!
受付とか挨拶とかで監督とキャプテンが忙しくしてるから、残った僕らは大人しくその場で待機! なーんてやる訳なく、近くの他の選抜チームの選手たちに声をかけていく。なにせここに居るのは全国津々浦々の上澄み野球少年たちだ。リトルの頃からの知り合いも居るし挨拶をかわすくらいはやらなきゃね!
「お、おお! ゴンドーだ! 権藤あまね!」
「チワー、ゴンドーでぇっす!」
「ゴンドーちゃんお久しぶり。覚えてる? 2年前に試合したんだけど」
「あー。愛媛の〇〇リトルですっけ? 覚えてますよ! 僕ベンチだったけど!」
どんなスポーツの世界もそうだと思うけど、上に行けば行くほど人の輪は狭くなっていくものだ。ここに集まってる数百人は全国に何万人も居るリトルシニアの野球少年たちの頂点であり、恐らくこれから高校、大学、社会人、あるいはプロの世界に行った後も付き合いが続く可能性がある人たちだ。愛想よくしといて向こうにいい印象をもって貰えれば今後に続く財産になるかもしれないしね!
そうやってはじめましての相手には初めましてを、お久しぶりの相手にはお久しぶりをやっていると、僕の周りにはどんどん人が集まってくる。やや、僕も有名人になったなぁとか思っていたのは最初の内で、徐々に身動きできないほどの人の海に飲み込まれてしまった。
「あまねちが飲み込まれたぞ!」
「ええい野郎ども、いい加減そこをどかんかい!」
外部から先輩方やあすみちゃんの声が聞こえるが状況は改善しない。あ、あの。皆さんちょっとお顔が赤くなってるよ。風邪かな? あとちょっと、もう少し、顔を遠ざけて頂けると嬉しいんだけど……?
ファンの波に飲まれたアイドルの気分を味わっていると、グイっと誰かが僕の腕を握って引っ張り始めた。あ、こらお触りは駄目! とネタを言う間もなく引きずられていると、僕の腕を引っ張った誰かは瞬く間に人垣から僕を引きずり出してくれた。数十人の圧力を苦にもせず、だ。
えぇ……力強い、強すぎない? 思わずそう感想を漏らしそうになるも、腕をつかんでいる人の顔を見たらもう納得するしかない。
「網走くん……!」
「お久しやな。ゴンドーさん。会いたかったで」
暫定同学年最強バッターの網走くん。去年見た時よりも縦にも横にも大きくなった彼は、前よりも大人びた顔立ちで僕に視線を向ける。そしてそのままズイズイと僕の方へ近寄ってくる。あの、腕を放してくれればうれしいんだけどというか近い! 近すぎるんだけど!
圧力に負けて一歩下がれば一歩といった具合に網走くんは距離を詰めてきて、気づけば僕は壁を背にすることになった。
ドンッ! と僕の背後の壁に網走くんが手をついて、頭一個大きい網走君の顔がすぐ目の前に居る。こいつ意外と顔立ちが良いな、じゃなくて。え、なんで僕こんなに詰められてるんだろ? やっぱり一年前に僕に負けたことをまだ根に持ってるのかな?
「アレは俺の負けやった。それは認める」
「あ、それは認めるんだ。そうだよね、僕の勝ちだもん」
意外と素直だった! と喜べばいいのか悪いのか。じゃあなんで僕に今こんな超至近距離で凄んでるんだろ。目の前にいる少年が何をしたいのか訝しんでいると、網走くんは顔を少しだけ赤くしながら、すっと視線を逸らした。
「今回は、俺が勝つ。それを言いたかったんや」
「……ああ、宣戦布告? オッケー。じゃあ今回も僕がぼこぼこにしたげる」
視線を逸らしながら口にした網走君の言葉に、僕は笑ってそう返答した。若いなぁ、青いなぁ、そして嬉しいなぁ! こんなに真っすぐに勝負を求められるなんて久しぶりだよ! それこそあすみちゃんをアフロにした時以来じゃないかな?
あすみちゃんはあれ以来、絶対に僕が投げる方だと勝負に乗ってくれなくなったからなぁ。バッターからの純粋な敵意ってのは、身が引き締まるんだよねぇ。
この最強バッターをどう料理するか、今から楽しみだとほくそ笑んでいると、何故か網走君は壁に手を着いたまま動かず、視線だけを周囲にそわそわと這わせている。アレ? まだ何か用があるのかなと首をかしげていると。
「とととと所で、ゴンドーさん……君、かかか彼氏おる?」
「んー、野球が恋人かな!」
顔を真っ赤にしながらそう口にする網走君に、僕は笑ってそう返答した。いやほんと若いなぁ、青いなぁ。前世の自分がこのくらいの頃ってこんなんだったかなぁ。
チームメイトやうちのリトルシニアの先輩方、それにあすみちゃんに無理やり引っ剥がされる網走君を見てると、ちょっと黄昏てしまうよ。これが感傷って奴なんだろうね!




