番外編 国際野球ワールドカップ 5
酷い事が起きている。今日の試合を見て、私は思わずそう心の中で呟いた。
今日の先発は田中のケーちゃん。我が幼馴染カルテットで恐らくぶっちぎりの才能マンであり、純粋な投手としての力量はもうプロの最上位クラスだと豪語できる怪物だ。中学まで所属していたハラキリトルとハラキリトルシニアは選手の基礎能力育成に重きを置くクラブチームで、ここに所属している選手の本番は高校と言われるくらいに育成に振り切ったチームだった。
まぁ、そのチームでケーちゃんは何回か全国制覇も成し遂げてるんだけども、それは置いといてそういうチームで育ったためにケーちゃんは高校で一気に実力を跳ね上げたんだ。
高1の時はMAX140ちょいだった球速が現在は最速158km/hにまで上がり、かといってコントロールが悪くなったわけでもなくコースの投げ分けはコマンドどころかビッタビタ。ミットを構えた所にストレートだろうと変化球だろうと綺麗に納まるコントロールで、なおかつ直球は魔球と称されるほどにノビる。変化球も切れ味抜群で球種も多いし、更にケーちゃんは下手な打者よりも打てる。前回の甲子園で打撃成績の良かった10傑にも入るくらいに打てる。
グレードプロ野球の育成選手をリアルに持ってきたらこうかなって感じのスーパー野球選手がケーちゃんだ。
そしてそんなケーちゃんにはもう一つ、投手として有利な特徴がある。ケーちゃんの手は身長に比してかなり大きく、指も長いんだ。それこそ国際基準の大きな野球ボールでも余裕をもって握り込めるくらいには。このためかは分からないけど、ケーちゃんは国際大会などで日本人選手が苦しむボールの適性問題に悩んだ事が無い。どんなボールでも平均以上の投球をこなすことが出来るんだね。
そして、それは今大会でも変わらない。
「お、また三振」
「今日14回目だな」
対戦相手のオランダも決して弱いチームじゃない。むしろ、総合的に見るなら今回の日本代表よりもかなり戦力をそろえてきた印象があるんだけどね。たった一人のエースが繰り広げる虐殺劇の被害者になってしまったせいで、8回が終わるというのに一度もランナーを出すことが出来ない。最初の内は絶対に打ってやると気勢を上げていた相手ベンチも、もう全員青い顔でケーちゃんの投球を見ている始末だ。
せめてそこは声を上げるとかでバッターを応援してやれよとも思うんだけど、まぁ、しょうがないよね。バットにすら触れないんじゃ士気なんて上がりようもないか。
「なんかカッコいいあだ名ついてるー!」
余りにも凄惨な試合の次の日。ネットニュースでは早速オランダ戦でのケーちゃんの投球が話題を呼び、ケーちゃんは『マウンドの殺し屋』『ミスターパーフェクト』なんてあだ名で称賛されていた。どういうことだ! 一昨日打者三人をバッタバッタとなぎ倒した私の活躍は全部お色気に取られたというのに、ちょっと国際試合で完全試合を達成した程度でこんなスター扱い!
私だって昨日は5打席3本塁打の大活躍だったのに話題にも上らないし、話題に上っても今日はセクシーが見れなかっただよ? 泣けてくるよね、ほんと。
「へぇ、そうっスか」
「そしてこの無頓着っぷり! くぅー、私もこんな風なカッチョ良いあだ名が欲しいなぁ! セクシー方面じゃなくて!」
「いやぁ。あまねきは可愛いあだ名が似合うと思うっスよ?」
「かーっ! 流石はケーちゃん、彼女持ちの男は言う事が違うね! うちの山田一族の男どもにも見習ってほしいよ! ね、コーちゃん」
「あすみの親父さんとルイさんしか知らんが、二人とも紳士的な人柄だと思うぞ」
確かに紳士かもしれないけどね。紳士って言葉の上に女心が分からないって枕詞がつくんだよ、あの二人は! ブライアン伯父さんはせっかく外国に出てきた可愛い姪っ子に身動きも取れないブラック勤務を強いるとんでもない人だし、ルイは女の子に向かって凄い筋肉の太さだってキャッキャ笑いながら言ってくる畜生なんだよ。
「ああ。大変みたいだな、今回も」
「大変だよ……なんで試合が終わった後に他の球場で他のチームの試合解説してるんだろうね、私。ひと月前の自分をぶん殴りたい」
「まぁ、その。頑張れ。無理はするなよ?」
本当に、心の底から心配をしてくれているコーちゃんの気遣いが身に染みる。流石は私の女房役だね! 困った時に寄り添ってくれるのはコーちゃんだけだよ。
そんなこんなでコーちゃんの優しさに励まされながらもお仕事をこなしてまた次の日。今度の相手はアンジーのいるアメリカ代表チームだ。今大会のアメリカ代表はどうもイマイチパッとしないというか、アメリカもシーズン終盤という事でプロの選手があんまり来てないみたいだからね。アンジーが打ちまくってるのに一昨日はプエルトリコ代表に負けてるし、昨日だって格下のギリシャに2点取られてるからね。
それでもやっぱり強敵には変わりがないけど、アンジーさえなんとかなれば日本代表も勝目は十分ある。アンジーさえうまく切り抜けられれば。せめて単発4連続くらいならまぁ、なんとか行けるかもしれない。
「まさか国際大会までスチュアートとやり合う羽目になるとはなぁ。田中弟、あいつなんか弱点ない? もう高校でやらねぇし教えてくれよ」
「ないな。アンジーに勝ちたきゃアイツの反応できない球を投げるか魔球でも投げろ」
「権藤先発は試合が壊れるわな。っしゃあねぇ、気合入れるか」
「ちょっマテぃ」
今日は先発の三くんが相棒になるコーちゃんと小粋な会話を交わしている。それ自体は良いんだけど、なんで最後のオチに私の話をねじ込んだのかな? そんな雑な前振りだと私もね、絡みに行きにくいんだよ?
なんて軽快なトークをしている間に試合は始まった。三くんへの追及は一旦休止だね。首を洗って待っててもらうとして、今日も今日とて一番センターはこの私だ! という事で打席に入ると、相手の大柄なピッチャーは『Oh~AMACHAN!』と顔をほころばせ、その後に私の胸元を見てちょっと残念そうな顔で口をへの字に曲げた。
絶対打つ。
第一球は随分と甘い直球だ。球威は凄いね、流石はアメリカ人。でも、私たちの世代の甲子園にはこれくらいの球威の子は何人も居たし、一つ上の久留米さんっていう球威の怪物をよぉく知ってる身としてはね。絶好球にしか感じないよ?
「GUWARA!」
極限まで捻じった私の身体はバネの要領でバットに力を加え、全力で振り抜いたボールを文字通りぶっ飛ばす。ガッキィィィンと高らかに鳴り響くバットの音を置き去りにボールは空を飛んでいき、場外へと消えていった。
打たれた相手の投手のポカーンとした顔を横目に、お散歩タイムの始まりだ!
『ナイスバッティン。相変わらず変なバッティングフォームだね』
『どやかましいよ! そっちこそ相変わらず打ちまくってるじゃん。でも、今日の三くんは気合入ってる方の三くんだから簡単には打てないよ!』
『え、ほんと!? やった! ランナーが居る時のミッツと同じって事だよね! ちょ~楽しみ!』
今日はサードに入っているアンジーとすれ違いざまに言葉を交わす。しまったな、揺さぶり戦術のつもりが逆効果になったかもしれない。
ま、まぁ三くんはアンジーとの試合経験が日本一多いピッチャーだし、アンジーの事をよく知るコーちゃんがバッテリーを組んでるんだ。多分、きっとなんとかしてくれるはず! 信じてるよ、コーちゃん、三くん!
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