番外編 国際野球ワールドカップ 2
「えー、日本ナショナルチームの監督を務めます獅子王虎之助です。今大会は長く続いた野球ワールドカップ最後の大会という事で~」
ライオンなのかトラなのか良く分からない名前の初老のおじさんが舞台の上に立って挨拶を言うと、観客席から「レオー!」だとか「トラー!」だとか声援が投げ込まれてくる。監督は元プロ野球選手らしいんだけど私が生まれた頃くらいに現役を退いた人だからあんまり知らないんだよね。観客席の反応を見るに結構人気者だったみたいだね。
今回の野球ワールドカップは10月に開催する関係上、流石にペナントレースと日本シリーズがある現役プロを呼ぶわけにはいかないため社会人が主軸のチーム編成になっている。あ、秋リーグ中だから大学生もだね。
まぁこれは当たり前と言えば当たり前で、社会人の一線級はほぼプロ並みの選手が結構いるんだ。社会人からプロ入りする場合は即戦力として期待されるのは年齢だけじゃなく、そんなプロ並みの選手たちの中から特に抜きんでた人って事だからね。そりゃそれくらいは出来るだろって期待されるんだよ。
つまり今回呼ばれた社会人の選手たちはそんなレベルの高い社会人野球選手から、国際大会のために更に選ばれた粒ぞろいの面々。それこそドラフト候補になっててもおかしくない人たちってことだね。
そんな中に私たち高校生が紛れ込んでるわけだから、当然高校生組はレベルの高い社会人たちに気圧され――るなんて事もなく。
「ぐわら!」
ガッキィン! と大きな音を立てて私が打ったボールが青空へと消えていく。この3年間、同世代の化け物たちはプロ? なにそれ美味しいの? と冗談抜きで言えそうなレベルに成長してるけど、成長速度なら私も負けたもんじゃない。ポイントを使い、太らないように細心の注意を払ってつけた筋肉は私の投打にパゥワーを与えてくれた。
パワーじゃない。パゥワーだ。
私にホームランを打たれた社会人の先輩投手ががっくりと項垂れているが、まぁしょうがないよね。2ストライクだからって安易に球を置きに行っちゃったんだから。外に外してくるなって分かってたから狙い撃つのは簡単でしたよ、ふんすふんす。
あ、この場合はバッテリーのミスか。まぁどちらでも良いんだけど、これで打撃成績だと私が二番かな?
「おー、流石は権藤。プロ含めて日本最高峰のセンターと呼ばれるだけはあるなぁ」
「ありがとうございます監督! でも僕、じゃなかった。私は投手ですからね???」
あとその称号はメジャーで活躍中のレジェンドと比べられるって事なんで、その。結構恐れ多いんですが。
そして私が監督と無駄話をして仲良くなっている頃、視線の先のバッターボックスでは僕以上の成績の化け物バッターが社会人の先輩をめっためたのぎったぎたに打ちのめしていた。
内角高め、ほとんどボールってくらいきわどいコースに飛んできた球を体をギリギリまで後ろに倒して、腰の回転だけでスタンドに持っていくとか言う離れ業をしている彼は網走極くん。私が知る限りこと打撃の才能に関しては世界で3本の指に入る子だ。
「権藤と網走と田中兄弟に雑賀三男かぁ。どいつも例年なら全球団競合の怪物が今年は5人も一気にプロ入りするんだなぁ」
監督の小さなつぶやきに、周囲で網走くんの蹂躙を眺めていた社会人の先輩方がうんうんと頷いていた。同年代でバチバチにやりあった身としては他にも何名か名前を上げるべき相手は居るんだけど、まぁ目立つのはどうしても聖ザと浪速通天閣大付属になっちゃうのはね、やっぱりしょうがない事なんだけども。
「そぉい!」
ズバーン!
そんな事を考えている間に投手が変わり、ケーちゃんがマウンドに立った。そして四隅に投げ込まれる無慈悲な156kmの正確無比なストレートに、バッタバッタと社会人の精鋭たちが撫で切られていく。全球ストレートだ。ちょっと緩急をつけただけのストレートで、ケーちゃんはプロ並みと評価されるバッターたちに掠らせもさせていない。
田中ケー太のストレートは打てない。どれだけそうだと分かっていてもバットがボールの下を通ってしまう。ケーちゃんに打ち取られたプロ注目のバッターたちが口々にそう言い放つ魔球ストレートとでも呼ぶべきそれに対応するだけでも困難なのに、ケーちゃんはそれに超高レベルな変化球を織り交ぜる事が出来る。結果、彼を打つ事は並のバッターでは困難ではなく不可能になる。
故にケーちゃんは高校3年の夏、甲子園球場で1試合68球での完全試合を達成した。打とうがバントしようが全部フライになっちゃうからだ。最終打席、相手のバッターにバントすらも許さず打ち上げられたフライを彼が取った時の静まり返った甲子園球場は今でも思い返せるくらいの衝撃だったね。
そしてそのケーちゃんをライバル視し、そして高校3年間実際にライバルとして扱われていた三くん。彼はなんというか、表現に困るんだよね。速球も良い、制球も良い、変化球も良いしスタミナもある。間違いなく世代トップレベルの投手なんだけどね。今、ケーちゃんの代わりにマウンドに立った三くんは社会人の先輩方を抑えてはいるけど、たまに良い当たりも打たれたりしている。
ただ、ね。三くんの場合、本当にすごいのはギアのオンオフなんだよね。今の平常運転は世代トップくらいのレベルなんだけど、対戦相手がケーちゃんだったりランナーを背負ったりするといきなりギアがググーンと入って、別人みたいな投手に変わっちゃうんだ。瞬間的な出力だともしかしたらケーちゃんを超えるんじゃないかなってレベル。だから浪速通天閣大付属相手の時は三くんがギアを入れる前に私かアンジーがホームランで打点を稼ぐ必要があった。ランナー背負った状態の三くん相手だとアンジーでも打てるか分からないんだよね。
ある種の劇場型って言える投手かもしれないね。球速は早いけど間違っても抑えにしちゃいけないタイプだね。あ、失点しづらいって意味だとむしろ抑えに向いてるのかな?
「なるほど。甲子園は見てたが、やっぱり雑賀はそういうタイプか」
「今年のビッグ3は調べたけど、雑賀くんは甲子園の実況でしか知らんかったなぁ。ゴンドーちゃんも結構見てるんだね。じゃあ、君の女房役はどういう感じの子なんだい」
「僕の魔球を取れてケーちゃんの全力投球も余裕で熟せて僕とアンジーの次に打つ捕手ですよ。欲しくない球団あるんですか?」
「そりゃ欲しいわ」
僕、じゃなかった。私の言葉を聞いて獅子王監督が納得がいったという風に頷いた。あれ、おかしいな。私たちを強固に招集して欲しいって言ってたのは確か獅子王監督だったと思うんだけどコーちゃんの事をあんまり知らないのかな?
疑問に思ったので尋ねてみると、どうも本来獅子王監督は私を含めた投手3人に高校3年間でレジェンド級の打撃成績を残した網走くんを呼ぶつもりだったんだけど、いざ私が招集に応じた段階で魔球を取れる捕手が捕まらなかったらしい。本当はブーさんを呼びたかったけど、流石にこんな長期間拘束されるのは受けられないって断られたんだって。
まぁ、ブーさんも人気お笑い芸人さんだからね。生き馬の目を抜くような芸能界で生き残るために頑張ってるのに、強化合宿とかも参加しないといけないナショナルチーム入りは流石に難しいでしょ。
そしてブーさんが捕まらないとなると、今度は社会人以外も候補を広げてようやく二人。コーちゃんとトロ子ちゃんになるんだけど、その二人なら打率を考えてコーちゃんになり、コーちゃんもナショナルチーム入りになったわけだ。
「まぁ、俺がお前や兄貴のついでに呼ばれるのなんていつもの事だからな。だが、呼ばれた以上は結果で見返してやるつもりだ」
そう自嘲気味に笑ってコーちゃんが肩をすくめる。私としてはコーちゃん以上のキャッチャーってそれこそプロにしか居ないと思うんだけど、コーちゃんは比較対象がケーちゃんだからちょっと自分に自信がないんだよね。私たちが活躍できるのはコーちゃんって凄いキャッチャーが居るからなんだけどなぁ。
そんな感じで強化合宿で先輩方をいぢめたり、ちょっとセンチメンタルな気持ちになったりをしていると時間はあっという間に過ぎていき、9月も終盤に突入。
予選大会が開催される中国に入国した私たち日本ナショナルチームは、予想外の事態に直面していた。
『欢迎回家 権藤老師(おかえりなさい 権藤先生)』
『欢迎 雨音小姐姐(歓迎 あまね姐さん)』
降り立った空港を取り囲む群衆は、なぜか口々に僕の名前を叫びながらプラカードを振り回している。おっかしいな。僕、オリンピック以外で中国に来た事がないんだけどなんでこんなに歓迎されてるんだろ。
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