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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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143/158

第143話 甲子園決勝 浪速通天閣大付属⑥

 僕の劇的過ぎる同点ホームランから数分後。


 カッキィンと綺麗な快音を響かせて、アンジーの打った白球がスタンドに飛び込んだ。ポカーンとしてる雑賀さんを尻目に、打てた打てたとスキップしながらダイヤモンドを歩いているアンジーに目を向ける。


 やっぱりアレチートだ。チーターだよ絶対。僕が鼻血出すほど必死になって見極めたランダムストレートをルンルン笑顔で完ぺきに攻略しちゃってるじゃん。動体視力に関しては世界一を名乗っても良いのではって思ってたけど、明らかにアンジーは僕より目が良いよね。


 いや、目だけじゃなくて多分スイングスピードもかな。僕より大柄だからってのもあるかもしれないけど、アンジーのスイングスピードはバカ速いからね。僕より後に出したバットが僕より先にボールに当たるくらいって言えば凄さが分かるかな?


 体のバネを活かしてパワーを乗せるねじ巻き打法で補ってるけど、まだまだ僕はノーパゥワーだからね。甲子園終わったらポイントも結構溜まってるだろうし、筋トレしよ。


 アンジーのホームランに続け、と気合を入れて打席に立った久留米さんはきっちりサードゴロに仕留められたためこの回の攻撃は僕とアンジーによるホームラン攻勢の2点で終了。仕留められた久留米さんは前の回に網走くんに打たれてしょんぼりしてた姿とは打って変わって、打撃のうっ憤を晴らすように8・9・1番と3連続で三振を取り8回裏は終了した。


 負けん気の強い(みっつ)くんが手を出さなかったのはちょっと驚いたね。まぁ、雑賀さんもそろそろ球数的に苦しくなってきたし、控えピッチャーの(みっつ)くんが手のしびれを気にするのは妥当っちゃ妥当かな?


 そんな雑賀さんは9回の表も聖ザの7・8・9番を連続で仕留めて終了。トロ子ちゃんの扇風機っぷりで場内に清涼な風が吹いた所で攻守交替だ。


 ついにこの時が、やってきたね。



「久留米、サードに入れ。サードの能登は細井と交代だ。能登、お前のあの盗塁が無ければ勝負は決まってたかもしれない。よくやってくれた、ベンチでゆっくり休んでくれ。細井は権藤の代わりにショートだ。ファーストの田中弟、お前は森とポジションを交代だ。権藤の球を取れ」


「「「はい!」」」



 9回に入った瞬間、星監督は矢継ぎ早にそう指示を出した。細井さんは僕がセンターに居る時にショートを守っている先輩で、バッティングはそれほどでもない。その細井さんを出してトロ子ちゃんをベンチに戻すって事は打力を落としてでもここで決めるって強い意志を感じる。星監督も勝負に出たね。


 というか誰も僕がマウンドに上がるって事に何も言わない。あ、あの。僕がマウンドに上がるって事は魔球が出るって事で高野連からお叱りが100%中の100%来るって事だけど大丈夫なのかな?



「このチームでお前の魔球禁止令に納得してる奴ぁ一人も居ねーよ。対外試合禁止でもなんでも持ってこいや。こっちは世論が味方だからな!」


「星監督!!」


「なによりこんな美味しい場面で禁止令を破ってお前を出したんなら向こう10年は伝説の監督って言われるだろうからな。その錦の旗がありゃプロ野球の監督にもなりやすいし」


「星監督!!?」



 ちょっと感動したのに上げて落とすの止めてほしいんだけども。いや、まぁ、この場面で僕に全賭けしてくれるのは嬉しいしありがたいんだけどね?


 まぁともあれ、こうして舞台は整ったわけだ。


 なら後は、仕事をするだけだね。






 守備変更のアナウンスが流れた瞬間、満員の球場を怒号のような歓声が埋め尽くす。右を見ても左を見ても僕のグッズを振り回す観客たちが、一斉に「ま・きゅ・う!」のコールを始めたからだ。


 全ての歓声と全ての期待が今、僕の身長173cmの身体に降り注いでいる。ベンチから僕が出るだけで声が湧き上がり、テクテクと歩くだけで球場内のボルテージが上がっていく。ここが一番上じゃない。まだ、まだ先があると観客の期待が膨れ上がっていく。


 そしてマウンドの上に僕が立った瞬間、魔球コールは良く分からない怒号のような歓声にとってかわった。ただただ声を張り上げるだけの歓声が、マウンドの上の僕に降りかかってくる。


 ああ。


 ああ…………!


 僕はこれから甲子園の舞台で、決勝戦の9回裏。1点勝ち越した場面でマウンドに立つのだ。ここで抑えられれば栄冠を手にし、ここで抑えられなければ敗北の砂を両手に掴むことになる。シンプルだ。とてもシンプルで、残酷な球児たちの夢の一瞬。その一番濃い部分を、僕は味わっている。



【決勝戦! 9回裏! 野球のルールも完ぺきな女神は分かっています! この場面グレプロで履修しましたよ! 今、権藤あまねさんはとってもすごくてすごい場面を任されていますね!?】


――女神様



 灰色の世界に引きずり込まれて、女神様が興奮した様子で僕に話しかけてくる。この方との付き合いも16年目となると、まぁ色々分かってきたこともある。多分この方グレプロやるまであんまり野球ってものを分かってなかったとか、その辺だ。


 そんな女神様がなんで僕の前世の俺くんを引っ張ってきて僕を誕生させたのかとか色々謎があるんだけど、多分聞いても聞かなくてもあんまり変わんないんだろうな。この方と話していれば分かる。多分、その時出来るからやったくらいのノリで転生させたんだろうし、魔球に拘ってるのも流行りに乗ったとか好きな方が好きだったとかそういったものなんだろう。最初の頃はただ魔球をガチャれれば良いって感じで結構事務的だったしね。


 そんな女神様が今では、僕の行う投球に一喜一憂してくれたり、自分の魔球の拙さを恥じらったり、僕の投球を期待してみてくれたりしている。ちゃんと野球を好きになってきてくれている。それが僕には、堪らなく嬉しい。



――女神様。チケットを使わせてください


【かしこまりですよ! 女神は女神は今から待ちきれません! それで、どの魔球をお望みですか!? 女神のオススメはこういう派手な場面にはサンダーイナズマボールが良いかなーでも魔球ホムンクルスも捨てがたいかなーって思ったり思ってなかったりしていますが!】


――それなんですけど……


――女神様が水鳥先生に見せたい、最高の魔球をお願いします



 だから、僕も僕で、彼女に全てを任せたい。僕に新しい人生をくれた女神様に、恩を返すのは今だろうから。灰色の世界から戻ってくる。バッターボックスにマジかよって顔をした(ふたつ)さんが入ってきたね。打席での対決はお久しぶりですね。



「久しぶりの投球だが、イケるか?」


「もち。コーちゃん」


「うん?」


「魔球になると思うから、逸らさないでね?」


「俺がお前の球を逸らしたことあったか?」


「イーファスナックル……あ、あれはトロ子ちゃんか。そういやコーちゃんは子供の時から僕の球、全部受け止めてくれてたよね!」


「オリンピック決勝でアレ投げられてたら、まぁ、俺も危なかったかもしれんが。ヤバそうなら体で止めるさ」



 マウンドの上でコーちゃんとサイン交換だ。といっても僕の場合球種がバカみたいに多くて幾つかのパターンを事前に決めているから、どれで投げるかの確認だけだ。そしてちょっとした会話で思い出す。そういえばコーちゃんだけは、僕の魔球も含めて全部止めてくれてるんだよね。僕の一番最初の相棒は最高の相棒だった……って事!?(トゥンク)


 そんな事を言ったら「バカ言ってんじゃねーよ」と恥ずかしそうにコーちゃんは顔を逸らした。ううん、トロ子ちゃんと違ってからかい甲斐のある子だ。お姉ちゃんとしてはコーちゃんが変な女に捕まってイジメられないか心配だよ……!


 コーちゃんが戻った後、主審が大きな声で「プレイ!」と叫ぶ。会場内の熱気がぐんぐんと上がっていくのを感じながら、僕は白球を指で弾いて、パシッと右手で取った。


 仕事の時間だ!



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