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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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第140話 甲子園決勝 浪速通天閣大付属③

 さて、試合は膠着したまま4回裏。再び久留米さんと網走くんの戦いがやってきた。



「網走ぃ! キサンにだけは絶対に打たせん! 絶対にだ!」


「いーや。ここで俺の勝ち越しにしたりますわ」



 前の打席で完ぺきに直球を捉えられた久留米さんは今度こそ、という思いが強いのだろう。口では気炎を吐いているけど、森さんのサイン通りに直球を散らして網走くんの打ち気を逸らそうとしている。ただ、そこは流石の網走くん。多少の影響はあったもののバットを凹ませながらボールを外野に運び、2ベースヒットを放った。


 うん。この打席は久留米さんの勝ちだね。ヒットを打たれたって意味じゃなく、この後に続く打者が久留米さんのボールを打てない以上は点が入らないんだ。


 同じことはアンジーにも言えて、前後を挟むケーちゃんと久留米さんは間違いなく全国トップレベルのバッターなのに雑賀一さんのランダムストレートを攻略できないから折角第二打席でアンジーがヒットを打っても点に繋げることが出来なかった。


 僕を1番に置く打線は出塁率の高さを考えてもひじょーに強力なんだけど、今日に関しては完全に裏目に出ちゃってる形だね。僕が3番に居てアンジーが4番だったら、もっと得点チャンスはあったかもしれない。まぁ、たらればだけどね。


 とはいえやられっぱなしは女が廃るからね。トロ子ちゃんと一緒に次の打席で仕掛けていこうと思う。



「なんて言ってたら来たよ機会が」


「おー。今度は、敬遠だろうなー」



 5回表。2アウトでバッターは9番のトロ子ちゃんだ。そのままトロ子ちゃんをアウトにすればチェンジだろって考えはね。甘い。とってもあまあまだよ。そうなると6回表で高確率で僕が塁に居る状態でランダムストレートに合わせてきてるアンジーに回ってくる事になるからね。実際に二打席目は長打を打ってるから、三打席目がスタンドインになる確率は高い筈だ。


 アンジーは僕と違ってねじ巻き打法に頼らなくてもスタンドに運べるパワーと馬鹿みたいに正確で速いスイングスピードがあるからね。よしんばスタンドに運ばれなくてもヒットになったら僕はほぼ帰ってくるだろうから同点になっちゃうわけだ。


 そうなってくると、僕はこの回で仕留めておいてアンジーとはランナーなしで勝負したいって思うじゃん? 僕ならそうするからね。だから、そこをトロ子ちゃんは狙ってる。



「お前ら、次の打席やらかす気だろ?」


「うわ。どしたんですか急に」


「表情に出過ぎだよお前は。もっと自然体にしねーと相手に筒抜けだぞ」



 どーやってこのワンチャンスを決めるかを考えてると、急に星監督が話しかけてきた。監督は打席に向かったトロ子ちゃんと僕を見てピーンと来たらしい。あるよね、たまにおニューなタイプみたいなピキキーンって感覚。それが来たんだって。


 さて、打席の方では予想通り、トロ子ちゃんが出塁させられるようだ。これあすみちゃんを舐めてるというよりは危機管理の話だからね。先頭にトロ子ちゃんが居るのと僕が居るのとじゃワンヒットの危険性が段違いだから、少しでも点が入る可能性を小さくするための方策みたいなもんだ。


 まぁ、トロ子ちゃんの足が舐められてるのはその通りなんだけどね。だからそこを突かせてもらうんだけど。



「オネシャシャーッス!」



 球審と相手キャッチャーの多田野さんに頭を下げて打席に入る。さて、星監督の助言に従うと最初は絶対に打ってやるって感じで打席に入るっと。もちろん打法はねじ巻き打法だ。こうすると向こうは僕が一か八かを狙ってきてると錯覚する。


 第一球は外に外れるって分かってる変化球。もちろんこれはバットを振らず、僕は同じくやる気満々って感じで雑賀一さんを見る。こうするとバッテリーは思ってくるはずだ。僕がここまでやる気満々なのは、ランダムストレートをどうにかする何かがあるんじゃないかと。もしそうじゃなくても僕はここまで打ち損じと野手真正面以外はヒットにしてる超高打率打者だ。万が一にも痛打を喰らって2ランなんてされたら目も当てられない。


 そうすると、頭の中で敬遠って言葉がちらついてくる。次のあすみちゃんで勝負するつもりなんだから、ここでヒットを打たれようが四球で塁に出そうが同じことだもんね。


 そしてそうなると、次に来る球は外に大きく外れたボール球。もちろんこれはランダムストレートじゃない、普通のボールだ。万が一にもこんなタイミングで後逸なんかしちゃったらタダでトロ子ちゃんが2塁に行くことになる。そうなると僕のワンヒットの重みがひじょーに重くなるからね。そんな可能性はそうそう出すべきじゃない。


 僕はそのボール球にも手を出さなかった。ストライクゾーン以外は興味ありませんよって顔で白けた表情を浮かべた後、雑賀さんに向き直ってお目目から炎を吹き上がらせてこいよ! かかってこいよ! と視線で語り掛ける。ここまでやれば次の球はもうほぼほぼ間違いない。敬遠が来る。


 事実、投球モーションに雑賀さんが入った段階で多田野さんは右に一歩ズレて立ち上がった。敬遠だ。あとであーだこーだ言われようとここは僕を飛ばしてあすみちゃんで勝負を仕掛けるって覚悟が固まったんだろうね。うん、勝負に徹するその姿勢はお見事と思うけども。


 我らが鬼畜外道師匠の頭脳は、ここまでまるっとお見通しなんだよね!


 キャッチャーが立ち上がった瞬間、トロ子ちゃんが2塁に向かって駆け始める。足の遅いトロ子ちゃんの盗塁に、バッテリーは一切警戒を払っていなかった。僕との戦いに意識を取られ過ぎてたってのもあるかもしれない。敬遠球はキャッチボールくらいの速度で投げられたから、いくら鈍足のトロ子ちゃんでも盗塁に成功する可能性が高いだろう。その事を瞬時に悟ったセカンドとショートの雑賀二さんが慌てたように二塁へと駆け出すが、それも含めて鬼畜外道師匠はまるっとお見通しだ!



「ぐわら!」



 2球続けて外に外れる球を見逃したから、僕がボール球を打つ気がないって思っちゃったよね? 敬遠にしては中途半端な外れ方の球は、身長165cmの頃の僕なら手が届かなかったかもしれない。けれど、身長173cmに伸びた今の僕のリーチなら、バットの先が届くんだよ!


 思い切り踏み込み、緩いただの棒球をひっ叩く。先っぽのせいでパワーは乗り切らないけど、勢いを付ければ内野の頭を越えるくらいは可能。更に、ショートもセカンドも二塁のカバーに走っていて外野と内野の間は通常よりも広がってる!


 カキィン! といつもよりも控えめな金属音が響き、打球が空を舞う。セカンドの定位置を越えた辺りでグラウンドを跳ねたボールはそのままセンターとライトの間を転がっていく。そっちに行けばいいやって思ったけど、思った以上に良い所に飛んだねぇ!


 すでに3塁に迫っていたトロ子ちゃんがそのままホームへと突っ込む。僕ももちろん2塁へ。最悪僕が囮になってる間にトロ子ちゃんにホームを落としてもらおうと思ったけど、そんなひと手間も要らなさそうだね!


 僕が2塁へ到達する頃に、セカンドがライトからのボールを受け取りホームを見て、そして2塁の僕を見た。ちょうどそのタイミングでトロ子ちゃんがホームベースを踏んでいたから、僕が走らないかを警戒したんだろう。ちゃーんと2塁ベースの上でVサインしてるからタッチしに来てもいいですよ? ふんすふんす。


 そしてトロ子ちゃんのホームインの瞬間、球場を怒号のような歓声が埋め尽くす。敬遠球を打っての同点打だからね。これは終わった後のインタビューでも絶対聞かれる名場面作っちゃったかなぁ。えーとインタビューの時のコメントも考えとかないとね。全ての成功のカギは僕の演技力の賜物です。これで行こう!


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