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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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第14話 自主練

本日4話目

 突然の事だけど僕は今、沖縄に居る。



「お、あまちゃん来たねぇ。今回はよろしく頼むよ」


「ッス! こちらこそ、よろしくオナシャァス!」


「あんまり緊張しないで良いよ。こっちが頼んでるんだし。あ、ご両親に挨拶しないとね。数日娘さんをお預かりしますって」



 そう言って朗らかに笑うのは、先日某番組で共演した星選手。僕と星選手が何故一緒に居るのかというと、これにはふかーい訳がある……訳もなく。


 端的に言うと、星選手からラブコールを受けたのだ。自主練に同行するバッティング投手としてぜひ来てくれないか、と。





 始まりは例の野球盤ゲームだった。



「え。プロなのに小学生の球が打てないんですかぁ?」


「……次、魔球来い! 魔球」



 ブーさんの悲劇(意味浅)の後、スズキチームがなんか今後は恒例になりそうなやり取りをした後、魔球係としての僕はゲームで大活躍した! 毎回のように出てきては魔球を投げ体をはる芸人さん達に見せ場を提供したからね。


 そして途中からはプロ側の煽りを受けて、スズキチーム・プロチーム問わず多くの魔球を投げる事になった。当然ブーさんたち捕手芸人さんが大変な事になったのだが、ままそれは良いとして。その時に星選手が尋ねてきたのだ。「君、全部同じ場所に投げ込んでるよね?」と。


 正直、驚いた。今まで魔球を何回も投げてきたけど、この事に気付いたのは星選手が初めてだったからだ。基本的に魔球は色々おかしな変化を起こすけど、基本的には最初に僕が投げようとした場所に向かって飛んでいくようになっている。途中でイナズマのように変化しようが分裂しようが……分裂は、本当に球が分裂しちゃったからともかくとして、全部僕が投げようとした場所に飛んでいくのだ。


 そしてそれがいつも同じ場所だという事に星選手は気付いたらしい。星選手は最初の空振りがすごく悔しかったらしくて、むしろ自分の打席の時で毎回「魔球こい! 魔球!」と僕との対決を熱望するくらいだったから、他の選手よりもよく見ていたのかもしれない。


 これに打者の視点で気づいた人は初めてだったから、僕も大興奮で頷いた。多分他にこの事を知ってるのはコーちゃんくらいじゃないかな。



「最初見た時から綺麗なフォームだって思ってたけどね。寸分違わず同じフォームで投げててビックリしたよ。君、どれくらい投げられる? ちょっと投げてみてほしいんだけど」


「あッス! あの、プロテクターとかは」


「良い、良い。あ、でも魔球は投げないでね?」


「それは大丈夫っス。勝負じゃなく練習なんで」



 それで番組が終わった後、片付けが行われる中で星選手相手に投球を行う事になり、その結果が沖縄旅行に繋がったわけだ。両親の旅行費用とホテル代も星選手負担である! やっぱプロ野球選手ってお金持ってるんだなぁ。太っ腹! 


 いやぁ、最初はおとーさんもおかーさんもうんって言ってくれなかったよ。お店の事もあるから。でもメインのお客さんになる学生も学校が休みで少なくなるし、最終的にはこういう機会じゃないと一緒に旅行なんていけないって泣き落としまでやっちゃったよ。


 という訳で僕が星選手たちの自主練に付き合うのは5日間だけ。一週間は沖縄に居る予定だから残りの二日は家族水入らずの旅行になるってすんぽーだ。



「あまね、星選手にご迷惑をおかけしないように」


「がんばってね。佐藤さんも、娘をよろしくお願いします」


「うん! おとーさんたちも水族館楽しんできてね!」


「お気をつけて。あまちゃんは責任もってお預かりします」



 僕を送り届けてくれた両親は星選手に挨拶した後、佐藤さんに頭を下げてグラウンドから離れていった。これは僕からお願いしたことで、試合観戦とかなら兎も角これからやるのは地味ぃな練習だし、野球観戦とかが趣味じゃないと見てても面白くないもんね。普段はお店の事があって夫婦水入らずなんて出来ないから、この機にゆっくりとして来てほしいんだ。


 それに、今日の僕には保護者役として佐藤さんがついてる。北埼玉デッドボールの正捕手である彼も暇を見てはうちのお店にご飯を食べに来てて、両親ともそこそこ顔なじみになってるんだよね。


 なんでも僕がいつも言ってるから一度食べてみたらハマった……って周囲には言ってるんだけどさ。僕がウェイトレスしてる時は露骨にテンション落ちてるから、おかーさん目当てで食べに来てるのは見え見えなんだよなぁ。



「ああ。アリスさん。アリスさん、アリスさん……」


「サトー、流石に人妻は駄目だろ」


「星さん。僕ぁね。僕は、あの人に邪な思いは抱いていないんです。純粋なんです。この気持ち、分からないかなぁ」



 キリリとした表情でそう口にする佐藤さんに、星選手や合同自主練に参加している若手の選手たちがうえぇ、みたいな表情を浮かべている。佐藤さん、ここで経験積んで次のトライアウトでプロに戻るんだって言ってたけど、この調子で大丈夫なのかなぁ。






「ゴンドーちゃん、次。同じコースに今度は逆の腕で。球種はカットね」


「あッス!」



 星選手の求めるコースに求める変化球を投げる。今回、僕に求められてるのはこれだけだ。魔球を求められていない、純粋なピッチャーとしての自分が求められている。投げる回数も多いけど、正直楽しいし嬉しい。


 女神様は最初の方こそガラガラを持って待機してたが、あくまでも練習であるとなんども伝えるとしょうがないにゃぁ、とやる気のない声で返事をして帰っていった。試合や勝負と練習の違いは、女神様もちゃんと分かってくれるのだ。前々からそうだとは思ってたけど、野球盤の件多分練習で確信した。どれだけ魔球を投げてもアウトにならないから、女神さまは練習に興味がないんだ。



「おっし、きゅーけい! 水分飲んどけよ」


「はーいっス!」


「サトー、お前もちょい休憩しとけ。次は緑豆、ケージに入っていいぞー」


「うーっす」



 大体30球ほどの特打ちをした後、星選手の指示に従ってマウンドを降りる。球種もコースもを指定されていたとはいえ、結構ポンポンとスタンドに運ばれてしまったなぁ。まぁ僕の球威のない球をしっかりスタンドへ運んでるのは、流石のパンチ力って言うべきなんだろうけど。



「あまちゃん、肩はどうだ。まだイケるか?」


「うん、全然大丈夫! 休みながらなら100でも200でも投げれるよ!」


「小学生にそこまで投げさせねーよ!」



 沖縄って12月なのに暑いんだね。ユニフォームの胸元をパタパタとしながらベンチに移動すると佐藤さんがそう声をかけてくるので返事を返す。話を聞いていた星選手が心外そうに横合いから声を張り上げたけど、ほら、僕としては気合的な奴で言っただけだからさ。



「んー、サトーには気安いのに他には他人行儀なのな」


「っス。やっぱ礼儀なんで……」


「俺にはいらんからさ。もっと自然にやろーよ自然に。のびのびしてる方がらしく見えるし。俺もあまねって呼ぶからさ」



 星選手はそう言ってドン! とキングサイズみたいなボトルのコーラを渡してくる。うお、これ1Lくらいあるんじゃないかな?



「これ、ファンからの差し入れな。あまね、なんかアメリカでも結構話題になってるみたいだぞ?」


「え、マジで……本当ですか!?」


「うん。ほら、あっちで手ぇ振ってる」



 星選手の指さす方に目を向けると、そこには僕の投球姿がプリントされたTシャツを着たガタイの良い白人さんと黒人さんがこっちに手を振ってるのが見えた。え、あんなシャツ見た事ないんだけど。僕、いつの間に肖像権を侵されてたの!?


 休憩に入った星選手に話を聞いてみると、なんでも最近海外の方で話題になってる動画共有サービスって奴で僕の魔球動画が流行ってるんだって。まだ魔球を大っぴらに投げ始めてから半年も経ってないんだけど、みんな耳が早いんだね。



「ちなみにあの二人、メジャーのスカウトな」


「はえっ!? メジャーってあの? 長さを図る」


「そっちじゃないなぁ。俺、何年か前までメジャーでやってたろ。その頃の伝手で連絡が来てな、お前連れて自主練やるって言ったら是非見に行きたいって言われたから呼んだ」


「へぇ……僕を見たいなら北埼玉デッドボールの試合を見に来ればいいのに」


「そっちだと興行向けにしかやらないだろ? あいつらがみたいのはお前がマジで投球してる姿だよ」



 星選手はそこで言葉を切って、やたらとデカいコーラに口をつける。これどこで買ったんだろ……米軍基地の中? どうやって入るんだいったい!



「魔球は込みで、それを含めてお前がどういった投手なのか興味津々みたいだな。その年で、しかも女がメジャーで注目の的なんて聞いたことないよ」


「はぁ……現実感ないっス」


「そうだよなぁ。俺も同じくらいの頃におんなじこと言われたら、多分そう言ってたと思う」



 ケラケラと笑って星選手は立ち上がる。うお、もうコーラ飲み終わったの!? って思ったら半分以上残ってた。ま、まぁそうだよね。僕もどれだけ飲めるかなぁ、これ。



「俺は多分、そろそろ引退だ。流石に加齢には勝てねぇってかボールの見極めが昔ほどじゃなくなっちまった。だから、後輩たちに残せるもんは残したい。お前を呼んだのもその一環なんだ。セコいって思うか?」


「メジャーにアピールって事です? プロなら結果が全て。使えると思ったらどんどん使うのが当然だと思うっス。それに家族まで連れてきて貰ってるんですから! ガンガン手伝っちゃいますよぉ!」


「あんがとよ。けど、俺としてはお前の投手としての才能もバッピとしての適性も評価してる。球速なんて関係ない。練習したいコースに左右それぞれの投げ方で多種多様な変化球を放り込める奴なんて俺はお前しか知らんよ。まさか30球。狂いなく全部同じ場所に投げ込まれるとは思わなかった」



 そう口にして星選手はサングラスを手に、バットを持ち上げる。



「今回の自主練じゃ徹底的にあいつらの弱点を鍛えてもらいたい。報酬は家族旅行と美味い飯、だな。金銭は色々不味いから勘弁してくれ……どうだ、やってくれるか?」


「――了解です。もう嫌だってくらい弱点攻めしちゃいますよ!」



 振り返った星選手の挑発的な視線に、僕は満面の笑みでそう返答した。


 この宣言通りに僕はこの後、参加した若手5人に嫌というほど多種多様な投げ方で苦手コースを攻める特訓を施した。もちろん皆プロ野球選手だから苦手なコースでもある程度は弾き返せるんだけど、それでも得意なスポットに比べれば打ち損じが多くなる。その打ち損じを減らすための特訓って事だ。


 苦手だと思う部分ってのは、この打ち損じが多いと自分で思ってるから苦手意識があり、余計に改善するのが難しくなったりする。逆に良い当たりを繰り返せばこの苦手意識を払しょくできたりする。意識って結構大事で、取り組み方にも影響が出たりするんだよね。


 だから僕は徹頭徹尾、その選手が苦手だと言われているコースにボールをひたすら投げ込んだ。同じ場所に何度も投げれば、徐々に体がそこの打ち方を覚えていく。打ち損じがへって良い当たりが多くなれば、少なくとも意識だけは切り替えることができるはずだ。


 僕とプロの球とじゃ威力がまるで違うから、僕が出来るのはここまで。後はその人の取り組み次第だけど、星選手としてはそれだけでも十分らしい。


 若手5人に「鬼! 悪魔! ゴンドーちゃん!」と呼ばれながらも5日間の間ひたすら弱点を攻め続け、そこで僕はお役御免。これで良いイメージを持って来年につないでくれればいいんだけどね!


 自主練にそのまま残るという佐藤さんと離れて両親に合流した僕は残り二日間、沖縄旅行を楽しんだ。いい仕事をしたあとの休暇は最高だね。ケーちゃんやコーちゃん、それにあすみちゃんにもお土産買ってこうっと!

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