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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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第139話 甲子園決勝 浪速通天閣大付属②

「監督」


「おう。どうした?」


「僕、最後で良いんでこの試合投げたいです」



 久留米さんと雑賀さんの勝負を眺めながら、僕は星監督にそう伝えた。星監督はそれに何も答えないで僕に視線を向けて黙り込む。たっぷり数十秒ほどの沈黙の後、「そうか」とだけ口にした。


 僕の伝えた最後という意味を、理解したんだろう。場合によっては、というか高野連の対応によっては、今日が僕の高校野球最後になる可能性もあるからだ。この試合でマウンドに上がるって事は、明確に魔球禁止って言われてるのに魔球を投げるって意味だからね。水鳥先生バリアーも通じないのはもう星監督にも伝えてある。マウンドに上がれば、僕は間違いなく魔球を投げることになるのだ。



「決意は固いか。まぁ、そうだな。ここで投げないなら、お前じゃないわな」


「星監督の中で僕の評価がおかしい件について問いただしたいんですけど」


「自業自得だろ。俺は、お前ほど狂った野球観を持つ野球選手は他に知らんぞ。なんでプロじゃなくて甲子園が目標なんだよ。将来の選択肢に興行プロデューサーとプロ野球選手が並ぶ奴なんて今後出てこねーよ絶対に」



 星監督は貶してるのか褒めてるのか良く分からない言葉を、愚痴でも言うかのような表情で口にした後。思わず耐えきれなくなったというように吹き出して笑い始めた。



「ま。だからこそ俺もよ。お前とここに来たくて他の誘い蹴ってここに居るんだけどな。まぁ、ヤバそうだったら俺も一緒に頭下げてやるよ」


「え。責任を取るのが大人の役割では……?」



 僕の言葉に監督は僕の帽子を奪い去り、あすみちゃんと一緒になって僕の頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜてきた。ちょ、ちょっとなんであすみちゃんまで加担してるんだよ!? 暴力反対! ぼうりょくはんたーい!!


 なんていつも通りくだらないやり取りをしている間に、雑賀さんは久留米さんをフライアウトに仕留め、続くコーちゃん、森さんと連続でゴロアウトに仕留める。この回、雑賀さんの球数は7球ほど。久留米さんほどじゃないけどとんでもない省エネピッチングだ。



「こりゃダメだな。各自、最低でも5球は粘れ。あいつが元気いっぱいの内はまぐれ当たりしか狙えねぇぞ」



 星監督の作戦案にチームメイトたちが大きな声で返事する。多分、向こうのベンチでも久留米さん相手に同じことやろうとしてるだろうね。そうなってくると途端に試合の絵面が地味~になっちゃうんだけど、そこは野球の神様もドラマを待ち望んでるみたいだね。


 ガッグギィィィン! と金属バットが白球を打ち返したとは思えない鈍い音を立てて、白球が空を飛ぶ。振り返るまでもない。あの勢いであの角度なら、スタンドの上段まで飛んだだろうね。



「……網走ぃ!」


「久留米さん。一昨年の借り、熨斗つけてお返ししますわ」



 1年生にして間違いなく高校最強打者に君臨する男。網走極の一発が、まず試合を動かしたのだ。





 一発撃たれた後の久留米さんは凄かった。鬼神でも宿ってるんじゃないかって憤怒の表情でボールを投げて、相手バッターのバットと腕をどんどん破壊していく。あ、腕は比喩表現だよ? 大体のバッターが久留米さんのボールを打った後に両腕を震わせてるから大分シビレてるんだろうなって事だ。


 当然、そんなもん打っちゃったらピッチングに影響が出るかもって事で雑賀一さんはバットを振りもせず、バッターボックスの一番外で3球投げ込まれるのを眺めてた。うん。誰だってそうするよね。僕だって同じ立場ならそうしたかもしれない。


 まぁ追いかける立場の僕らにはそんな贅沢は出来ないんだけどランダムストレートを攻略する事がほんとーに難しい。バッターの手前でランダムにボール半分くらいズレてくるから、絶対に打ち損じるんだよ。あんなんプロでも決め打ち以外対応できないんじゃないかな?


 雑賀一さんは大卒や社会人も含めてアマチュアナンバーワンって呼び声も高い選手だから、納得のつよつよピッチャーだよ。これで普通の変化球もキレるってのが怖いよね。ただ、むしろこっちとしてはそのキレる変化球の方が狙い球になるってのがねぇ。



「守備の良いチームだからここまで猛威を振るっちゃいるが、三振を奪う力は相良や江洲ほどじゃない。三傑か。確かに、それぞれとがった部分で拮抗してる三人だな。エース先輩の今の球を受けて見たかった」


「お。コーちゃん浮気? 僕とケーちゃんと、あとオマケに諸星くんという者がありながら!」


「からかうなよ。今大会0登板」


「あんだぁ、テメェ」



 権藤あまね、キレたぁーーー! と幼馴染同士のキャットファイトを起こしながら試合は進み、僕の第二打席がやってきた。1アウトランナーは1塁トロ子ちゃん。そう。一塁トロ子ちゃん(鈍足)である。



「あの。多田野さんちょっと。ちょっとそれは卑怯じゃないです?」


「お前が普通のネコ娘なら俺たちもこんなことはしなかったがな」


「ネコ娘に普通もなにもないのでは??? 僕、訝しんでますよ???」



 そう。このバッテリー、今日は9番に座っているトロ子ちゃんにランダムストレートを投げずにヒットを打たれたのだ。これ多分わざとだね。変化球を投げて長打が出ないように勝負したって意味で。多分ランダムストレートが本当に割とランダムで変化するせいで、パワーのある相手だと出会い頭のホームランが起きるかもしれないってのと、僕の前にトロ子ちゃんが居れば僕の足を活かすことが出来ないって計算が働いたんだろうけどね。どこでも打法だと絶対にトロ子ちゃんを返せないしね!!!


 僕としては、2アウトの場面ならなんの遠慮もなく三塁からホームスチールでもかましてやろうと思ってたんだけどね!!! それならまだワンチャンあったんだ……あったんだよ……


 く、クソがぁぁぁ! とお口では決して言えない単語を頭の中で連呼しながら、どこでも打法で白球をはじき返してセンター前。1アウト1・2塁という絶好のチャンスに見えるけど実を言うとノーチャンスな場面であすみちゃんはお手本のようなゴロを打ってダブルプレーである。


 こ、これはどこかで点を入れんと本格的にまずいのでは。ああ、でもピンチだって考えると胸がドキドキしてくるのはなんだろう。もしかしてこれが恋……!?(トゥンク)



「違うわぼけー」


「あ。トロ子ちゃん。僕の盗塁潰しに利用されたトロ子ちゃんじゃないか! せめてもうちょい足も鍛えようよ!」


「……い、いいかえせねー」



 なんと珍しく僕がトロ子ちゃんを言い負かすという珍事が発生したが、まぁこれは甘んじて受け入れてもらうしかない。鈍足ってのはそこそこのレベルまでなら改善も可能だからね。トロ子ちゃんはそこよりも打撃や肩や守備を優先して伸ばしたから、今の結果になった。これはトロ子ちゃんの自己育成のミスって事だもんね。


 まぁ、その辺はこれからの2年でどこまで改善するか見せてもらうとして、なに。どしたん? 話聞こうか?


 うん。うんうん。ほー、なるほど。めちゃくちゃムカついたから次の打席で仕返しする、と。


 いいじゃん、乗ったよ。


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