第136話 準決勝 北海道試練大付属(なお)
『優勝候補北海道試練大付属、田中ケータに完封5-0敗北』
『久留米・田中・山田(女)の3エースVS雑賀・相良の2大エース対決。いよいよ決戦へ』
『史上最強打線同士の東西決戦へ。鍵はあまちゃん!?』
『夏より熱い球児たち――聖ザビー学園、その軌跡』
『結局投げるの? 投げないの? 魔球を求めるファン達の声が殺到!』
様々なメディアが準決勝を語っている。聖ザが数年前、怪物を擁してハレンチ王子と甲子園を沸かせた北海道試練大付属をほぼ完ぺきに抑えきって勝ち上がったからだ。横浜ブルーライト高校の時もそうだったけど、今回の大会前までは聖ザが選抜を勝ち上がれたのはフロックって評価が多かったからここでも北海道試練大付属が優勢って見てる人が多かったけど、ふたを開けてみたら5-0の完勝だ。
そりゃあメディアも騒ぐよね。日本人って弱小校の勝ち上がり的なストーリーが大好きだから。実際の聖ザはブライアン伯父さんが金に糸目をつけずに行った設備投資とトロ子ちゃんの入れ知恵でスカウトされてきた特待生たち、それにプロの環境を知ってる星監督の指導によってバリバリ一線級の強豪校なんだけど、傍から見たらほとんど2年と1年でチームを作った新興の学校だからね。
そんな若い年代のチームが歴史のある優勝候補を撃破して勝ち上がっていくストーリーは中々見ごたえがあるみたいで、今回の事で僕の事抜きでも聖ザは人気チームの仲間入りを果たしたはずだ。
さて、そんな聖ザと北海道試練大の試合だけど、基本的にはケーちゃんが無双した、で終わる。相手チームのバッターにもプロ注目の黒切さんって人が居たんだけど、この人以外はヒットを打つことも出来ずに北海道試練大は9回3安打で試合が終わったのだ。
ケーちゃんの強みは速球の質とコントロール、キレッキレの変化球に三振スタイル・凡打スタイルを試合中どころか一球毎に切り替えることが出来る柔軟性で……駄目だな。こんなのがグレプロの相手ピッチャーで上がって来たらなんだこのクソゲーってコントローラー投げちゃうよ。
唯一の欠点がまだ体が出来上がってないからMAXが140前後って事くらいなんだけど、ケーちゃんの速球は体感5km/hは速く感じるから余計に打てなくなっちゃうみたい。明らかにボールが来る前にバットを振り始めてる人が居るんだよね。もう新手の魔球じゃないかってくらいだ。
そしてこんなめちゃ強投手を誰よりもよく知ってる弟。田中コータが完ぺきに操縦した結果が9回3安打無失点と。ただ、ケーちゃんはこの結果でも安打を打たれた相手である黒切さんに「次は負けないっすよ」って言っちゃうメンタリティーだからね。まだまだ成長するだろうなぁ。ふふっ、怖い。幼馴染の才能の限界が見えないよ……!
所で肝心かなめの僕はじゃあ何をしていたのかというと、今試合はお休みをしていました。あすみちゃんやトロ子ちゃんと一緒にベンチスタートって奴だね。昨日150球以上投げたあすみちゃんは兎も角、僕が何故お休みをしているかというと連日試合がある度にマウンドに飛び込んだり飛び込もうとしたりする行動が流石にちょっとダメじゃないかと高野連の人に言われて、星監督が「チッ、魔球投げさせてやれよ反省してまーす」と返事をしたために今日一日はベンチ傍で試合中ずっと正座をすることになった訳だね。
あとは女子野球選手の体力的な問題も考えての事だ。負担が大きいピッチャーのあすみちゃんとキャッチャーのトロ子ちゃん、それにショートの僕は決勝前に休みを置きたいみたい。アンジー? 聖ザのセンターはほとんど仕事がないからむしろ出してくれってお願いしてた。特にケーちゃんや久留米さんの時は外野に飛んでくることが稀になっちゃうから暇になるんだよねぇ。
だからベンチスタートなのは飲み込むとしてもさ。聖ザだから正座ってなんだよ。こんなに何度も擦られるとお客さんも冷めるよ! 閉店ガラガラ!
って僕は思うんだけど何故か球場に来てるお客さんは僕が「魔球投げたいけど反省中」って小さなホワイトボードの看板を首から下げてる姿がお気に入りみたいで、試合中も「あまちゃん! こっち向いて!」とか「ほんなこつめんこいなぁ」とか声掛けされるんだよね。あの、もっとさ。僕のかっこいい姿とか見たくないです? ほら、マウンドの上に立つ僕とか。
「やっぱり勝ち上がってきたねぇ」
「春の覇者だからね!。網走と雑賀兄弟の三くんが入って打線も投手陣も厚みを増したし、春夏連覇に向けて盤石って感じじゃないかな」
もう一つの準決勝を生で見るために、僕は変装して水鳥先生の隣の席に座らせてもらった。作業スペースになってるためかここの両隣空いてるんだよね。こんないい席を3つも開けて水鳥先生になにをやらせるんだと思ったら、今回の甲子園の各試合ダイジェストを水鳥先生に漫画で書いてもらう企画をやってるらしい。
え、それ筆のスピード的に大丈夫なの? って思ったんだけどラフ画みたいなのを各試合の時に書いておいて、それを時間がある時に仕上げて雑誌に載せるんだそうな。水鳥先生、僕が思っている以上にとんでもない先生なのかもしれない。それにこのために水鳥先生は連載中の作品を一時休載しているそうだ。
「お仕事休んでまでどうして?」
「今年の甲子園は絶対に見とかなきゃいけないと思ったんでね。久留米くんに網走くん。そしてあまねちゃん。君が初めて甲子園に出るんだ、絶対面白い事が起きるでしょ」
僕の言葉に水鳥先生は目を輝かせてそういった。彼のスケッチブックには先ほどホームランを打った網走くんのスイングの瞬間が描かれている。水鳥先生は網走くんを気に入っていて結構な頻度でネット連載の『権藤あまね野球伝(仮)』にも登場させてるから、網走くんを書く時間が他の選手よりも圧倒的に速いし、それに迫力もある。いい画だな、と素直に思える一枚だ。
「明日の決勝。僕の方でも高野連に掛け合ってみます。せめて一打席、君が甲子園のマウンドに立つ姿がみたい。この場に居る全員が、きっとそう思って居るだろうね」
水鳥先生はそういって、視線を僕から外してスケッチブックに向き直った。
明日、か。うん、そうだね。折角甲子園に来たのに、ただの一度もマウンドに立たずに帰るのは、確かになにか違う気がする。なによりも。
【決勝戦! 甲子園の決勝戦ですよ権藤あまねさんが決勝戦に! ああ、女神は! 女神はもう!!】
――静まりたまえ! 静まりたまえー! 淑女が興奮しすぎるのは良くないと女神様も仰っていたでしょう静まりたまえー!
女神様のテンションがもう暴発寸前なんだよね。下手したら守備位置から魔球が発動して魔球で送球みたいな感じになっちゃうかもしれないよ!
いやでもこれで魔球投げちゃったら流石に温厚な高野連さんもブチ切れ不可避だろうし、でもそれをやらないと今度は女神様が……うごごごごっ!




