第135話 甲子園 ベスト8 西福岡西大付属高校
「ぐわら!」
「ふっ!」
「シャァ!」
「ハァ!」
「どりゃあ!」
西福岡西大付属高校のエース西中さんはMAX147km/hの速球を軸に縦と横の変化球で三振を奪っていくスタイルの投手だ。ストライクゾーン内を4つに分けて投げ分ける制球もあり、好投手と言っていい人だ。ここまでの試合でもほとんど失点を許さずにチームをベスト8まで勝ち上がらせてきた実力は本物。全国でも10人いい投手を上げろって言われたら名前が上がる人の一人だと思う。
ただ、今回ばかりは相手が悪かった。聖ザはケーちゃんがほぼ同じタイプの投手ってのもあって三振を取るタイプの投手には慣れてるのと、一つ前の試合で超高校級の三振を取れるピッチャーとぶち当たってたからね。エース先輩ほどの支配力を持っていなかった西中さんの球は聖ザ打撃陣のうっぷん晴らしのようにポンポンとスタンドに運ばれていった。
そして対する我が聖ザの投手はあすみちゃん。今日も今日とて縦ツインドリルをたなびかせ雄たけびを上げるお嬢様を、西福岡西大付属高校の打撃陣はガンガン捉えていった。花火大会かな? 3年くらい前に大牟田選抜と戦った時もこんな感じの試合だったね。
一試合前の投手戦が嘘のような乱打戦にお客さんたちもヒートアップ。やっぱりホームランは野球の華だからね。こんだけ景気よく花火が上がってればそりゃテンション上がるって。
「5回終わって9-7か。野球の試合じゃないみたい」
「ニシナカ、アスミも。ショーブニゲナイ。スゴイ」
「根性あるよねぇ。ただ、そろそろ目途たてないと次に響くよ」
西中さんもあすみちゃんももう100球超えてるのに互いに一向に逃げずにガンガン勝負に行くから、試合時間もちょっと長引いてきてる。あすみちゃんと相手チームのスタイルがかみ合いすぎてるんだよね。本当ならこういう場面だと僕かケーちゃんを登板させるのが良いんだけど、僕はマウンドに上がるとどうなるかわからないしケーちゃんはここを勝ったら明日のベスト4で登板するから出来れば切りたくない札ではある。
かといって久留米さんをあげるにしても、久留米さんもあすみちゃんと同系統だから向こうと噛み合っちゃってどうなるか分からない。そうなってくると後の候補は2年生の2番手さんかなぁ。ただ、2番手さんで西福岡西大付属の打線を抑えられるかはちょっと怪しい気がするんだよねぇ。全国で戦えないって訳じゃないけど、全国屈指の強打に抗えるかって言われると自信がない、みたいな。
「今日は私が投げ抜くわよ」
「えー。大丈夫?」
「投げ抜くわよ。死んでもケータくんの足を引っ張らないわ」
僕が心配していることを見抜いたのか、あすみちゃんはタオルで汗を拭きながらそう言った。おお、あすみちゃんから炎のような意思を感じる。そっか。恋愛弱者のあすみちゃんの数少ないアピールタイムだからね。気合も入るってもんって痛い痛い痛い。
「な、なんだよ急に! 僕は何も言ってないだろうが!」
「アンタの表情は万の言葉より雄弁なのよ!」
いきなり僕の頬を引っ張ってきたあすみちゃんの弱点であるツインドリルをぐんぐんと両手で引っ張ると、あすみちゃんも負けじと僕の両頬を引っ張ってくる。争いは同じレベル同士のものでしか発生しない。トロ子ちゃんというヒエラルキーの頂点の下、二番手を争い続ける僕とあすみちゃんの戦いはそのトロ子ちゃんによるダブル拳骨で幕を閉じた。
そして、この回からのあすみちゃんの変貌は凄かった。荒々しい雄たけびならぬ雌たけびはなりを潜め、急にセットポジションになって投げ始めたあすみちゃんはそれまでの剛速球主体のスタイルから一変。丁寧に四隅を使って相手の攻め気をかわす投球へと姿を変えたのだ。
あすみちゃんは元からコントロールは悪くない。ただ、その恵まれたクソ忌々しい長身と恵まれた身体能力から繰り出される速球を全力で投げ込むのが一番効率的にアウトが取れるからそれをやってただけで、やろうと思えばこういったような投球も出来はする。
出来はするけど、あすみちゃんプライド高いから真っ向勝負以外のスタイルなんて絶対にやらない……と思ってたんだけどね。
このままじゃ負けるかもって意識と、ケーちゃんに対する思いがプライドを捻じ曲げてでも勝ちにいく気概に変わったって事かな。うん。うんうん。そういう甘酸っぱいのお姉ちゃん大好物だよ。これはホテルに帰ったら女子会を開いて根掘り葉掘りきかないといけないよねぇ!
「という訳で勝利を祝ってぐわら!」
ガッキィン! と快音を響かせて僕の打球が空を駆け。レフト側スタンドの上段に飛び込んでいく。あ、ちゃんとグローブ付けてキャッチしてる。うん、ホームランの時はお客さんに当たらないか怖いからね。
最終的な点差としては15対8という野球よりアメフトとかそっちのスポーツに近い点数で試合は終わった。あすみちゃんは5回以降はスタイル変更のおかげで1点しか取られてないけど、本人的には納得がいかなかったのかツインドリルの先っぽをちょいちょいと自分で弄ってイライラしてるみたい。
むしろ嬉しそうなのはトロ子ちゃんの方かな。女子野球なら兎も角男子と戦う以上はあすみちゃんも真っ向勝負以外に手を付けるべきって再三言ってたからね。実際にスタイル変更をしてからは西福岡西大付属をほぼ抑え込めてたから、トロ子ちゃんの考えは間違ってなかったんだろう。
まぁ、終わったことは良いか。次の大会までにあすみちゃんが今の自分の実力で選べる道を選ぶのも、これまでの道に固執するのもそれはあすみちゃんの自由だし選択だからね。そんな事より早くホテルに帰って女子会を開かないと! 鉄は熱いうちに打てというしね。ポテチとコーラを持ち寄って尋問だよ! 尋問!




