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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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第133話 甲子園 ベスト16 対横浜ブルーライト高校後編

 化け物かよって今、エース先輩が言ってたね。


 マウンドに立つ横浜ブルーライト高校のエースの口元を見て僕はそう感じた。言葉は届かなかったけどアンジーを相手にして言いたくなる気持ちは僕にも分かる。ここまでアンジーを苦しめてきた手元で微妙に変化する直球を3打席目でスタンドに運ばれたら、思わずそう言っちゃうよね。


 主砲の一発で先制した聖ザは勢いに乗ろうとしたけど、そこは流石の優勝候補。後の打者はきっちりと抑えきり、更に7回裏に単打と四球で塁を埋めた後、5番に座るエース先輩がバットを凹ませながらもなんとか外野に運んで同点へと追いついてきた。


 ここまで久留米先輩の投球数は52。まだまだ元気いっぱいに投げてる久留米さんの球を外野に持っていくのは正直脱帽だよ。


 けれど、どうやら天秤はこっちに傾いてきてるようだ。エース先輩も頑張ってたけど、省エネピッチングになってる久留米先輩と違ってエース先輩はすでに100球を超えてる状態。僕やアンジー相手にここまで30球くらい使ってるからね。そこまで浮ついた球を投げてこなかった気力は本当にすごいけど、流石に体の方が限界なのか肩で息をし始めてるしたまーに指のかかりが悪い球がちらほらと出てくるようになった。ただ、そういうキレの悪いボールはストライクゾーンから逃がせてるのは流石の一言だ。


 でもね、エース先輩。


 僕のぐわら! は、悪球にも通じるんだよ!!



「というわけでぐわら!」



 ガッキィン! とワンバウンドしそうなクソボールを掬いあげて、バットが快音を響かせる。あ、でもちょっと勢いが足りないか。やっぱりキレ悪ボールじゃ反発が足りないなぁ。なんて考えながらも外野を転々と転がるボールを横目に、悠々と2塁に駆け込んだ。


 ここならダブルプレー上手のあすみちゃんでもゴロらないでしょ? と視線で問いかけると絶対に打つ、とあすみちゃんが視線で訴えかけてきたので、同じく視線でやれるもんならやってみなーと返しておく。ついでに鼻で笑うのもセットだね。


 ここまで発破をかけたんだからちゃんと打てよなって思うけど、あすみちゃんは粘ったものの7球で三振となった。もうちょっと頑張ってほしかったけどね。エース先輩の体力を少しでも削ったからまぁ良しとするかな!


 そして打席に入るのは我らが3番、ケーちゃん。その瞬間、肩で息をしていたエース先輩の口角が上がり、初回のような球の勢いが戻ってくる。相手によってテンション変わるのは僕もよくあるけど、露骨に元気になりすぎでしょ! もっと後輩を可愛がってよ!


 でもここで得点しないと次の打席アンジー敬遠だよなー頼むケーちゃん打ってくれー! と打席に立つケーちゃんに手を合わせてジェスチャーを送ると、ケーちゃんは小さく噴き出して帽子のつばをトントンと3回たたいた。歩いて返すのジェスチャーだ。しかも、ハラキリトルシニア時代のもの。それを見てエース先輩まで笑ったのが目に入る。そりゃそうだよね。意味わかったら予告ホームランじゃん。予告ホームランには悪い思い出があるだよなぁ。


 なんて僕が顔を歪めているとエース先輩が振り被り、投げて、そして快音が甲子園球場に響き渡った。僕の頭上を勢いよく飛んでいく白球に視線を向けるとぐんぐんと外野を超えていき、バックスクリーン上部に直撃する。その瞬間、それまでざわめきに包まれていた球場内が一斉に静まり返り、そして爆発するような歓声があがった。



「わーお」



 思わず呆れたような声が出てしまう。後ろから見ていたけど、エース先輩の今の球は初回に戻ったかのように力を取り戻した一球だった。初回には三振されたボールだった。それを、この場面でバックスクリーンに直撃させるのか。思わず主人公かよって言っちゃったよ。


 僕の手放しの称賛が届いたのか、ケーちゃんはベースランをしながらこっちに視線を向け、ズキューンと人差し指で僕を打ってきた。あの野郎、自慢してやがる! これは後で誰が姉なのかをきっちり理解(わか)らせないといけないね……!


 8回表に2点追加。このツーランは重い。今日の久留米さんの出来だともうほぼ勝負は決まったと言っても良い点差だろう。現に横浜ブルーライト高校の選手たちの顔からは、余裕が剥がれ落ちている。


 エース先輩以外は。



「ワンアウト! 打たせてくから頼むぞー!」



 大きく声を張り上げ、エース先輩は躍動した。初回を思わせるキレッキレのピッチングを取り戻し、なんとアンジーをフライアウトに仕留めたのだ。風が無ければスタンドインしてたかもしれないけど、結果はアウト。エース先輩の勝ちだ。


 続く久留米さんを三振に仕留め、そして次の9回表もエース先輩は3人をきっちりと仕留めきった。体力的には限界に近い筈なのに、もう逆転の目はほとんど残っていないのに最後の一球までエース先輩の球には力があった。このまま延長戦に突入しても、エース先輩は最後まで投げ抜いただろうね。


 でも、たった二回、真っ向勝負で打たれてしまった。それが、聖ザの勝因で横浜ブルーライト高校の敗因だったね。







「いやー。4回やって1回負けたら負けって言われるの納得いかねーなぁ」


「野球はチームが負けたら負けでしょ。エース先輩!」


「およよ。あまねちは負けちゃった先輩にもキビシーんだ」



 試合後。涙を流しながら甲子園の土を集める仲間の中、エース先輩はひょうひょうとした態度で話しかけた僕にそう言ってきた。マウンドの土を持ってかないんですかって聞いたら去年も一昨年も持って帰ったからなぁ、との事。ま、まぁ記念品だから持ってった方が良いんじゃないかな。将来何かの時に自慢できるかもだし。



「いや。今日の負けはケータに負けたみたいな気がするから持って帰らね」


「どんだけケーちゃん嫌いなんスか」


「嫌いじゃねーよ。羨ましーんだよアイツは」



 そういってエース先輩はじゃ、今度はプロでな。と言って背を向けた。同じチームに居たから知ってるけど、あの人はグラウンドの上では絶対にうつ向かない人なんだ。けど、帰りのバスの中でずぅっと悔しがるんだ。負けたことをじゃなくて、チームを負かせてしまった事を悔しがる人だ。チームを勝たせることがエースの仕事だって僕に教えてくれた人でもある。


 プロで、か。言われて初めて気づいたけど、そういえば卒業後はどうしようかな。実を言うと国内外から結構お誘いはもらってるんだけど、甲子園でいっぱいであんまり考えてなかったんだよね。


 エース先輩とプロの舞台で、制限なく投げ合う。そういうのも楽しいかもしれないね。



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